#7.北海道旅行_1

第8話

彼と知り合って2ヶ月...



私は平日のみ

9時から15時という

主婦が働きやすい時間帯で

パートとして事務の仕事をしている



私の職場は

従業員が10人以下の小さい会社で

昼間はだいたいみんな外勤のため

オフィスに残るのは私ともう1人の事務の先輩



そんな小さい会社だからこそ

みんな仲が良く

仕事も話しながら楽しくできる

最高の職場だ



仕事内容は

コピーやスキャン

書類の作成や郵送などで



その日もいつも通り

先輩と雑談をしながら仕事をしていた



昼休憩になると

先輩は外にご飯を食べに行くため

私はオフィスでひとりきり



そして彼がお昼ご飯を

食べにお店に着くまでの間



彼は歩きながら

私はデスクに座りながら

電話するのが

日課になっていた



「あかりぃ〜〜」

「なにしてる??」

「ねーねー」

「俺さぁ、実は明日から旅行するんだっ」



いつになく

ハイテンションで明るい彼



“ん?明日?旅行?“

“誰とどこに行くの!?“



急な話に驚きつつも

私は彼が私の知らない誰かと

旅行に行ってしまうことが

羨ましくて

不覚にもヤキモチを妬いてしまった



けれどそんな態度を

彼には絶対だしたくなくて

気づかれたくなくて



本当は気になって仕方がないくせに

興味ありませんオーラをだしてしまう...



「へぇ〜そうなんだ」

「いいじゃん!旅行!」



「うん、楽しみなの」



“へぇ、楽しみなんだ...“

“何泊するんだろ...“

“なんか嫌だな...“



モヤモヤが溢れ出し

私は我慢できず

結局彼に聞いてしまう



「...旅行って」

「どこに行くの??」



「どこだと思う!?」

「当ててみてよ!」



「えー全然わかんない」

「沖縄とか?」



「ちがーう」



「え〜」

「だからどこだよ〜」

「教えてぇ」



「えーっとね、インド!!」



「はぁ!?笑」



その言い方...

インドって絶対違うでしょ...



一瞬騙されかけたが

笑いながら話す彼に

冗談だとすぐに気づいた



「もおお!!!」

「だ〜か〜らぁ〜」

「どこに行くのぉって???」



「んーーーーーー」



急に言いにくそうな

素振りをみせながらも

彼はためらわず答えた



「あのね、、北海道」



「えええええええー!!!!!!!」



思ってもいない返答に

私は誰もいないオフィスで1人

大声で叫んだ...



私が住んでいるところは

北海道の札幌市



はじめから彼と

会うつもりなんてなかった



でも



だけど



なに、この展開!???



彼が

北海道に来る?????



え、てことは、もしかして...



北海道に来る=札幌に来る!?



ええ

私たち...会うの!???



もう頭の中が

パンクしそうだった......



「でも大丈夫!」

「俺たち会わないから!」



「え...」


頭の中がパニックになりかけながら

でもなぜか嬉しくてドキドキで

いっぱいだった私は

一瞬にして我に返る



あ......

そう...だよね...



私たちは会わない...



もともと会うつもりで

アプリをはじめたわけでもない



必死に自分自身に言い聞かせた



気持ちを沈めて彼の話を黙って聞く



彼は男友達3人と

2泊3日の旅行をするらしい



「だからさ!」

「どんな服装で行けばいいのか教えて!」

「長ズボン?短パン?」



正直当時の私には

彼の服装なんて

どうでもよかった



それよりも

明日彼が

北海道に来ることの

事実を受け止められずにいた



会えないにしても

同じ北海道...



同じ札幌市に

彼がいるかもしれない...



想像するだけで

ドキドキした



恥ずかしいけれど

同じ空を彼もみているかもしれない



そんなことを考えていると

想像に想像が膨らみ

その日の午後は仕事どころじゃなかった



彼は友達から

行き先すら

聞かされていないらしい



「俺どこにいくのかなぁー?」

「ネットで北海道旅行って調べてみる」



え、いまさら調べるの?この人...

行き先知らないってやばいでしょ

男の人ってそんなもんなのか!?



彼の言動がまったく理解できず

私はモヤモヤした



「でも札幌には来るでしょ!?」



「そーなのかなぁー?」

「わかんなーい」



いや、来るでしょ...なんなの



私はその日から

謎の緊張によりご飯が

喉を通らなくなった



食べなくてもお腹すら鳴らない



私、どうしちゃったんだろ...



彼はいつもと変わらずの態度で

それからもずっとLINEを続けた



そして寝る前に電話をする



「明日は同じ北海道にいるね〜」



それってどんな気持ちで言ってるの?

嬉しいの?楽しみなの?会わないのに?



「明日会う?」



私の気持ちが見透かされてるように

彼はさらっとそんなことを言ってくる



それも冗談?



「いや!」

「会わないよ」



素直になれなくて

可愛くないことを言ってしまう



「はぁ?」

「なんで?」

「何ビビってんの?」



彼が煽ってくる



「だって...」



それ以上話すと

泣き出しそうで

言葉に詰まってしまった



会いたいよすごく本当は



だけどあまりに急すぎて



私はなんの心の準備もできていなかった



彼は私と知り合って

すぐの時から

この旅行が

決まっていたらしい



だったらもっと

早く教えて欲しかったよ



そんなサプライズいらなかった



私に伝えたのは

旅行の前日だなんて...



もっと痩せたかったし

もっと完璧な私で会いたかった



いまは会うタイミングじゃない



なぜかそう言い切れた



あの時素直に

会いたいと言えば

哉斗は会う時間を作ってくれたの?



それともただの冗談?



今でもこの話を

思い出すのは辛いし



今さら聞いても仕方ないけれど



あの日を

違う1日にできなかったのか

気になって仕方ないよ......




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