第28話

「そっちは終わったか?」


「うんっ、ちゃんと畳めたー」




キッチンまで届く2人の楽しそうな声に、もしも父親がいたら毎日こんなに賑やかで幸せなのだろうかと感じるまりあ。

もしもこの人があの子の父親だったら…なんて想像したが、そんな事はまずありえないしこれは叶わない夢だ。




「ねぇねぇ、おじさん」




急に小声になり耳をかしてくれと言わんばかりに聖也に擦り寄る翔人。

何だろうと思い彼も耳を傾けた。




「おじさんって、ママの事好きなの?」


「どうしてそう思う?」


「う~ん……わかんないけど、最近のママ楽しそうだから」




子供は大人をよく見ているなんて言うがあながち間違いではなさそうだ。

そして今度は彼が翔人の耳に…




「俺は翔人のママが好きだ」




相当嬉しかったのだろう。

それを聞いた途端翔人は勢いよく聖也に抱き着き、そしてそんな翔人の姿につられて聖也も笑顔になった。




「ママのどこが好き?」


「素直で優しくて美人なところだ」


「美人って何?」


「可愛いって事だ。お前もそう思うだろ?」


「うんっ」




いつか彼女の隣にいられたら…そしてこの家族の一員になれたら…そんな思いでキッチンに立つまりあを見つめた。

そうなれば毎日どんなに幸せな事か。




「いいか?翔人、この事はママには内緒な?」


「僕とおじさんだけの秘密ね」




男同士の約束だと言って2人は指切りを交した。

あれだけ賑やかだった部屋が突然静かになり何をしているのかと疑問に思いつつも、夕飯の準備が出来た事を伝えにおもちゃの部屋へ向かうまりあ。

部屋を覗くと、翔人が聖也の膝の上に座り何やら楽しそうにしている…




「あっ、ママだー!ご飯出来たーっ?」




出来たと頷いてやると翔人は聖也の手を引き、食事が並べられた机に向かった。

こんな短時間でどうしてこんなに仲良くなれたのか驚いたが、我が子の楽しそうな姿が見られてまりあの頬も自然と緩んだ。

座るなりいただきますと言って早速食べ始める2人…どうやらかなりお腹が減っていたようだ。




「美味しいっ!!おじさんも美味しい?」


「あぁ」


「おじさんも美味しいって!ママもこっちで早く食べようよ!!」




毎日美味しい料理を食べさせてもらっているこの子がうらやましいなんて思っていると、何を思ったのか自身の横にまりあのコップや取り皿を並べ始めた。

翔人を見るとニヤニヤした顔でこちらを見つめている…どうやら確信犯のようだ。




「ママはここねっ」




よりによってなぜ彼の隣に食器を並べるんだと恥ずかしくてたまらなかった。

だがしかしここは平然を装って座るしか他に道はない…

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