第16話

「私がっ…私があの時ちゃんとっ…ちゃんと……」



今更後悔してももう遅い。

そんなのわかってる。

あの頃の幼稚な自分の言動を恨んだ…必死に恨み続けた。

恨んでも恨んでも恨んでも……けっきょく何も変わらなかった。



「お前は何も悪くない。お前が一体何をしたっていうんだ?ん?悪いのはその男だ…そうだろ?お前のせいで殺されたんじゃないし、襲われたんじゃない。そいつが全部奪ったんだ…何もかも」


「でもっ…」


「shi……自分を責め続けてどうする?これ以上やっても何も変わらないし、はっきり言って無駄なことだ」


「…ならどうしろと?」


「それはお前が決めることだ。このまま過去を引きずって生きていくか、あぁ…死ぬことだって出来る。だがその場合、俺があんたを殺すことになる。けっきょく死ぬんだ…死に方なんてのは関係ない」



あぁ…この人は私を手に入れて殺すつもりだったのか。

手に入れることだけが目的だったんだ。

その後のことなんかもうどうでもいいのね…



「どうするんだ?」



コートのポケットからナイフを取り出し目の前でチラつかせた。

他の人間はきっと誰も彼を理解できないだろう。

恐らく犯罪者の中でももっと危ない…そう、危険人物。

それなのになぜ?なぜ優しい顔も出来るの?なぜ優しくするの?



「……殺すの?」


「お前がそうしてほしいならな」



男の目の色が変わった。

たぶん本当に殺すつもりなんだろう…私は覚悟を決めた。



「最後に聞いて…」


「なんだ?」


「あの時すぐにあなたと出会えてたら……こんなに苦しむ必要なかったのかもしれない」



恐らく当時の私ならこんな男でもすぐに助けを求めすがっていただろう。

私はゆっくり目を閉じた。

これでやっと解放される……



「I don't have a mind to do.」

( やめた )


「え…?」


「あーーーやめだやめだっ。殺す価値もないしつまらない」



不機嫌そうに男はナイフを投げ捨てた。

突然の状況にどうすればいいのかわからず、ただ呆然としているしかなかった。



「死を恐れない奴なんて殺したって意味がない…それこそ無駄なことだ」


「……そう」


「おいおい…そんな顔をするな。It's a smiling face……un?( 笑えよ )殺すのはつまらないがお前はいい女だ。愛してることに変わりはない、それは本当だ……何であいつを選んだ?あんなつまらない男と一緒にいて何が楽しい? I can't understand.( 俺には理解できない )」


「……彼優しいの」


「優しいだけだ。なら俺が優しくすれば一緒にいてくれるのか?本当は優しくしてくれれば誰でもよかったんじゃないのか?俺はなぁシャロン…お前が毎日つまらない男と過ごしてつまらない男に抱かれるのが耐えられない。Why isn't it I?( なぜ俺じゃない?)」



先程とは一変、男は切ない表情を浮かべ私の頬に手を添えた。

この男の言う通り、確かに優しくしてくれたら誰でもよかったのかもしれない。

たとえそれが優翔でなくても……

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