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「わァ………えへ♡」

 当然だけどそれぞれに部屋を取ったのでシングルルーム、私は初めてのビジネスホテルの様相にうきうきして、まず整えられたベッドへ全身でダイブした。

 ばふんと跳ね返すスプリングと掛け布団の弾力。シワの無い清潔なシーツは学校の保健室とか形成外科のベッドを彷彿とさせる。


 夕飯の時間まではこのままダラダラしていよう、と目を閉じかけたら母からメッセージの着信があった。


『こっちに来てるの?うちの店にも寄って行ってよ』


 挨拶のスタンプとまるで呑み屋のママの様な誘い方、松井さんから母へ連絡があったのだろうな、私はクスリと笑い返事を打つ。


『やっほー。お母さんの彼氏を見たかったんだ。いい人そうだね』

『そうよ。彼から聞いたけど男の子と来てるんだって?』

『源ちゃんだよ。ついて来てくれたの。保護者だって。この連休中はこっちにいるつもり』

『なおさら会いに来てよ。お金足りる?うちに泊まればいいのに』


 家に行けば松井さんとも引き合わされるかもしれない。彼はいい人そうだったが私はまだ…母が女の顔になるところを目の当たりにしたくはないのだ。

 それに無防備な母を源ちゃんが見て興奮とかされても、そこに私を投影されても困る。


『大丈夫だよ。お小遣い貯めてたから。』

『学校はずっとお休み?』

『8月はお盆以外の平日は夏期講習でね、みっちり勉強だよ』


 自分から発しておいてだが、楽しい旅に学業の影がチラついて胸がちくんと痛くなった。それは試験の後の全国模試で志望校にした大学の判定が芳しくなく…それはさておき旅行だ、と気分を切り替えて飛び出して来ていたからだ。実を言うと1泊でも良かったのだが、浮世離れして将来のことを一時的に忘れたくてたっぷり3泊も入れてしまった。


『そう、しっかりね。ちょっとでもいいから顔見せてね。休憩終わるからまたね』


 夕方休憩だったのだな、サヨナラのスタンプを送って既読が付いたのを確認してから源ちゃんへ夕飯の打診電話をする。

「もしもし、晩ご飯どうする?食べに出る?」

『んー、それは明日でいいかな。近くのコンビニで買おう』

「おーけー、もう行く?」

『うん、支度するよ』

「分かったァ」


 時刻は17時、薄暗くもない空を窓から確認して、帽子と鞄を持って廊下へと出た。

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