#1.幸せからの地獄

第2話

次の日

旦那は二日酔いがひどく



仕事をお休みした



具合悪そうにソファーに横たわる旦那に

大丈夫?の一言もかけたくなかった



ありえない......



私は唖然としながらも

出勤の身支度をし



彼に旦那の愚痴をこぼす



そんな話を聞いた彼は

旦那のことを怒らないでと

私をなだめてくれる



優しいなぁ...

彼と話していると

私の心は安定するかも...



会社に向かう最中

昨日のことを思い出し



思わずにやけてしまう



あの日以来

彼とはタイミングが合えば電話をする



初めは

恥ずかしさと

照れで緊張していた私も



次第に彼に心を許していく...



話したい事がなくても



私たちは

お互いの声を聞きたくて

電話をかけ合った



仕事の合間も

LINEを返していたら



あっという間に終業時間になり

デスク周りを片付け私は会社を出る



「おつかれさま」



彼からのLINEにほっこりする



家に帰宅すると

旦那が一目散に駆け寄ってくる



「あかり!!!!!」

「昨日はほんっとうにごめん!!」



「んー」

「なんか...」

「もういいわ」



言いたいことが

いっぱいあったけど



私の中で

すでにその話題は終わっていて



もうどうでもよくて

私は旦那を許した



あんなに割り切る自信があったのに



このままじゃ

簡単に崩れ落ちてしまいそうだよ





***************





「かけていい?」



彼が電話したい時の決まり文句



いつも必ずこれを言う



家庭がある私のことを考えて

勝手にかけてくることは1度もない



かけていい?と言いながら

実際にはかけてこない



だからタイミングが合えば

私が電話をかける



「わかった」

「外に出るよ」

「ちょっと待って」



旦那と娘が

お風呂に入っていた



お風呂の窓が少し開いていて

2人の声が外に漏れている



私は静かに車に行き

彼に電話をかけた



「何してた?」



「ご飯作ってたよ」



「忙しい時にごめんね」



「ううん、大丈夫!」



「今日も声かわいい」



思わず照れる...



「ん、ありがとうっ」



「すき」



「わたしも...」



自分ではまったく

気に入っていないこの声も



26歳に褒められると嬉しくたまらない



すきってどういう意味なんだろう



気になるけど...



あまり深く考えずに

私もノリで返事をした



1分ほど電話をして

すぐに家の中に戻った



旦那にどうしたの?と言われたが、

荷物を置きに車に行っただけだよと

簡単に口から嘘がこぼれ落ちた



寝る時間になり

私はハミガキをしてベッドに入る



深夜になると

彼とのLINEもさらに早くなる



彼の返信に一喜一憂する私



そんな私に旦那が怒鳴り上げる



「あー!!!!」

「俺全部知ってるから!!!!!」

「男とLINEしてるって」

「さっきも外で電話してたんだろ?」

「もうそいつのところに行っちゃえば?」

「そいつのことがすきなんだろ?」

「出会い系で知り合ったの?」

「マジで気持ち悪い。お前なんなの......」



私は頭が真っ白になる



「そんなんじゃないんだって...」

「寂しかった...」



消えてしまいそうな小さい私の声



言葉に詰まりながらも

何か言わなきゃいけないこの状況に



なんとか絞り出す



今となってみれば

私の心はこの時すでに



旦那ではなく



彼に向きはじめていた



だけど



それを認めたくない自分と



そんな思いを

旦那にバレたくない気持ちが



私にそう言わせた



「もう無理」

「俺、家に戻らないかも」



そう言い残して

旦那は寝室のドアを開け

階段を駆け降りる



玄関を開ける音が

いつも以上に大きく

寝室にいてもすぐに分かった



車のエンジン音が窓の外から聞こえ、

その音はあっという間に消えていった



どこにいくの......



私は精神状態が

不安定のまま



彼にLINEを送った



「旦那にバレた」

「1回ブロックさせて」

「落ち着いたらまたLINEする」



こんなLINEが急に送られてきて

彼はかなり動揺したと思う



でもその時は

そう伝えることが精一杯だった



旦那に謝罪のLINEを何度も送り



ようやく家に

帰ってきてもらうことができた



数時間前までは立場が逆だったのに...



そう思わずにはいられなかったが

そんなことはどうでもよかった



家に帰ってきて

隣のベッドで寝ている旦那を横目に



私は彼をブロックしたことを後悔して

モヤモヤが止まらなかった



“私たちの関係はここで終わってしまうの?“



旦那との関係を

最優先に考えなきゃいけないのに...



分かっているのに...



私の頭の中は

旦那のことをかき消すように

彼への思いであふれ

すべて上書きされていくようだった



そんなことをずっと考えていたら

全然眠れなくて

気づいたら外が明るくなっていた



そして私は意を決して

彼へのブロックを解除しLINEを送る



「ごめん、やっぱり無理だよ」

「さよならなんてしたくない」



「え!?大丈夫?」

「心配してたんだよ」

「急にあんなLINEきて」



「だよね」

「ごめんね」

「心配させて」

「大丈夫」



私たちはこの先

どうなりたいかなんて考えていない



人生は一度きり



後悔なんてしたくない



今だけ



もう少しだけ



私はまだこの沼から抜け出したくない




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