マリアと幸せ

第42話

夕方、少し早めにまりあの家に戻った3人。

家に戻ってもまりあには休む暇などなく、いつも通り夕食の準備を進める。

その間翔人の面倒を見るのが日課になってきた聖也は、今日は公園で遊ぼうと翔人に提案した。




「まりあ、すぐそこの公園に行くんだけどいいか?」


『いいですよ。あんまり遅くならないように帰って来てくださいね?』


「あぁ。じゃあちょっと行ってくる」




軽めのキスを交わすと玄関から翔人の催促する声が聞こえたため、聖也もまりあに見送られ彼らは家を出た。

今日は外で遊ぶつもりなんだと思っているまりあだが、聖也は外で遊ぶために公園に行こうと持ちかけたのではない。

先程水族館で話していた例の話…それを翔人とするつもりだった。

外でしたほうがまりあにも聞かれなくて済むと思ったのだ。

公園に着くなり、遊具ではなく少し離れた所にあるベンチに2人並んで座った。




「俺に言いたい事があるのか?」


「うん……」


「言ってみろ?」


「あのね…僕とママとおじさんのね?3人で家族になれたらいいなって…」


「俺が翔人のパパでもいいのか?」


「だっておじさんママの事好きなんでしょ?」


「あぁ」


「ママもおじさんの事好きなんだよね?」


「あぁ、そうだ」


「ならおじさんは僕のパパになれるでしょ?」


「それはママに聞いてみないとわからない」


「どうして?」


「好きと父親になるという事は全く違う事だ。まだ翔人には難しいだろ?」


「…わかんない」


「そうだろうなぁ」


「じゃあママがいいよって言ったらおじさんは僕のパパになれるの?」


「まぁ翔人はそう思っていればいい。やっぱり父親がいないと寂しいか?」


「…うん。ママには内緒にしてくれる?」


「あぁ」


「友達はね、休みの日になったらパパに遊んでもらうんだって言ってた」


「まりあだって遊んでくれるだろ?」


「そうだけど……」


「けど?…どうした?」


「ママとは一緒に本を読んだり保育園で習ったお歌を歌えないでしょ?友達が言ってた、お歌や絵本の内容をパパに教えてあげて一緒に歌ったりするんだって。僕いっつも1人で絵本読んだりしてるから…」


「うらやましいのか?」


「うん…」


「だからDVDを見たりしてたのか…」


「それだったらママも一緒に見れるでしょ?」


「…なぁ翔人、翔人は声の出ないママが嫌いか?」


「嫌いじゃないよ?嫌いじゃないけど…友達のママみたいにお話出来ればいいのにって思うんだ」


「翔人、それだけはまりあに絶対言うな」


「どうして?」


「まりあが悲しむからだ。俺は声が出なくてもまりあの事が好きだ…だからまりあの悲しい顔を見たくない」


「うん…」


「翔人にはよくわからないかもしれないけど、まりあはいつも一生懸命頑張ってる。声が出ないから大変な事もきっと多い…それでも俺や翔人に優しくしてくれるし、美味しいご飯だって作ってくれるだろ?」


「うん!」


「だからママの事は大事にするんだ。もし本が読みたくなったら俺に言えばいい。歌だって一緒に歌ってやる」


「ほんとっ?!」


「あぁ。だからさっきの話約束出来るか?」


「出来るっ!」


「良い子だ」




翔人の気持ちも晴れたようで、そろそろご飯が出来る時間だろうと2人は手を繋いで家へ戻った。

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