第33話

「よく似合ってる」


『ありがとうございます』




嬉しそうな顔のまりあを見ていると、こっちまで頬が緩んでしまう…まだ数日しか付き合いがないのに、彼は相当まりあに惚れ込んでしまったようだ。

2人は早速デパートに向かう事に…当然昨日と同じように2人並んで歩いた。

聖也にとっては当然の事だが、やはりまりあはドキドキして少し落ち着かない。

何よりこんなルックスのいい男性の横を自分が歩いてもいいのか不安だった。

聖也は聖也でクールな顔をしているが、内心大好きなまりあとこうしてデートが出来るのが嬉しくてかなり上機嫌のようだ。

終始彼女のほうを見ては頬を緩めている。

それほどまりあが可愛くて仕方なかった。




「ここだったよなぁ?」




デパートに到着し店内に入るも、平日のお昼前なのにも関わらずお客さんは多かった。

2人は早速化粧品売り場へ移動。

お目当てのコーナーは新作発売日ともあり人が混み合っていた。

まりあも例のリップをチェック…元々買う予定だった物や、前から気になっていた物も全て…やはりどれも自分好みで可愛い。




「こっちは見なくていいのか?」




聖也が手にしていたのはあえて見ないようにしていた新作の赤リップ。

いつの間に取ってきたのだろうか?いや、そんな事より選択肢がまた1つ増えてしまった。

まりあの手に3本のリップと、今聖也が持って来た1本のリップ…合計4本のリップで悩む事に。

彼女はひたすらそれらを見つめた…いや、ほとんど睨み付けているのに近い表情だ。




「悩んでるのか?」




そう声をかけるも、まりあはリップのほうを見つめながら一瞬頷くだけ。

女の買い物が退屈という訳ではない、むしろ慣れている。

こういう時いつもなら女はねだってくるのだがまりあはそんな素振りを見せなかった。

どれか1本にしぼろうと真剣な様子…そんな彼女との買い物は新鮮だった。




『どれがいいと思いますか?』




突然携帯の画面を見せられハッとするも彼の答えは当然…




「全部だ」




その答えにまりあは更に困惑した様子…どれか1つにしてと言いたそうな表情だ。

もちろん彼には最初からそんなつもりはなく、何も言わずにまりあの手から全てのリップを自身の手に…




『やっぱり右端のピンクベージュがシンプルでいいですよね?』


「そうだなぁ…」




意見が合い聖也からリップを受け取ろうと手を伸ばすと、彼はまりあではなく後ろにいた店員にリップを渡しはじめた。

そして彼女の耳を疑うような一言が…




「これを全然」




まりあの思考は一瞬停止…確かに今聖也は全部と言った。

1本4,000円は優に超えるリップを4本全然……?慌てて彼を見るも、既に店員とのやり取りは進んでおり商品を受け取っている最中だった。

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