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 予定通り翌日は神戸まで足を伸ばし、1日かけてガイドブック丸写しの観光をしてみた。


 さらに翌日の今日は昼から出掛けて明石焼きを食べて、淡路島に繋がる大橋の最寄駅周辺を散策している。

「暗くなってきたね…あ、キレイ、」

「うん…キレイ」

「すごい…きらきらして…」

「光ってる」

 ピンクの夕焼け空に無機質な白い吊り橋が浮かんで、ゆらゆら揺れる青い水面にライトが反射して。夢のような幻想的な景色に私達はうっとりとしてしばし語彙力を失った。

「こんな大きな橋…すごいね」

「車があったら…四国も行ってみたいな」

「うどん…讃岐うどん、食べたいね、硬いやつ」

「うん…全国のうどん…制覇してみたいね…」

 源ちゃんは瞳にライトを映して、まだ踏破したことの無い海の向こうを想像しては橋をよくよく観察しているようだった。

「…模型、作りたくなってる?」

「ふふ、うん…時間があれば調べてみようかな」

「夏休みの思い出が夏期講習だけじゃ寂しいもんね、源ちゃんと来て良かった」

「こちらこそ、付いて来て良かったよ…ありがとう」

「どういたしまして…ふふ」


 陽が完全に沈んで空が紫から群青に変わって、チラチラ星の瞬きも目視できてくる。自宅の2階で話す時も周りはこんなに暗いけれど、ここまで大きく開けた夜景はなかなか見られないので新しい世界にぞくぞくと背中を震わせた。

 観光客の声と車の音は絶えず聞こえるけど私達は特に会話の邪魔をされることもなく、普段通り淡々と何でもない話をしては「橋、キレイ」に戻っていく。


「(楽しいなァ…ずっとこんな…夏休みだといいのに……ん、)」

 その時、近くを通った大学生らしきグループから「ゼミがさぁ、」という言葉が聞こえ、私の脳裏にまた「学業」がシュッと滑り込んで思考を占拠し始めた。

 振るわなかった模試結果、まあまあの期末考査。私より賢い同級生がこの日本に沢山いるんだ…開けた視界で自分の小ささを感じてしまい、また遊び呆けていることに妙にざわざわと心がうるさくなる。


「……モモちゃん?どうかした?」

「え、あ……あの…源ちゃんは…この前の模試、志望校はどこ書いたの?専門学校にするって言ってたけど、大学も書いた?」

 これは彼が理系で自分とは分野が違うから聞けた質問、おそらく同じ文系志望なら尋ねていないはずだ。

 だって源ちゃんは優秀で成績も上位クラス、真っ向から勝負しようなんて思わないくらい私の先を走っている。もしも私と同じ近隣の大学の同じ学部をS判定など貰っていたら…お門違いの嫉妬で源ちゃんに当たり散らしてしまうかもしれない。

「んー…空欄でも良かったんだけど、担任からは4大受けろって言われてて…自宅から通える範囲の大学にした。結構…迷い始めてる。夏休みにオープンキャンパスあるから近い所を見てみようかなって…思ってる」

「そ、そうなんだ…」

大学も考えてるの?私は勝手に置いてけぼりの空気を感じて暗がりに作り笑いで唇を引きつらせた。

「でも行きもしないのに記念受験とかもったいないでしょ?うちは…まぁ父さんの遺産で学費は賄えるし奨学金も貰う予定だけどさ、本当に本気の受験しかしたくないんだよね」

「うん…」

「でも資格を考えると、東京・広島・大阪の三ヶ所しか無いんだ、学力と定員から言うと東京は難しいかも」

「え…引越しちゃうかもしれないの?」

 劣等感を処理できないうちに次の衝撃、源ちゃんが遠くへ行ってしまうかもと想像すると心が特大の銃弾でぶち抜かれたように熱くなり痛み出す。

 なんだかんだで高校を卒業しても隣に住み、家から仕事に出て行くのだと…私はそんな幼稚な考えを持っていた。様々な将来像を描きつつも、自分は県外へ出ることがあっても、源ちゃんだけはそこに居てくれると思い込んでいたのだ。

「うん…大学を考えるならね…でもさ、専門でもよその地域に出た方が良いのかなって。今回の旅行で…いろいろ思うことがあってね、関東と関西の差とか、都会と田舎の差とか、僕はこのまま地元から出ずに一生を終えちゃうと、人間として浅~い生き方しかできずに死んじゃうんじゃないかって」

「そんな」

「便利でさ、人もあったかくて好きなんだけど…もっと世間を知った方が良いんだろうなって…頼り甲斐のある大人になるんじゃないかなって…そう感じたよ」

「そう、なんだ…」


 もやもや、ざわざわ、心に忍び寄るのはこの先…漠然とした未来と、来週から始まる「夏休み」とは名ばかりの勉強漬けの日々。

「(源ちゃん…やだな…いつも一緒に…)」

「…まぁ受験までに夢も変わるかもしれないし…未定、未定だよ」

「うん…」

「どうしよう、ぼちぼち駅まで戻ろうか」

「う、うん、」

私はまるで別れを切り出されたガールフレンドの様に落ち込んで、ぎこちなく源ちゃんの少し後ろを付いて歩いた。

「どうしたの」

と聞かれれば

「何でもないよ」

と答えるしかない。

 勝手に私がショックを受けているだけなのだから。

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