第24話 異世界転移編 不器用

「なぁセバス、少しやつれたか?」

「こんなにもウサギ狩りが難しくなっているとは思いませんでした」


 そう言う割には、袋の中には生きたホーン・ラビットが5匹入っていた。 気配が駄々漏だだもれなのにどうやって捕獲したのか、そっちの方が気になった。


「お前、それで良くホーン・ラビットを捕まえる事が出来たな」

「足は私の方が早かったモノですから」

「力技すぎるわっ!」


 はぁ、そう言う事じゃ無かったんだけどな。 自分がウサギから逃げられている原因には、頭が及ばなかったらしい。


「まぁ良いや、もうすぐ日も落ちる。 お前はそのウサギを調理出来るか?」

「えぇ、軍にいた頃は良くウサギを食べていましたので」

「なら良いや。 お前、爪を伸ばしてみろ」

「爪を伸ばす?」

「意識して伸ばしてみろ。 下手なナイフなんかよりも切れ味が鋭いぞ」

「こう…でしょうか?」


 すると、爪が3センチ程伸びていた。


「もっと長くだ」


 そう言って手本として右手の人差し指の爪を10センチ程に伸ばして見せてみる。 すると、それを見たセバスも同じく10センチ程、全ての手の指の爪を伸ばす。


「いや、右手の人差し指だけで良いから」

「こう…ですか?」

「やれば出来るじゃないか」


 そう言って、袋の中から一匹のホーン・ラビットの足首を左手で持って、セバスに手渡す。 するとそれを同じく左手で掴み取った。


「その状態で、首をねてみろ」


 スパッ!


「そのまま血抜きだ。 そこの穴に首と血を落とすと良い」

「はい、畏まりました」

「血抜きが終わったら、残りのウサギも同じ様に処理しておけよ。 私はたきぎを拾ってくる」

「暗くなって参りましたし、たきぎを集めるのは困難なのでは」

「ヴァンパイアは夜目が効く。 問題ない。 時間が余ったら、皮もいでおけよ」


 袋を手渡して、私はたきぎを集めに森に入った。 自分でも言った通りだが、ヴァンパイアは夜目が効く。 まるでスターライト・スコープでも着けているかの様に、周囲が見えるのだ。


 なので、薪拾たきぎひろいには苦労しなかった。 当然の事だが、私はヴァンパイアになる訓練などは受けた事が無い。 ヴァンパイアがどう言った存在なのかを知っているだけだし、そのアバターを使い慣れていただけだ。


 セバスはきっと、ヴァンパイアの事が良く分かっていないのだ。 この世界ではヴァンパイアが珍しいのか、それとも単純にセバスの知識が無いだけかは知らないが。


「こりゃぁ、ヴァンパイアの特性とか色々と説明しないといけないんだろうな」


 セバスの位置は少し離れた所からでも、あふれ出す気配で丸分かりだった。 まぁバカな魔物以外は近寄って来ないだろうから、今の状態が間違っているとは言えないのだが。


 今晩はこの森に中で過ごすつもりだ。 良い機会なので、セバスにはヴァンパイアとしての自覚を持って貰いたいのだ。 その訓練には打ってつけだろう。


 そうして森の中を彷徨うろついていると、簡単にたきぎが集まった。 私は気配を消しているのだがセバスがいるお陰で、魔物に襲われる事もない。


 そうなんだよな。 ヴァンパイアって夜を主体に生きる者だし、日が落ちると何だか少し安心する。 夜の帝王って言うとイヤラシイ感じに聞こえるけど、まさしく夜の王なのだ。


 セバスはどう感じているのだろうか? 私はヴァンパイアの弱点は全て克服しているから別に日中の活動などには忌避感を感じないんだけど、セバスは日光すら克服出来ていないもんな。


 そんな事を考えてながら帰ってくると、セバスは全てのウサギの皮剥を終えた状態で、大人しく待っていた。 いや、一々命令しないと動けないタイプなのだろうか? 先が思いやられる。


「ただいまぁ。 ほれ、たきぎ。 これだけあれば足りるだろ?」

「あっ、はい。 かまどを作ります」

「何かあったの?」

「いえ、別に何かあったワケではないのですが、日が落ちると落ち着くと言いますか、どうやら追手の事でも気になっていたみたいです」

「追手?」

「私たちは、一応。追われる立場なのですよ?」

「じゃぁその追手に負けるイメージがくかい?」

「いえ、夜が深く慣れななる程に、どんな敵でも勝てるイメージが湧く気がします」

「ヴァンパイアだからね。 真夜中にでもなれば、例え腕や足を失ってもすぐに生えてくるよ。 私たちは、そんな化け物なんだ」

「化け物…」

「周囲を良く見てごらんよ。 暗い場所でもハッキリと見えるでしょ?」

「確かに…」

「それに空だって飛べるハズなんだ。 爪はナイフなんかよりも切れ味は凄まじいし、その上に不死身に近い体。 まぁ負ける方が難しいよね」

「私も飛べるのでしょうか?」

「そのハズだよ。 ヴァンパイアの基礎スキルの一つだし」

「お嬢様、少し試してみても宜しいでしょうか?」

「ウサギの味付けが塩コショウのみで良いならね」

「少し、空の散歩を楽しみたく存じます」

「その時に、闇に同化するイメージを持てば良いと思うよ。 そうすれば、ウサギが逃げていく事も無くなるだろうからさ」

「ご助言、感謝致します」


 そう言ってセバスは、生まれて初めての空の散歩へと飛び立って行った。 何だか少し、文字通り浮かれているみたいた。


 まぁ夜明けまでの時間制限付きかも知れないけどね。 その事は少し黙っておこう。 勿論私には時間制限なんて存在しないんだけど、今は内緒だ。


 そんなセバスを見ていると、ゲーム時代の事を思い出した。 ゲーム内時間限定だけど、昼にはデバフ、夜にはバフが掛かる特殊な種族。


 そう言えば、初めて日光を克服したのって、どうだったかな? 何だか最初はクソ雑魚で、日の当らないダンジョンを周回していたんだっけか。


 初めてPKを行ったのもダンジョン内だった気がする。 相手はパーティーだったんだよなぁ。 こっちはボッチだったのに。


 そして、「吸血鬼め、覚悟ぉー!」とか言われて襲われたんだっけか。 あの時は辛勝だったな。 聖銀ミスリルのナイフとか持たれていたし。


 でも、その事があってから本気で強くなろうと思ったのは覚えている。 普通にエルフとかを選んでおけば良かったとか、少しの後悔と共に。


 今のセバスは、あの時の私と一緒だ。 吸血鬼である事がバレると、色々と苦労をするハズだ。 一度、ブートキャンプみたいにダンジョンの周回とかやってみるもの良いかも知れないな。


「おっと、忘れるところだった」


 かまどを少し大きくして、ウサギに枝を刺して火にべる。 うん、きっと今日は忘れられない夜になるな。 そんな事をボンヤリと思った。


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