第43話

「は〜っ!気持ち〜っ」


「ガキじゃあるまいし…」



部屋に戻るなり連れて来られたのはバスルーム。

ベッドかと思ってちょっとドキドキした自分がいたのも事実。



「泡の出しすぎだ。それに何だ?このおもちゃは」


「いいじゃないべつに。最近浮かべてるのよ?このアヒル。黄色じゃなくてピンクにしたの。可愛いでしょ?」



ほら、と1番大きなアヒルを目の前に向けるも、興味がないと言わんばかりに指で弾かれてしまった。



「男の俺には理解できない」


「あっそ…それより珍しいわね?一緒に入ろうだなんて」


「お前の裸がよく見えると思ったんだが…この泡じゃ見えそうにない」


「ほんと最低ね」


「冗談だ。それより見てみろ」



手渡されたのはいつものタブレット。

見ると、またあのいつものニュース番組だった。

どうやら速報が入ったようで、なんでも〇〇組の関係者が数名焼死しているのが見つかったとかなんとか…



「焼死とあるがただの火事で焼け死んだんじゃない。ダイナマイトで吹き飛ばしてやった」


「もしかして…自慢するために見せたのかしら?」


「日本でこんなことするのは俺ぐらいだ」


「知らないわよ?そのうち捕まっても」


「他にもある。海に沈めてやったり、あぁ…バラバラにした奴もいたなぁ」


「呆れた」


「…なぁシャロン、もし俺が捕まったり殺されたりしたら…お前はどうする?」


「えぇ?」



正直、そんなこと考えたことなかった。

いや、考えないようにしていた。

彼がいない世界が怖いから…



「待ってる…とか?けど死んじゃったら待ってても帰って来ないわよねぇ…」


「ならお前が捕まったらどうする?」


「私が?そうね…黙秘するのもいいけど否認するのもいいわね。だって私何もしてないでしょ?あなたのことは何も言わないから安心して」


「ah…本当にいい子だなぁ、お前は」



さっきまで興味を示さなかったアヒルを、今度は上機嫌にプカプカ浮かべたりして遊んでいた。

機嫌がいい今のうちに…



「どうしてまた殺しなんてやってるの?」


「ん〜?前に〇億盗んだって言ったろ?それを返せってしつこくてなぁ」


「そういうお金だったんだぁ、あれ」



思ったよりあっさり答えてくれたわね。

暴力団を敵にまわしてるのに随分余裕そうね、彼。

何か考えでもあるのかしら?



「シャロン、お前はしばらく外出禁止だ」


「どうして?」


「あいつらにお前の存在がバレてる可能性もある…俺が片付けるまではここで大人しくしてるんだ。いいな?」


「…はーい」



ここは言うことを聞いておいたほうがよさそうね。

後ろにいる彼をチラッと見上げると、相当気に入ったのだろう…今だにアヒルをプカプカさせて遊んでいた。

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