第26話
午後8時30分前…聖也は1人街を歩いていた。
家にミネラルウォーターがない事に気付き何本か買い足すためスーパーを訪れていたのだ。
普段料理などは全くしないため、彼の家の冷蔵庫の中はほとんど空っぽ…あるのはミネラルウォーターや他の飲料水ぐらい。
その道中、彼の目にある物がとまった…
「…まりあ?」
向かい側の道を、お洒落な紙袋を手に急ぎ足でどこかへ向かうまりあの姿が…聖也は迷わず彼女の後を追った。
8時半頃とはいえ声の出ない彼女が夜道を1人で歩いているのはかなり心配だった。
「まりあっ!」
突然自分の名前を呼ばれ驚いた表情で振り向くまりあ。
そこには軽く息を切らした様子の聖也がいた。
「はぁ…やっと追い付いた。どうした?こんな時間に」
やっと追い付いた…その言葉に自分を追ってわざわざ走って来たのだろうかと想像し少しドキッとした。
それに、まさかまた会えるなんて思いもしていなかった…
『翔人が明日保育園で使う水筒を買いに行っていた帰りなんです。持っているのが壊れてしまったのをさっき思い出したみたいで』
「そうか…翔人は家に?」
『はい。だから急いで帰らないと…翔人がお腹を空かせて待ってるので』
「なら早く戻ろう。家まで送る」
携帯に文字を打つ暇もなく、言われるがまま背中に手を添えられ自然と聖也の隣に並ぶ形に…肩と肩が触れ彼の存在をすぐ近くに感じる。
「こっちで合ってるか?」
以前アパートの場所を簡単ではあるが聖也に話した事がある。
そうだと頷くと彼はまた足を進めた…どうやらその時の話を鮮明に覚えているようだ。
ここでふと隣を歩く彼を見上げるまりあ。
こんなに近くで顔を見るのは初めてで思わずその表情に見とれてしまった。
涼しい目をしてるが、よく見ると男の人の割にはまつ毛が長いのがわかる。
「どうかしたのか?」
バッチリ目が合ってしまったのが恥ずかしくなり、顔を赤らめ首を横に振った。
しばらく歩くと無事にアパートまでたどり着き、カーテン越しではあるが翔人が遊んでいる様子が確認出来る。
「ほんと元気だなぁ」
『翔人が本当にご迷惑をおかけしてすいませんでした。それにわざわざ家まで送ってもらって…ありがとうございました』
「子供の面倒ぐらいもっとしっかり見ろ…なんて俺は思ってないし怒ってない。だから気にするな。家まで送ったのも俺が勝手にやった事だ。まりあに何かあったら大変だからなぁ」
自身の頭に伸ばされた大きくて優しい手…その手と彼の表情にホッとさせられ、そして妙な安心感と居心地の良さを覚えてしまった。
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