第36話 冒険者編 アルデンテ・ウラノス

「さぁ、どうするんだい? 殺し合いか、それとも王国軍の情報か」

「分かった。 話し合いに応じよう」

「途中で気が変わったら言ってくれ。 その時はなぶり殺してあげるから」

「それはご遠慮しよう」


 ウラノスファミリーのボスであるアルデンテ・ウラノスは、話し合いに応じるつもりになった様だ。 私としてはどちらでも良かったのだが、少し残念に感じた。


「ここじゃぁ何だ。 応接室に向かおう」

「了解した。 懸命な判断だと思うよ」

「コッチだ。 ついて来てくれ」


 そう言ってアルデンテ・ウラノスは、私を応接室に案内した。 このに及んでだましたりする意図は無さそうだ。


「それで、何を聞きたいんだ?」

「取りえず王国軍、いや、討伐軍について知っている事を全てかな」

「分かった、知っている事は全て話そう。 その前に、どうして討伐対象になったか経緯を教えて貰えないか?」

「他の世界で暴れ回っているところを、拉致召喚されたってとこかな。 元々は英雄か何かを拉致召喚する予定だったらしいんだけど、来たのが吸血鬼の真祖だったってことで少しめてね。 面倒だからそこにいた連中を皆殺しにしてたらこうなった」

「異世界のヴァンパイアだったのか?」

「真祖だったってのが正解かな」

「何か違うのか?」

「ヴァンパイアの弱点は全て克服している。 日光は勿論の事、聖水や聖魔術なんか効かないな」

「そりゃぁ、連中も大変だな。 折角、聖協会に頼み込んで寄越してもらった聖騎士が、実際には機能しなくなるワケか」

「聖協会? 聖騎士? なんだそりゃ?」

「聖協会ってのは、この世界では大きく信じられている宗教でな、何でもはるか昔にヴァンパイアを駆逐くちくするのに大きく貢献したとされる組織だ。 聖騎士はそこの専属の騎士で、悪霊やらヴァンパイアなどに対する専門職みたいなモノだな」

「この世界のヴァンパイア事情なんて知らないけど、特に警戒が必要な相手とは思えないな」

「そうなのか? 悪霊やらヴァンパイアには聖銀ミスリルが有効だとか聞いたケド?」

聖銀ミスリルも勿論、克服している。 聖銀ミスリルの剣とかを所持していても、普通の刃物と変わらない印象だな。 騎士団も殲滅せんめつしたケド、似なような印象かな。 まぁ私からすれば雑魚と対して変わらないかな」

「異世界のヴァンパイアはみんなそうなのか?」

「いや違うぞ。 普通のヴァンパイアは聖水だって苦手だし、日光なんかも苦手だ。 それを克服した者は『超克者』なんて呼ばれ方をするな。 真祖はその超克者の上位存在なんだ」

「いまの王国軍は必死になって、聖水やら聖銀やらを調達しているんだぜ? それらが全ては無駄な努力って事になるのか?」

「まぁ、こっちで作った下僕の吸血鬼には効果があるから、全てが無駄ってワケではないかな。 まぁ甘ちゃんのヒヨッ子なんで、戦力としては考えていないんだ。 私一人で対応するつもりだし」

「結局は無駄って事じゃねぇか。 でも一人で勝てるのか?」

「余裕じゃないかな。 コッチは街中での戦闘になっても、周囲への被害なんて無視出来るから、極大魔術だって使いたい放題なんだ。 まぁソレを抜きにしても、負けるとは思っていないけど」


 周辺住民の事を考えるなら市街戦なんてもってのほかなんだろうけど、こればっかりは相手次第だからなぁ。 まぁ無関係な市民まで虐殺したいワケじゃないんだけど、きっと面倒になったら極大魔術とかを使いそうな気がする。


 だって、相手は大人数で攻めてくるんだから、チマチマ殺していたら終わらない気がするんだよね。 そんな事をする位なら、1ブロックが確実に吹き飛ばす爆裂魔術を選ぶ気がするし。


