花子さんってジャック・ザ・リッパーみたいなものなのね…

 トイレの花子さん。

 女子トイレの一番奥の扉を6回ノックして、「花子さん、遊びましょ」と言うと出現するとか…なんとか。

 そんなわけで、シズクに押されて半ば強制的に女子トイレの中に入った俺達は、取り敢えず花子さんを召喚?呼び出し?招来?することにした。

「シズクはやっぱり鏡に映らないか」

「当たり前だよ。だって私、幽霊なんだからさ。…私が映るのは、響谷くんの瞳の仲だけで十分だからね。それ以上、私に望むものなんてないしさ」

「そういうもんなの?」

「………私は響谷くんにだけ見られていたいし………」

「なんか言った?」

「…別に…」

「そう……、…」

 鏡にそっと手を伸ばして、触れる。

 …そう、ここには俺以外に誰も居ない。虚像だけが、ここにある事実を映し出しているんだ。

 幽霊の存在証明なんて、出来やしない。だけど、俺にはもうシズクしかいない。…俺が、今見ているのは、虚像が映し出している真実なのか…それとも、現実が映し出した虚構なのか。

 どうしようもない、あても無く名前もない感情。視界が少し滲む。

「……………俺は…」

 鏡一つで何考えてんだろうな…俺はさ…。

「…響谷くん…」

 誰でもいい。何でもいい。縋るものが欲しかった。居場所なんてきっと、本当はどうでも―――。

「っ…シズク…?」

「…考えちゃ駄目…そんなこと…」

 虚構から引き戻すように、真実から背中をそっと押すように。シズクが俺の背中に抱き着く感覚を感じる。

「…君は、君だけの居場所が欲しかった…だから図書室に来たんでしょ?」

「………」

 ……………俺は…。


 ……取り敢えず気を取り直して、俺達はトイレの手洗い場の鏡の前から、一番奥の個室に向かう。

「じゃあ行くよ、せーの」

 シズクの合図で、目の前の個室の扉を6回ノックする。

「「花子さん、遊びましょ」」

 そう言うと、扉がひとりでに動き出して、個室の中に少女が一人立っていた。

「いいよ、遊ぼっか」

「―――はいストップ、それ以上進んだら駄目だよ~」

 花子さんが俺に一歩近づこうとしたところで、シズクが花子さんを制止する。

「…何、貴女も遊んで…って、幽霊?」

「そうだね」

「…守護霊なの?」

「ん?ちが~う」

「えぇ…」

「まぁまぁ、立ち話もなんだしさ、教室行こうよ」

 シズクはそう言って花子さんの手を引っ張って近くの教室に連れて行く。

 …これ俺さ、行かなくても良かったよね。シズクが教室に連れて来てくれたらよかったよね?



 場所を教室に移して、取り敢えず教室の扉側を俺達で塞ぐ。

「…さらっと逃げ道塞いでくるわね…」

 …まあ、うん。

「それでさ花子さん」

「花子じゃない、リン」

「え?」

「だぁかぁらぁ、リン。私の名前」

 …そんなジャック・ザ・リッパーみたいな感じなんだ…トイレの花子さんって…。

「えっと、リン…ちゃん?さん?リン?」

「何でもいい。分かればいいから」

「あ、そう…」


「っていうか、なんであなた達そんな暗い感じなのさ」

「えっ?」

「…いや、気のせいなら良いんだけどさ。特に、人間の方。確か…響谷?だったかしら」

「え」

「…なんでそんな暗い表情なのよ」

「いや…暗いっていうか…」

 …考えるな…これ以上考えちゃだめだ。…けど…だけど…。

「…リン…に、話すような事じゃないよ」

「…ねぇ、幽霊」

「はい、シズクちゃんだよ~」

「…こんな精神状態の人間をなんで連れてきたの?」

「…それは…」

「いや、気にしないで…リンも…触れなくていいから」

 っていうか、どっちかと言うと人を脅かせる側の奴が人間を心配してどうするんだよ。

「…私、人間とは遊びたいけどね。こんな精神状態の人間と遊んでも楽しい訳ないじゃない」

 まあ…そうだろうな…。

「…まあ、なにか困ったことがあったらいつでも相談しに来なさい。私で良かったら、だけど」

「あぁ、ありがと…」

「はぁ…なんで人間のカウンセリングなんかしなきゃいけないのか…」

「…なんか、ごめん」

「別に謝らなくても良いわよ」



 そのあと、リンと少し雑談をした後に教室を出る。リンも一応女子トイレの個室の中に戻ったらしい。他の奴が迷い込んでくるまでソシャゲして待ってるんだとか。

 …もうソシャゲだけしとけばいい気がするのは俺だけなのかな。…『天井まで溜めた石全部使って爆死した』って愚痴ってたな。…うん、なんか…。頑張って。

「…それで、次はどこ行くんだ?」

「そうだなぁ…音楽室とか良いんじゃないかな?ほら、ひとりでに演奏し始めるピアノ…だったっけ?」

「へぇ、そんなのあるんだ」

「あれ、知らない?」

「まぁ」

 だってそもそも学校自体あんまり興味ないし。

「それじゃ、次の目的地は決まり、早速行こうよ」

「分かった」

 生憎、俺は図書室に至るまでの道以外はあんまり知らないのでシズクに先導してもらって音楽室に向かう。

「校内地図がいたるところに欲しいよね…」

「無いって事は覚えろって事なんだろうなぁ…」

「そうだろうね…」

「…それで。この階段はいつになったら音楽室のある階に着くんだ?」

「ずっと1階をループしてるね。これ」

 こんなとこにも七不思議あんのか…。


――――――――

作者's つぶやき:さて、次回は終わりのない階段…に、なるんじゃないですかね。

…まあ、その。…なんだ、響谷くん。…強く生きてね。

まあ響谷くん死なれたら困るんで死なないようにしますけど()

でもなんかこう…。楽にしてあげたい自分ともっと響谷くんを活かしたい自分がせめぎ合ってるんだ…なんだったらそこにもっと響谷くんを活かして曇らせたい自分も居て三つ巴になってます()

あと、リンって聞いて某アーカイブを思い浮かべた方。奇遇ですね。私も書いてて思い浮かべました。

――――――――

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