#0.プロローグ

第1話

再婚同士の私たち夫婦は

今年で結婚して6年目



年を重ねるごとに

ケンカの数も減り

年相応の関係を築いていた



< 客観的にみれば、仲のいい夫婦... >



そう見えたかもしれない



だけど私の心は

常に満たされなかった



もっと私を女として見て欲しい



結婚したら

もうその気持ちを持ってはいけないの?



私のモヤモヤは

だんだんと膨らんでいった



それがすべての始まり...




***************





私の名前は石橋あかり



旦那とデートは何年もしていない



もっと私を見てほしかった

もっと可愛いって言ってほしかった

もっと愛してほしかった



私は旦那に振り向いて欲しくて

えっちな下着を買ってみたり

寝る時手を繋いで甘えてみたり

週1回一緒にお風呂に

入るルールを決めたりしてみた



だけど

どれもいい結果はでない



“私の何が足りないの?“

“周りの人には可愛いって言われるのに“

“1番言われたい人に言われない“



どんどん増す寂しさ...



仕事がお休みだったあの日

私はいつも通り

旦那と子供を送り出し

私は黙々と家事をこなしていた



一区切りがついたところで

ソファーに座りスマホを手にとる



“誰かと話したい...“



無意識に私の指は

他人とチャットができる

アプリを検索していた



そして

1日だけ他人と会話ができる

チャットアプリをみつける



1日だけ???

少し話してサヨナラできる!!



今の私にはそれがちょうどいい



早速アプリをダウンロードし

プロフィールを登録した



そこで私は26歳の男性と出会う



彼は仕事中だというが

返信がとても早く会話も弾んだ



私は35歳



9歳年上の私なんかおばさんだ



相手にされるわけがないと

思いながらも

彼からどんどん返事がくる



“久しぶりに知らない人と会話してる“



“楽しい...かも...“



私は子供の習い事の送迎などで

忙しいながらも

合間をみて彼に返事をする



「LINEしませんか?」



すると

彼から直接のやりとりを誘われ

私は戸惑うことなく

承諾のメッセージを送った



既婚...9歳差...



深いことなんて



何も考えていなかった



ただ話し相手がほしい



それだけ



だってこんなに楽しいのは

本当に久しぶりだったから......



もう少しだけ



会話をしたい



そしたらきっと

お互い飽きて



自然と連絡も減って



またいつも通りの生活に

戻れるから...




***************





「どこに住んでいるんですか?」



「子供は何人いるんですか?」



「仕事は何をしているんですか?」



「彼女はいるんですか?」



お互いひと通りの情報を聞き出す



彼の名前は笹原哉斗



東京で一人暮らし

数ヶ月前に彼女と別れて

いまはフリー



身長は183センチ

仕事はジムトレーナー



自分に時間もお金も使いたいから

彼女を作る気はないそうだ



183センチでジムトレーナー!?

筋肉ムキムキ...しかも高身長...



彼女を作る気がないとか言う人は

だいたいかっこいいんだよ...



私の妄想は膨らんだ



だけど冷静な面の私もいて

彼の顔に少しも興味がなかった



彼女が仮にいたとしても

私はきっとそこまで

気にしなかっただろう



話が弾むことがとにかく楽しくて

だけど好きなのは旦那で

私はきちんと割り切っていた




***************





「今日の夜送別会入った!」



旦那からLINEが届く



ずいぶん急な話だと思ったけれど

送別会の会場は

交通機関では行きにくく



私は旦那に

送迎することを提案した


「私が送るよ」



「本当に大丈夫?」



心配そうに私の顔を伺う



旦那のために

出来ることをしてあげたい



少しでも旦那に

振り向いて欲しい私は

自分の株をあげることに必死だった



「何時頃終わる予定?」



「んーたぶん12時までには...」



「それならいいよ」



「じゃあお願いしようかな」



私は12時までに帰る条件で

旦那の送迎を約束した





***************





「電話しませんか?」



「うんいいよ」



人見知りな私は

会ったこともない人と電話なんて

絶対できないくせに



彼への興味が止まらず

またもあっさりと承諾してしまう



旦那を送別会の会場でおろし

私は1人家まで車を走らせる



彼とのやり取りの中で

旦那を迎えに行く時に

電話することが決まった



だけど

約束の12時を過ぎても

旦那から連絡は来ない



何度もLINEを送り

何度も電話をかけた



やっと返事がくる...



「まだ帰れない」



「はぁ?......嘘つき」



もういいや...



私は彼に電話をかけた



「あの...はじめまして」



「どーも」



ありきたりな挨拶を

お互いに済ませる



私はこの後

どんな会話をしたのか

まったく覚えていない



それぐらい

やっぱり緊張していて



ドキドキが止まらなかった...



私、いま26歳と電話しているんだっっ



いけないことをしていると

分かっていながらも

楽しくて仕方ない



旦那以外の男性と

夜中に1時間も電話なんて...



すべてが新鮮な1日だった



結局その後

旦那と連絡がついたのは

1時半すぎ



「あかりぃ〜ごめん」

「今スマホ見たぁぁ」

「全然気づかなかった」



「ありえないよ」

「まじで......」

「次の日仕事あるのに!!」



普段なら

怒鳴り散らすところだけど



彼との電話に

心が満たされて

そこまで怒ることはなかった



そしてこの電話で

私たちの距離は一気に縮まった



あかりさんと呼んでいた彼は

私のことをあかりと呼ぶようになる



すぐに飽きるはずだったのに



どんどん私は

抜け出せない沼にはまりはじめた




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る