#8.北海道旅行_2

第9話

彼が北海道に来る日の朝



何時の飛行機に

乗るのか

怖くて聞けなかった



会わないなら知らない方がいい

どこに行くのかも知りたくない

そのほうが楽だった



私はいつも通り

何も変わらない1日にする



決まった時間に起きて準備をする

いつもと同じ時間に会社に着いた



会社に向かう途中で

彼からLINEが届く



「これから飛行機に乗るよ」



本当に来るんだ...



知りたくなかった

報告しなくていいのに...



だけど私の心臓は

すごく正直で

ドキドキが止まらなかった...



ドキドキしながらも

なんとか仕事に気を向ける



区切りがいいところで

コーヒーを飲んでいると

また彼からLINEが届く



「北海道についたよ!」



メッセージとともに

位置情報も送られていた



場所は新千歳空港



間違いなく彼は

いま私と同じ北海道にいる



嬉しいような

嬉しくないような



私はもう仕事に集中できなかった



「今からすすきの行くよ」



結局行き先も知ってしまう



やっぱり札幌...



すすきのかぁ...



私の職場の近く通るかも



そんなことを考えながら

コピー機の前に立つ私



彼がすぐそこまで

来ているというだけで

見慣れた景色が

まったく違う世界に見えた



雲ひとつないキレイな青空を

今でも覚えている



もうどうしたら

いいのかわからない



会いたいっていえばいいの?



だけど会う勇気もない......



なんの見栄なのかわならない



私は彼より年が9個上ってだけなのに

いつまでたっても大人の余裕を見せたくて

本当はすごく動揺しているのに

全然平気と

背伸びした女の人を演じながら

彼にLINEを返していた



終業時間になり

帰り支度をはじめる



彼が友達と

すすきのにいた時



何人が

彼とすれ違っただろう



ずるいよ



私はこんなに会いたくても

会えないのに



彼のことを何も知らない

同じ札幌市民は

彼とすれ違っているの?



私はデスクに座りながら

その事ばかり考え

ひとりでモヤモヤした



考えれば考えるほど

視界がぼやけて

自然と涙が溢れてくる



泣きたくない......



泣きたくないよ......



私はずっと

一点を見つめて

涙がひいてくれるのを待つ



ここで泣いたら止まらなくなる



「お先に失礼します」



私は必死にこらえながら

作り笑顔でニコッとして

会社の階段を駆け降りる



「はぁ」



車に乗り込んだ瞬間

思わずため息が出る



私は家に帰って

朝できなかった

掃除機をかけたり

部屋の片付けをした



洗濯もした



洗濯なんて

今しなくても

本当はよかった



だけどいま洗濯をすれば

洗濯物を早く乾かすために

コインランドリーへ行くことで

家を抜け出せると思った



彼と会う約束なんてしてない



だけど...もし...もしかしたら...



会う勇気もないくせに

会う準備だけはしたかった



洗濯が終わり

ドキドキしながら車に乗り込み

コインランドリーへ向かう



乾燥機が終わるのを待っている間

彼からLINEが届く



「かけていい?」



いつもの彼の言葉に

安心しつつも

安心しきれない自分がいる



電話をかけるのが怖い



彼はなんて言うのかな?



でも怖がってても仕方ない

電話をかけるしか選択肢はなかった



いざ電話をかけてみると

彼の後ろから

爆音の洋楽が聴こえる



「あかり〜」

「聞こえる?」



「うるさくて聞こえない」

「どこにいるの?」



「なんかクラブっぽいところ」



「そっか」



札幌に着いてから

何度も位置情報を

送ってきた彼が

急に私を突き放す......



「俺に会いたくて

ここに来たら困るから

今は位置情報送るのやめておくね」



10%ぐらいは

期待していたかもしれない



クラブにいるより私に会いたい

今から会えない?

少しでいいから会ってみたい

だめ?って



彼がもし...

そんなことを言ってくれたら



私は迷わず

車で彼のところまで行った



絶対に...



でも

彼は言ってくれなかった...



私は悲しくて

その時

彼になんて言い返したのかすら

覚えていない



ひとりで勝手に玉砕して



ひとりで勝手に泣きそうになる



同じ札幌にいるのに

やっぱり会えないんだ...



悲しすぎる現実を

受け止められずにいた



彼との電話は

結局まわりがうるさくて

すぐに終わった



これで終わり!?



期待していた展開にはならず

あまりに短い電話で

終わってしまったことに

愕然とした



他の女の子に

話しかけられてたらどうしよう



彼が他の女の子に

話しかけていたらどうしよう



したくもない想像が頭をよぎり

もう何もかもが嫌だった...



気を紛らわせたくて

マッサンにLINEをする



「いま電話できない?」



「ごめん、いまはむりだ」



「どうした?」



「いやなんでもないよ!」



こんなところにいたらだめだ

早く家に帰ろう



誰もいない空間にいるのが辛かった



その後も

時間を置いて返ってくる

彼からのLINE



そんなに楽しいなら

LINEしてこなくてもいいのにと

ふてくされた事しか思えない



もう連絡をするのがしんどくて

今度は私が彼を突き放す



「なんか疲れた」

「哉斗には癒されない」

「うるさい」

「ほっといて」



本当はケンカなんてしたくないのに

寂しくて悲しくて

思ってないことばかり言ってしまう



そんなLINEをしながら

気づけば

私は寝落ちしていた......




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