(2)
くちゃくちゃ……。
ごくごく……。
黙々と食べていた。面白くも無さそうな顔で飲んでいた。ここに居るのは未成年の筈なのに、酒瓶らしきモノまでテーブルの上に有る。
ただし……新入生歓迎会なのに、男子寮の食堂のテーブルにならんでる料理を食ってるのは……上級生達だ。
楽しそうには見えない。
ただただ、義務か何かでやってるように見える。
多分、新入生が食う事になるのは、上級生が食べた残りものなんだろう。
そして、僕を含めた十数人は……上級生の魔法で金縛りにされて食堂の端っこの方で、その光景を眺めていた。
「さて、詳しい話は、明日の入学式後のオリエンテーションで説明されると思……おも……うげ……」
酒瓶に見えるモノに入ってたのは、本当に酒だったみたいで、赤い顔でふらつきながら説明していた上級生の代表格らしい人は、いきなりゲロをした……。
「てめぇッ‼
ゴオッ……ドス黒いオーラみたいなモノが、その上級生の体から吹き出し……。
「や……やめろ、馬鹿ッ‼」
上級生達の中でも、一番、顔色が良くて、一番温厚そうな感じの人の体からもオーラが吹き出す。
赤いオーラだ。
そして、そのオーラは……蛇のような姿へと変り、上級生の代表格らしい人の体から出て来た黒い狼のようなモノを縛り付けた。
「何しやがるッ‼」
「そりゃ、こっちのセリフだッ‼ 下級生に何する気だったッ?」
「うるせえ、どうせ、半分以上は2年生になれねえんだ‼ 今死んでも大して変んねえよッ‼」
えっ……?
な……何を言って……。
あの……えっと……
「あ……ちょっと、取り込み中なので、俺が説明する。明日も先生から言われると思うが、ここでは生徒手帳は絶対に持ち歩け」
別の上級生が、そう言い出した。
「この生徒手帳の表紙の校章が『護符』を兼ねている。何を今更と思うだろうが、ここは魔法学校だ。実習中にポカしやがった阿呆のせいで異界の魔物とか悪霊が解き放たれる事は稀によくあるし……あと、実習中に事故死した奴の怨霊が夜中になると、そこら中をうろついてる事など、これも、稀によくある……あ……えっと……昼間でもうろついてる事も有る」
その上級生は、僕と同じく、上級生達が現われる前に料理に手を付けた阿呆の1人の上着の懐に手を入れて、生徒手帳を取り出すと、そう説明した。
ああ、なるほど……新人歓迎会が、制服着用で生徒手帳を持って来い、って言われたのは……こういう事……ん?
「この生徒手帳を持ってさえいれば、この学園内の危険の……ほとんどから身を守れる」
説明が続く中、赤い蛇と黒い狼のドツキ合いも続いていた。
「明日の入学式を無事に迎えたければ、風呂に入る時以外は絶対に生徒手帳を手放すな。いいか、入学式の前日にお前らの誰かが死んだら、親御さんへの説明が面倒になる。先生達に迷惑をかけるんじゃないぞ、いいな」
「返事はッ‼」
使い魔(多分)を
「はいっ‼」
「はいっ‼」
「はいっ‼」
新入生が次々と返事……。
「で、やるのあれ? 俺達の同期も1年の時にやられた……例の……」
「やれ」
「やめろ」
黒い狼を使い魔にしてる上級生と、赤い蛇を使い魔にしてる上級生が正反対の事を叫ぶ……。
今まで説明をやってた上級生は……。
「あ……さっき、あんな事を言ったばかりなのに……こんな事をやるのは……ちょっと何だが……」
今度は……その上級生は僕に近付き……。
「この寮の慣例なんでな……何か有っても化けて出ないでくれ」
僕の上着の内ポケットから生徒手帳が抜き取られ……更に隣に立ってる奴のポケットからも……。
「え……えっと……こういう男子寮では、よくある新入生向けの肝試しだ。お前らも2年3年になれば、下級生にやる事になる」
ま……待って……。
「俺達が来る前に、料理に手を付けたマヌケども……その状態で、一晩、そこに立ってろ」
あ……あの……えっと……その……。
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