25
電車に乗って駅まで戻って、お馴染みのコンビニで夕食を買う。
ホテルに戻った時はさすがに疲れてへろへろで、それでも私は源ちゃんの部屋で一緒に食べることにした。
「あー、疲れた…でも夜景キレイだったね」
「うん…さっさと食べて寝よう」
この部屋で夕飯を源ちゃんと摂るのも最後か。
若いとはいえ日中の暑さと歩いた疲労が全身体内まで染みていて非常に気怠い。
「源ちゃん、そのうどん気に入ったの?」
「うん、こっちの方が好き。今度取り寄せようかな」
「良かったねェ」
源ちゃんは関西出汁のカップうどんを、私は今夜はおにぎりと即席の味噌汁にした。
「脚もパンパンだ」
「うん…でも源ちゃんのおかげで楽しかったよ」
「そう?そりゃ良かったよ」
連日の観光で源ちゃんは地図と地形を把握してさくさくと進んで動いてくれて、初めてとは思えないほどにスムーズな観光ができたのだ。そういうところも頼れるよね、私しか知らない素敵な姿をこの旅行ではたくさん見せてもらえた気がする。
肝心の好意に関してはまだ何とも言えないけれど、ふぅふぅとうどんを吹く穏やかなこの横顔も並んで見上げるあの横顔も、決して嫌いではなく隣に居て心地よいものだった。
そして近い未来にあるかもしれない別離の道…それを思うとひとりになりたくなくて、むしろもっと一緒に居たいと感じてしまっていた。
「……美味しかった…よし…じゃあ部屋に戻ろうかな…」
「うん、」
「…明日は…お母さんを見て…また駅に戻る感じで」
「そうだね」
「またロッカーに荷物入れて、だね」
「うん、」
私は食べ終わっても席を立たず、明日の予定を無用に披露する。それは帰りの電車の中でも確認しているし源ちゃんのことだから一度聞けばばっちり記憶しているはずなのに。
「……もう、終わっちゃうね」
「うん?うん…ごちそうさま、モモちゃんどうしたの?」
「いや、地元帰ったら…夏期講習が始まって…また日常に戻っちゃうんだなって…進路希望も出さなきゃいけないし…止まってた時間が進み出しちゃうみたいな…変な感じなの」
将来に関しては私はまだ何も目指すものが無くて、今回種々の職業の方の働きぶりを見ては「私は何になれるんだろうか」と不安になってしまった。
何かを売ったり、何かを動かしたり、何かを保全したり、何かを造ったり…私はこの先、何のプロになれるのだろう。
「…まだ第1回の調査だから、偏差値が合いそうなところを適当に書いて出せばいいじゃない、模試でも書いたでしょ?」
「うん…そう、なんだけど…まだ、やりたいこととか無くってね、いろいろ…先に進むのが…日が…時間ばっかり進むのが嫌になっちゃって…本当はね、この旅行も…現実逃避とかそんなのも含まれてて…」
「そう…」
源ちゃんは空になったカップを持って立ち、私が座る椅子の足元へ置いていたポリ袋へと割り箸と共に入れ備え付けのゴミ箱へと押し込んだ。
そして私の横へ戻り両膝をつき、
「モモちゃんはなんだってできるよ、器用だし努力家だから」
と潤んだ目を真っ直ぐ見つめる。
「……そう?」
「うん、なんだってキチンと勉強するし練習するし、すぐにやりたいことが分からなくっても…選択肢を沢山作っておけば何にだってなれる」
「褒めすぎ」
私が照れ笑いを見せれば、源ちゃんも腫れぼったい目を細めて笑った。
「本当に言ってるんだよ……それに、いざとなればうちの店を継げばいいよ。モモちゃんならいい女将さんになれる」
「……『えっちゃん』を?」
「うん、弟子入りして、店名も『ももちゃん』に変えちゃえ、ふふっ」
「…あはっ…そっか、今度悦っちゃんに…頼んでみようかな…」
どこまでが冗談か分からないけど母親の店を差し出してくれるその気持ちが嬉しくて、私はぼんやりと「お店屋さんもいいな」なんて少し心が軽くなる。
候補のひとつとして道筋をもたらしてくれた、そして
「いざとなったら、ね。僕も通っちゃうよ」
と彼が存在をアピールしてくれると変わらない関係と未来があるのだとホッとした。
「源ちゃんの家じゃん」
「うん、モモちゃん目当てにお客さんも増えるよ」
「やだァ、もう…ふふっ……ありがと、源ちゃん、」
「うん……いつだって、応援してる。僕はモモちゃんから離れないから」
その素直で曇りのない眼差し、膝を折っても目線の揃うほど大きく逞しく育った身体。
至近距離で見つめ合えば、どくん、と心臓が胸を打つ。
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