第7話
「確かに美味いな」
誰かの手料理を食べるのはすごく久しぶりな事だった。
いつもは外食で済ませるため、こんな庶民的なおかずも聖也にとって新鮮に感じられる。
ふと彼女に視線を向けると、驚きと恥ずかしさが入り交じったような…そんな表情をしていた。
この細くて白い綺麗な手をこのまま握っておきたいところだが、彼はその気持ちをぐっと堪える。
「得意なんだな、料理」
はっ!とした様な表情を浮かべ、彼女は慌てて携帯を手にした。
彼女の鼓動は今ものすごくドキドキしている…
『そう言って頂けると嬉しいです。料理は得意という訳ではないですが、毎日作るのでできるようになりました』
普段は自分とまだ幼い息子にしか料理を振る舞う機会がないため、聖也に褒められた事が彼女はとても嬉しかった。
「そうか。まりあは偉いんだなぁ」
突然名前を呼ばれてまりあは更にドキドキした。
自分が声が出ないという事もあり、他人との関わりをできるだけ避けてきた。
その為控え目で少し暗い性格になってしまっていた彼女だが、彼の存在によってほんの少しずつ気持ちが変わってきている。
誰かと一緒にいる事はこんなにも楽しい事なのか…まりあはそれを思い出しつつあった。
『あなたのお名前聞いてもいいですか?』
「
彼はまりあの携帯に自身の名前を入力した。
自然に距離が近くなるため、互いの体はそっと触れ合い体温が微妙に伝わる。
まりあからはやはり甘い香りが…そして聖也からも心地よい香りが…互いに何か感じる部分はあるが、2人はそっと胸にしまった。
『如月さん?』
「聖也でいい」
『じゃあ…聖也さん?』
「俺はまりあでいいだろ?」
『いいですよ』
これで少しは彼女に近付けただろうと彼は手応えを感じた。
これまで色んな女とテキトーに遊んできた聖也…言い寄ってくる女はもちろん、ちょっと気に入った娘がいれば強引に詰め寄ったりもしてきた。
しかしまりあは別だ。
彼女は彼にとって初めての特別な存在であるため大切にしてやりたかった。
「休憩中はいつもここに?」
『そうです』
「明日もまりあに会いたい」
彼の言葉に思わず顔を上げる…自分を見つめるその真っ直ぐな瞳に、まりあは思わず吸い込まれそうになった。
「ダメか?」
携帯を握っている手に力が入ると、伏し目がちな視線は泳ぎ、彼女は黙ってしまった。
どうやら悩んでいるようだ……そして…
『いいですよ』
その返事に聖也の顔から自然と笑みがこぼれる…彼は素直に嬉しかった。
その後、ブランケットはまりあにあげると言い半ば強引に彼女に持たせ2人はお別れした。
何でもいいから彼女との接点になるような物が欲しかったのだ。
別れ際、どこかぎこちないが恥ずかしそうに手を振り返してくれた彼女を思い出しながら聖也は家へ戻った。
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