桐也の日常
第4話
外見は古くひび割れたボロボロの建物…
そしてその周りには建物には相応しくない美しい花が無造作に咲き乱れている。
そう、ここは凄腕外科医の “診療所” 。
桐也は2週間程この診療所を留守にし、あの紛争地域へ出向いていたのだ。
しかしこのような事は彼にとって日常茶飯事であり、紛争地域の他にも個人的に依頼を受けて医療行為をする時だってある。
そして日本に戻ったからといって彼には休息の時間などなく、今度は診療所での仕事が待っているのだ。
今朝も診察室でカルテの記入をしていると
「あっ!桐也が帰って来てるぞ!!」
ランドセルを背負った小学生の男女のグループが、勝手に診療所へ上がり込んで来た。
どうやら桐也の帰りを待っていたらしく、子供達は皆嬉しそうな顔を浮かべている。
「勝手に上がるなっていつも言ってるだろ?」
「上がってほしくないなら鍵ぐらいちゃんとかけろよな?」
「母ちゃんが言ってた、戸締りの出来ない大人はだらしない大人だって」
「どうせ俺はだらしない大人だよっ。わかったらさっさと学校にでもどこにでも行ってくれ」
生意気な子供達だが、本当は皆桐也の事が大好きだった。
彼が診療所に鍵をかけないのも、子供達がいつでも立ち寄れるようにするため…
現に彼らはよくここに集まって宿題をしたり、お菓子を食べながらお喋りをして盛り上がっている。
「先生、あそこに置いてあるのなぁに?」
1人の女の子が診察室の窓辺に置かれた黒い鳥かごに気が付き、他の皆も一斉にそれに注目した。
「鳥でも飼うのか?」
「これは鳥じゃない」
鳥かごを外し子供達の目の前に持って行くと、うわぁ…と感嘆の声をあげた。
鳥かごの中にいるのは鳥ではなく、1羽の青いアゲハ蝶だったのだ。
「すげー、青いアゲハ蝶だ…」
「綺麗…」
「桐也、この蝶俺にくれよっ」
「駄目だ。こいつは怪我をしててまだ治療中…つまり俺の患者だ。わかったら諦めて早く学校に行け。本当に遅れるぞ?」
「ちぇっ、ケチな桐也だなぁっ。行こうぜ?皆」
べーっと彼に舌を向けると逃げるようにその場を走り去る子供達に、どうせまた放課後になったら来るんだろと呆れた様子の桐也。
そしてこのアゲハ蝶は彼があの時紛争地域で見つけた蝶であり、怪我のわりには中々良くならないため、仕方なく日本へ連れ帰って来たのだ。
あの日テントの中で目を覚ました時、蝶が自身の胸の上にいた事にかなり驚いた桐也。
どうせいつの間にか飛んで逃げてしまうだろうと思っていたのだが、蝶は彼の側を離れようとはしなかった。
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