第27話

「じゃあまた明日な」




そう言って自分から離れてしまう彼に、まりあの心は寂しさに襲われとっさに服を掴んだ。




「まりあ?」




自分のとった行動に急に恥ずかしくなり、急いで手を離すまりあ。

なぜあんな事をしてしまったのかよく分からないし、何か誤魔化す方法はないかととっさに考えた。




『よかったらご飯食べて行きませんか?』




思い付いた言葉はこれ…苦肉の策のようにも思えるが画面を見せてしまったのでもう後戻りはできない。

それに誤魔化せているのかどうかも怪しい…




「…いいのか?」


『お礼とお詫びを兼ねてぜひ』




聖也は思った…この誘いにはのるべきだと。

しかしお昼の弁当もご馳走になっておきながら夜もご馳走になるのはどこかおこがましい。

こちらの方がまりあに迷惑と負担をかけている気がして、一瞬断ろうかという考えも浮かんだ。

しかしもう少しだけ彼女といたいという気持ちがかなり強く、またまりあの言葉に甘えることに…




『今日の晩ご飯はシチューなんです。お好きですか?』




こんな事を言われたら行く以外の選択肢はまずない。

ここで断れば正真正銘の大バカ野郎だ。




「もちろん」




彼は彼でまりあの喜ぶ顔を見るのが好きだったし、まりあもまりあで何とか誤魔化せたと安心した。




「悪いなぁ、急に。お礼は今度必ずする」


『そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ?ご飯すぐに用意しますから少し待っててください』




まりあが玄関の扉を開けると、ガチャッという音を聞きつけた翔人が勢いよく駆け寄ってきた。




「ママおかえりーっ」




その手には自作のライトセイバーが握られ、聖也のブランケットは首に巻かれた状態だった。

嫌な予感がしたまりあは奥の部屋をチラッと覗くと、やはりおもちゃや届いた服が散乱している。




「どうした?」




玄関で立ち尽くすまりあを不思議に思い身を乗り出すと翔人と目が合った。

そしてその後ろの散乱した部屋も…彼女の気持ちを瞬時に理解する事が出来た。




「この前のおじさんだっ!なんで家にいるのっ?!」


「夕飯をご馳走になろうと思ってな」


「食べて行くのっ?!」


「あぁ」


「本当?!なら早く食べよっ!」


「その前に部屋の片付けが先だ。いい子なら出来るだろ?」


「うんっ!」




しっかり子供の目線に合わせて話す彼の姿に、この人は本当に優しい人なんだと改めて実感する事が出来た。

自分の子供を大切に思ってもらえるのはやはり嬉しい。




「まりあも毎日大変だなぁ」


『本当にごめんなさい』


「翔人は俺が見てるから安心しろ」


『ありがとうございます』




2人で片付けをする姿を微笑ましく思いながら、まりあはシチューの入った鍋を温め始めた。

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