第11話
聖也達が外食を楽しんでいる頃……
「ママー!今日のご飯何ーっ?」
遊んでいた手を止め、狭いキッチンへ駆け足で向かい母親であるまりあに抱き着く小さな男の子。
どうやらいい匂いにつられてやって来たようだ。
「唐揚げー!!」
今晩のメニューは息子の好物でもある唐揚げ。
揚げたての物を1つ渡し味見をしてもらうと、美味しいと喜んで再びおもちゃのある方へ…ふとそちらに目をやると、やはりおもちゃは散乱していた。
「もうすぐご飯だからお片付けしましょうっ!」
…どうやらわかってくれたようだ。
自分の好物の物が出るとわかれば、いつも率先して片付けをしてくれる我が子の姿は可愛らしいものだった。
これがいつもだったらいいのにと思うものの、こんな母親なのに文句も言わず側にいてくれる息子にむしろ感謝している。
「ねーママ、これ誰のー?」
息子が手にしていたのは聖也のブランケット。
思いの他ふわふわしているため気に入ったのだろう…自分でくるまって遊びだした。
「いい匂いがするーっ!!」
『どんなにおい?』
「んー……シャボン玉!」
『せっけんのこと?』
「よくわかんないっ。でもシャボン玉みたいな匂いするよ?」
そう言ってブランケットをマントのように羽織り、狭い部屋をグルグル走り出してしまった。
どうやら相当気に入ったらしい。
そしてまりあも感じたあのいい香りの正体…シャボン玉という独特な表現に頭を悩ませるものの、言いたい事はなんとなくわかるような気がした。
とにかく息子も自分と同じ香りを感じたのだろう。
「ママこれちょうだい?」
『ママのじゃないからダメ』
「えー…」
『あしたかえすからきれいにたたんで』
「…はーい」
『たためたらごはんたべようか?』
「うんっ!」
ブランケットを大きく広げ、自分なりに丁寧に畳みソファーの上に置くと、早く唐揚げを食べようとキッチンへ再びやって来た。
ご飯や食器を一緒にテーブルの上に並べ、そして…
「いただきますっ」
やっと夕食の時間。
中々贅沢はさせてやれないが、ママの作るご飯は美味しいといつも言ってくれるので、それだけでも十分嬉しかった。
「今日は保育園のうさぎに餌をあげる日だったから人参あげたよ?あとキャベツもっ」
今日の保育園での出来事を楽しそうに語り出す息子…夕飯の際はいつもこうして話を聞かせてくれるため、自分がいない所でも皆と仲良く遊べているんだとホッとする。
まりあは、誰にでも優しくできる元気な子に成長してほしいと思っていた。
「後でうさぎさんの絵描いてあげる!ママも一緒に描こ?」
『いいよ』
今晩もこの部屋は元気な男の子の声と、優しく微笑む母親の姿でいっぱいだった。
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