第9話
「殺してやる…そんな顔だなぁ」
「あんたに何がわかるの…」
「わかるさぁ!言っただろ?俺はお前のことなら何でも知ってるってな。何故1人で苦しみ続ける?」
「それは…」
「なかったことに出来ると思ったか?」
「……」
「oh…残念だがそれは無理だ。過去は誰にも変えられやしないし、起きてしまったことは仕方がない。そうだろ?それに話さなかったんじゃない…話せなかったんだ。こんな自分を軽蔑せず受け入れてくれる心の優しい人間が今の世の中いるはずもない…だから恋人にも黙りだ。まぁその恋人は何を隠そう警察官だ。言えるわけないよなぁ?」
悔しいけどこの男の言うことは全て当たっている。
あの日から私は壁を作ってしまった。
自分にしか見えない分厚くて重たい、そして冷たい壁を…周囲から軽蔑される自分を想像するだけで怖かった。
だから私は心を閉ざした…誰かに深入りされるのを拒むために。
優翔と出会ってからはこの人と一緒なら何か変わるかもしれない…この人なら私を受け入れてくれるんじゃないか。
当時はそう思った。
でも神様は酷い…付き合ってしばらく経ったある日、優翔の口から自分は警察官なんだと告げられた。
……終わった。
描いていた明るい未来が一瞬で崩れ去ったのだ。
私はまた絶望を味わった。
「だが安心しろ、俺ならお前を受け入れられる」
「誰があんたなんかに…」
「おいおいおいおい……まだ強がる気か?」
「強がってなんかっ……!」
押さえ込んでいた手の力が緩み、まるで恋人をあやすかのように私の頬と頭を撫でた。
先程からの狂気は嘘のように消え、氷のように冷たい瞳は優しく穏やかになっていた。
「シャロン、お前は1人で苦しみすぎた…これ以上苦しみ続けてどうする?ん?それじゃあ何も変わらない…永遠に。だが今お前には転機が訪れた…そう!この俺だぁ!!俺なら、お前が傷付くようなことはしないし悲しませるようなこともしない。もちろん軽蔑だってしない。例えば、あぁ…そうだな……9人の犯罪者と1人のまともな一般人がいるとしよう。その中でイカれた奴は誰だと思う?答えは…1人のまともな一般人だ。もちろんその逆も有り得る。わかるか?多数決なんてのは所詮こんなものだ…俺と比べりゃお前は十分まともだし、軽蔑されることもない」
男の話には妙に説得力があった。
そうなのかもしれないと納得してしまいそうな自分がいるのも事実。
流されちゃダメ、聞いちゃダメだってわかってるのに…本当に自分が見透かされていた。
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