第30話
「明日楽しみだな」
今まさに自分が考えていた事を口にする彼に、一瞬考えを見透かされているのだろうかと思いドキッとした。
『聖也さんも楽しみですか?』
「もちろん。まりあといれるだけで俺は楽しい」
なぜこの人はこんな恥ずかしい事をサラッと言えるのだろう…
『そんな事言われると恥ずかしいです』
「でも事実だ」
聖也は伏し目がちにまつ毛をパチパチさせる彼女の姿を見るのが好きだった。
本当に素直でわかりやすい娘…だからこそ自分が守ってやりたいとも思えた。
他の男じゃなく自分に染まってほしい…
『言われた事ないので緊張するんです』
「俺はしない」
『意地悪なんですね』
「そうだなぁ」
見つめ合い楽しそうに笑っている2人の様子を翔人はこっそり見守っていた。
もしもパパが家にいたらこんな感じなのかなと幼いながらに想像した。
本当の父親を知らないし聖也は血の繋がりもない赤の他人だが、この人に父親になってほしい…翔人は強くそう望んだ。
お風呂から上がった翔人に気付いた彼はこっちにおいでと声をかける。
嬉しそうに駆け寄り、3人で並んで座る姿はまるで本当の家族のようだ。
「ママといても楽しいけどおじさんがいるともっと楽しいっ」
「俺もまりあと翔人といるのは楽しい」
「ほんとっ?!」
「あぁ」
「また遊びに来てくれる?」
「それはママに聞いてみないとな」
「ママいいでしょ?」
『いいわよ』
「おじさんっ、ママがいいって!何して遊ぶっ?」
「それはまた今度にしよう。明日はお散歩だろ?今日はもう寝たほうがいい」
「わかった!これも約束だからねっ?おじさん」
「あぁ、約束だ」
おやすみなさいと言って一足早く寝室へ向かう翔人。
また2人きりになれたが、まりあを気付かい聖也も帰宅する事に。
「今日は楽しかった」
『私もです。もしよかったらまたいつでもご飯食べに来てくださいね』
「いつもありがとな」
おやすみなさい、そしてまた明日と挨拶を交し聖也はこの居心地の良い家庭を後にした。
いつもは一匹狼のようにクールで1人を好む彼だが、まりあと接していくうちに、誰かといるのはこんなに楽しい事なのかと実感している。
そして明日は念願だった彼女とのデート…またもやクールな表情から優しく丸い表情になり、足取りは自然と軽くなった。
好きな人と毎日会える事がこんなにも幸せな事なのかとこの年で初めて知った聖也。
退屈だった日々が今はすごく新鮮だった。
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