第2話

「あのおじさんがねっ、大丈夫か?って起こしてくれたんだよ」



母親の元へ駆け寄り事情を説明する男の子と、子供の話に耳を傾ける彼女の姿はどこか微笑ましかった。

こちらを振り返り小さくバイバイと手を振る男の子に、聖也も優しく手を振り返した。

彼女はその横で、少し俯きながらも申し訳なさそうな表情をしてお辞儀をし、2人は仲良く手を繋ぎその場を去ってしまった。




「なに?あの母親…お礼の一つもないとか感じ悪っ」




女の言葉に少しムッとするも、確かに一言ぐらいは話せると思っていたので、少しガッカリした自分がいるのも事実。

それでも彼女への想いが冷める事はなく、余計彼に熱を注いでしまった。




「てゆーか聖也って子供好きだったっけ?」


「べつに…」




特別子供が好きという訳ではない、ただあの女性の子供だから優しくした…ただそれだけの事だ。

そして聖也は確信した。

やはりこの通りを歩いていればいずれあの女性に会えるという事を…次こそは何か言葉を交わそうと彼は決意した。




「ねぇ〜っ、それよりご飯行こうよ〜。行きたいお店もあるしさぁ」




腕にしがみつき無理やりその店に連れて行こうとする女に渋々着いて行く事に…。

今まで女にもお金にも困った事は一度もない。

だが彼女と出会ってからは何かモヤモヤした物が自分の中にあり、これまで感じた事のない不思議な気分を味わっている。

たぶんこれが恋というやつだろう…この歳で彼は初めて本当の恋を知った。




「ほらっ、この店なんだけどどう?なんか本格的じゃない?」




足を止めたのはとある中華料理店。

テレビや雑誌で紹介されている人気店だと女は語りだしたが、恐らく前に自分が中華が好きだと言ったのを覚えていたのだろう。




「前にも好きだって言ってたでしょ?せっかくだしどうかな〜って思ったわけ」




やっぱりなと心の中で呟いた。

中華料理が好きかと言われたらべつにそうでもない…ただあの時好きな食べ物を聞かれて、その時はなぜか中華の気分だったからそう答えただけであり、思い入れも何もない。

その時の気分でいつも答えるため、女によって食の好みは全く違う。




「よく覚えてるなぁ、そんな事」


「当たり前じゃんっ!聖也の事なら何でも知ってるし」




テキトーに話を合わしておけば女が機嫌を損ねる事はない…聖也は女の扱いには十分慣れていた。

なんでも知っているという自信はどこから湧いてくるのかは知らないが、今隣にいる女に自分の全てをさらけ出したつもりは一切ない。

女と寝たくなれば彼女に連絡を取る…聖也にとって所詮その程度の存在だった。

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