 魔力量だって膨大なんだから、魔力を節約する意味も無いしね。 まぁ出た所勝負だ。


「極大魔術ってどんなのがあるんだ?」

「コッチの世界で使った事が無いから確かな事は言えないケド、想定している極大魔術の大半は、街の1ブロックが更地になったり、灰になったりする感覚かな」

「是非とも市街戦は止めてくれ」

「そうは言っても、相手がどう出るかで変わってくるよ。 私としても一般市民を皆殺しにするのは忍びないとは思っているんだ。 それに障害物がない方が威力が増す傾向にあるから、野外戦の方が好みかなぁ」


 平原での戦いだったら、メテオ・ストームとかも使えるしね。 こればっかりは使ってみないと威力が分からないから、流石に街中での使用は控えるつもりだ。 だって宿屋とかを吹き飛ばしてしまうと、野宿になっちゃうもんね。


「そりゃそうか」

「それで、王国軍の詳細は?」

「今分かっている範囲で説明するなら、兵士が3千、近衛騎士が200、聖騎士が100って話だ」

「何だか、思っていたよりも少ないな」

「そうかぁ? 討伐軍としてはかなりのモノじゃないのか? それもお前1人に対してと考えるなら、過剰戦力かと思っていたぜ」

「まぁ、王城にいた兵士とか騎士とか殺しまくっちゃったからね。 その位は必要だと考えたのかも」


 おおぅ、やっぱりいるのか近衛騎士。 経験知的には美味しそうだな。


「ウチが知っている事は、その程度だ」

「じゃぁさ、今の王城がどうなっているか知ってる」

「少しずつだが、人が戻って来ているそうだぞ」

「王族は?」

「今は宰相が治める侯爵領にいるって話だ」

「今回の討伐軍に加わると思う?」

「どうだろうなぁ。 士気高揚の為に加わるのもアリっちゃぁアリだが、基本的に小心者だしなぁ」

「えっ、小心者なの? 拉致召喚なんてやるんだから、強欲ごうよくなタイプかと思っていたのに」

「ビビリな強欲って表現がピッタリだと思うぞ」

「そうなんだぁ」


 聞きたい事は聞いたし、そろそろおいとましようかな。


「おや? もう帰るのか?」

「知りたい事は、聞いたしね。 あっ、それと収納スキル狙いのバカ共は、める様に言って貰えるかな? 鬱陶うっとうしくて、殺したくなる」

「分かった。 周知しておこう」

「それじゃぁね。 バイバイ!」

「あぁ、それじゃぁな」


 出口まで案内されて、奴隷商を出た。 もうそろそろ、大鎌のメンテナンスも終わっている頃じゃないかな?


 そっちに向かって、歩み始める。 うん、追跡者はいなくなったみたいだ。


 街をブラブラしながら鍛冶屋の方面に向かっていると、すれ違う冒険者からは目を逸らされた。 せぬ。 襲って来ない限りは手を出す予定は無いのに。


 そして鍛冶屋へ到着。 勝手に店内に入って、質問してみる。


「おっちゃーん。 私の大鎌のメンテナンスは終わってるかい?」

「おぅ、出来てるぞぃ。 試し斬りでもしていくかぃ?」

「えっ、マジで?」

「おぅ、サービスじゃて。 裏庭に藁束わらたばがあるから試していくと良いさ」

「んじゃぁ、お言葉に甘えて」


 死の大鎌デス・サイズを受け取り、裏庭に向かう。 到着すると、藁束の人形がいくつもあった。 ほぅ、どれどれ。


 刃筋はすじを立てて、サクッと引いてみる。 すると、音も立てずにサクッと切れた。


「なぁ、メンテナンス道具とかって売ってるの?」

「あるぞぃ。 とは言っても、血脂を拭き取る専用の布と、砥石といしくらいなモノじゃがな」

「売ってもらって良いかな?」

「セットで銀貨1枚じゃ」

「高くない?」

「アダマンタイト用の砥石が高いんじゃよ」

「それで良いや。 はい、銀貨1枚」

「まいど!」


 こうしてメンテナンスセットを手に入れた私は、鍛冶屋を後にした。


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