冒険者編

第31話 冒険者編 冒険者ギルドへの報告

 気が付くと、東の空が明るくなりかけていた。 二人で、残ったゴブリン狩りをしていると、どうやら夜が明け始めた様だ。


「なぁ、セバス。 もうそろそろ帰らないか? 宿も取りたいし」

「そうですなぁ、お嬢様。 私もスッカリ昼夜逆転の生活になりそうです」


 あれから狩ったゴブリンの数も多い。 生き残りが結構いたのだ。


「そう言えば、街の門が開くまでには時間があるんじゃないか?」

「それなら、それまでは朝食に致しましょう。 今度は私が作りますよ」

「おおぅ、お前は料理が出来るのか?」

「野営料理程度ならば少々。 香草でも拾って参りましょう」

「うん、そうだね」


 そう言って二人で香草や野草を摘み取りながら、まかどを作った場所まで帰る。


「お嬢様、ホーン・ラビットを出して頂けますか」

「あぁ、いいぞ」


 そう言って、ストレージからホーン・ラビットを取り出してセバスに渡すと、私は薪拾たきぎひろいに出掛けた。 その間に、セバスにはウサギの下処理を頼んでおく。


 そして一抱え程度のたきぎを持ち帰った時だろうか、セバスは既に料理を始めていた。 私はたきぎをセバスに渡して料理が出来上がるのを待つ。


 何だか野営ではウサギばかりを食べている印象だが、今度は香草焼きになる予定なので文句は言わない。 私はボトルのワインを出してチビチビやりながら、料理が出来上がるのを待った。


 すると程なく、焼けたウサギの良い匂いがしてくる。 何だかんだ言ったって、労働の後の食事には俄然、期待が上がった。


「出来上がりましたぞ、お嬢様」

「あぁ、頂くよ」


 セバスの分のボトルのワインを手渡して、代わりに焼きあがったウサギの香草焼きを手に取る。 見た目は普通の丸焼きと大した違いは無いが、かじり付くと香草のシッカリとした匂いも付いて旨味が口いっぱいに広がった。


「あっ、そうだ。 王宮の食料庫から失敬したパンもあるんだった。 食べる?」

「えぇ、是非。 火で少しあぶると美味しゅう御座いますよ」


 そう言って、ストレージの中からフランスパンみたいな日持ちのするパンを取り出す。 するとセバスは、爪で薄くスライスして軽く火で炙る。 それに加えてスライスしたウサギの香草焼きを挟んだサンドイッチを作ってくれた。


 喜びいさんで齧り付く。 すると、ホッカホカのサンドイッチは驚くほどに美味かった。


「美味いな、コレは!」

「チーズなどもあれば、もっと色々出来るのですが、今は持ち合わせがありませんから」

「そうだな。 今度、野営をするときは道具と食材を買い込んでからにしよう」

「野営料理で宜しければ、腕を振るいますよ」

「あぁ、その時は頼むよ」


 そうして、ウサギサンドを堪能していたら、夜はスッカリと明け、朝日が昇っていた。


「流石に夜通し戦い詰めでは、少し眠たくなって参りましたな」

「ヴァンパイアは普通、朝日が昇ると眠るモノだからな。 とは言っても、お前の場合は徹夜が祟っているだけだと思うぞ」

「お嬢様は眠くないのですか?」

「真祖以上になると、睡眠は不要になるんだ。 そりゃぁ眠る事も出来るけど、特段眠いって事は無いかな」

「私も、早く真祖にならなければまいりませんね」

「急ぐ必要は無いさ。 今日はギルドに寄った後にでも宿を取ろう」

「お手数をお掛け致します」


 食事を終えたので、火の始末をして街へと向かう。 すると、門の近くでは朝早くから採集や狩りに出掛ける冒険者たちとすれ違った。 彼らはこれから仕事始めなのだろう。


 冒険者カードを見せて、王都に入る。 目的地は当然、冒険者ギルドだ。 この時間帯は王都から出る者が多く、流れに逆らう恰好になった。


「邪魔だなぁ。 ぶっ飛ばしちゃおっか?」

「お止めください、お嬢様。 彼らは敵では御座いません」


 お茶目な冗談だったのだが、セバスに本気で起こられた。 どうやらヴァンパイアでも無差別殺人は禁止らしい。


 そんな事もありながら、冒険者ギルドに到着する。 すると、今回は全員から目を逸らされた。 勿論、受付嬢も含めて。 せぬ。


「受付嬢さんやーい! やっほー!」

「ひぃぃぃ~っ! 来たぁぁぁ~っ!」

ひどくない? それとも、もしかして死にたい系?」

「今回は、どう言った厄介事ですか?」

「死んでみる?」

「今回は、どう言ったご用件でしょうか?」

「キング・ゴブリンを討伐した件についてね。 換金とか、その他諸々」

「ギルド・マスターを呼んできます。 マスター! ギルド・マスター! 例の危険人物がお呼びです!」


 受付嬢は、厄介払いの呪文か何かように「ギルド・マスター」を連呼していた。 本当に嫌われたモノである。


 そのままギルド・マスターの部屋に案内されて、イキナリ不躾ぶしつけな質問を受けた。


「で、今回は何をしでかしたんだ? もう、手配書は取り下げたハズだが?」

「えっ、取り下げちゃったの? 手配書。 冒険者を狩れる良い口実だったのに」

「狩られたら迷惑なんだよっ!」

「こっちは別に、迷惑だなんて思っていないよ?」

「ウチが迷惑なんだよっ! それより、今回は何をした! 教会でも襲ったか?」

「どうしてココで教会が出てくるんだ?」

「んぁ? 知らねぇのか? 何でも国王と宰相と聖教会が、ヴァンパイア討伐軍を組織するって話だが」

「そっかぁ、聖教会とやらは私と事を構えるつもりなんだぁ。 それは是非とも挨拶にいかなきゃだね」

「おぃ、やめろよなっ! 教会には孤児院だってあるし、一般の信徒やシスターたちは無関係なんだから」

「まぁシスターの血の味には興味があるが、それは後で考えるとして」

「だから、襲撃計画なんて立てようとしてるんじゃねぇ!」

「キング・ゴブリンを討伐したんだ」

「ゲテモノ喰い、いやゲテモノ飲みなのか?」

「真面目に話す気が無いなら、経験値にしちゃうぞ」

「分かった、キング・ゴブリンを討伐したんだな。 場所は何処だ?」

「オークやウルフの狩場になっている森だよ」

「結構近くの森じゃねぇかっ! ゴブリン・スタンピードの予兆なんて聞いてねぇぞっ!」

「ほれっ!」


 そう言ってストレージの中からキング・ゴブリンの首を取り出して、ギルド・マスターに放り投げた。


「うぉっ! マジでキング・ゴブリンじゃねーかっ!」


 イキナリキング・ゴブリンの首を渡されたギルド・マスターは、暫く何かを考えているかの様子だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る