第34話

「ほらっ、欲しかったんだろ?」




小さなショップバッグを渡されるも、まりあはそれを受け取るのを拒んだ。




『受け取れません』


「どうしてだ?」


『こんなに沢山申し訳ないです。それに買ってもらうつもりなんてなかったですし…』


「言っただろ?お礼は必ずする…これは俺からのプレゼントだ。遠慮せずに受け取ってくれ」




右手にショップバッグを握らせるものの、彼女の表情はやはり曇ったまま。




「これでまた綺麗になれるなぁ?」




彼の口から発せられたとんでもない一言に、まりあは目を見開き聖也のほうをじっと見た。

またという事は以前から自分を綺麗な人だと思っていてくれていた事になる…まさかそんな事あるはずがない。

それでも彼女の頬は少しだけ赤く染まっていた。




「この前の鏡と一緒に使ってくれれば俺は嬉しい」


『本当にいいんですか?』


「もちろん。まりあは特別だ」




特別…その言葉は本来大切な人に贈る言葉であり、なぜこんな自分にそのような事を言うのか…そこには深い意味はなく彼がただ無意識に口にした言葉なのだろうか?そんな疑問を抱きながらも、そろそろお昼だからとデパート内にある飲食店へ場所を移した。




「…本当にここで良かったのか?」


『はい』




まりあには好きな店を選んでいいとは言ったが、これは予想外だった。

流行りの店やお洒落なカフェのような所を選ぶと思っていたのだが、彼女が選んだのはごく普通の定食屋…まりあぐらいの年頃の娘よりは、どちらかと言うとサラリーマンや年配の人が気軽に立ち寄りそうな店だ。

こんな可愛らしい格好をしてまさかこんな店を選んでくるとは…




「気を使ってるのか?」


『いえ、カフェとかあぁいうお洒落なお店はあんまり行かないんです。こういうお店のほうが落ち着くしお腹いっぱい食べられるじゃないですか?』


「まぁ…そうだなぁ?」


『もしかしてお嫌いですか?こういうお店』


「いいや」


『ならよかったです』




意外性を感じたものの、彼女の曇った表情は晴れいつもの明るいまりあに戻っていた。

いわゆるギャップというやつだ。

彼女の新たな一面を見る事が出来て聖也は嬉しかった。




「どれを食べるんだ?」




まりあが指を指したのはハンバーグ定食…しかも丁寧に卵まで乗せられている。

食の好みはまだ幼さが残っているのかと思うと、また更に彼女の存在が可愛くなった。




「好きなのか?」


『1番好きな食べ物なんです』




少し照れくさそうに携帯の画面を見せる彼女もまた可愛く、2人でそれを注文し料理が運ばれてくるのを待った。

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