第22話 異世界転移編 魔術

「次は魔術の検証か」


 ストレージの検証は一通り終わったので、次は魔術の検証を行う事とした。 と、その前に魔力操作などの基本的な事も確認しておくべきだろう。


 目をつむり、体内を巡る魔力を感じ取る。 するとカンストしていたセイもあるのだろうが、嵐の様に体内を暴れ回っているのを感じた。


「それにしても、凄まじい魔力量だな」


 暴れ回っている魔力を、高速に血管の中を流れるようにイメージする。 すると、今までは太陽の様に発散するだけだった魔力が研ぎ澄まされた様に体中を巡るのが感じ取れた。


 体からあふれ出ていた魔力も止まり、心臓を中心に強い光の様な魔力が体中を巡っては心臓に戻って来る。 そうか、魔力の中心は心臓であって丹田たんでんではないのか。


 今度はそれを、筋力を増加させるイメージで筋繊維に流し込む。 すると筋繊維が何倍にも膨れ上がったかのような印象を受けた。


「これって、身体強化なのか?」


 全身の筋力を強化すると同時に右手の拳にも魔力をまとわせて、近くにある大木を殴ってみる。 すると、手首までもが埋もれる程に拳が木にめり込んだ。 同時に各部の骨が悲鳴をあげる。


「痛てててて。 骨格まで強化していないと、体がたないな」


 今度は、骨格を含めた全身を強化して、もう一度大木を殴る。 すると今度は、大木が大きな音を立てて途中からポッキリと折れた。


「魔力で全身強化を行えば、へたなモンクよりも強そうだな」


 そりゃぁ化け物みたいな気配と強力な魔力を放つ存在がいれば、魔物を含めた動物などが逃げ去ってしまうのが分かる気がした。 だって死ぬイメージしか浮かばないもんな。


 魔力を体内に収めてしまえば魔力感知だってくぐれそうだし、そもそも、気配遮断は吸血鬼の十八番おはこだ。 暗殺稼業なんてすれば、ウハウハなのではあるまいか?


 今度は潜水艦がピンを打つ要領で、周囲の魔力を感知してみる。 すると、ボンヤリとした反応だった魔力感知が、今度はハッキリとしたイメージで返ってきた。


 そこかしこで、息を殺して気配を断っている動物や虫、蜘蛛などの反応が手に取るように分かる。 こりゃぁ気配察知よりも優秀だなと思った。


 ヴァンパイアの気配察知は獲物を探すのに特化しており、人間以外のモノは漠然とした反応だった。 もしも対象が人間だったら、息を殺してクローゼットの中に入り込んでいたとしても見つけられる自信がある。


 しかし、魔力探査なら他の動植物でも魔力を持つ存在なら見つける事が可能だ。 難点を言えば、魔力探査を行えば魔力に敏感な獲物なら逆に察知されてしまう事だろうか?


 言ってしまえば、魔力探査はパッシブなのだ。 状況に応じた使い分けが必要だろう。


 範囲はかなり微妙で、遠くなればなる程に精度が甘くなる感じだ。 勿論、私とセバスでは能力値が違うのだから正確な数字にするのは難しいが、精度が高いスキャンとなると、500メートルあたりが限界なのではないかと思う。


 出力を上げた魔力探査なら数キロは察知可能なのだろうが、長距離狙撃でも行われない限りは、身の危険は無さそうだった。


 よし、次は魔術か。 気配遮断は常時行っていたセイもあって、魔物たちは逃げ出していない。 そこで、魔力探査で明かになったゴブリン数匹をターゲットにしてみようと思う。


 距離は、150メートル程、私の存在には気が付いていないみたいだった。 ここは得意な闇魔術系統から試すとしよう。


「ダーク・バレット!」


 黒い弾丸が、薮を突き抜けてゴブリンの頭に命中する。 すると、その頭は爆散して砕け散った。


 仲間のゴブリンたちは、どこから攻撃されたのか分からずに狼狽うろたえている。


「ダーク・バレット! ダーク・バレット! ダーク・バレット!」


 射線が通るたびに黒い弾丸を発射する。 すると残っていたゴブリンたちは、あっという間に全滅した。 まるでハンドガンでヘッドショットでも行っている気分だ。


 ハンドガンってのは、通常の射程距離は10メートルも無いんだけどな。 まぁそれにスコープも無しで150メートルのヘッドショットって、ヴァンパイアの視力が無いと無理だったとは思う。


 でも、当たってしまうのだから仕方がない。 これはもう、種族チートだよな。 そう思う事にした。


 500メートルの範囲内に多いのは、ウサギの魔物に加えてゴブリン。 ウルフやオークの狩場だって聞いていたけど、食物連鎖の関係か、それよりも弱い魔物がかなりいる。


 だが射線が通る魔物なんて今回のゴブリンを除けば殆どいないので、あきらめてセバスのいる方向に歩き始めた。 いや、忘れていたワケじゃないんだよ、追い込みの役目。


 すると、今度はつののあるウサギに遭遇した。 ファンタジーにありがちなホーン・ラビットだ。 気配や魔力を抑えているからか、こちらの様子を伺っている。


 別の魔術も試してみるか。


「ストーン・バレット!」


 小さな石のつぶてが、ホーン・ラビットの眉間みけんに命中する。 うーむ、速度や威力はダーク・バレットの下位互換だな。 ヴァンパイアは闇魔術が得意って設定があったんだけど、これなら他の魔術はあまり出番が無さそうだ。


 今度はホーン・ラビットの死体をストレージに仕舞い込み、更にセバスがいる方向に進んでみる。 すると、いた。 ウルフだ。


 試しに気配遮断と魔力遮断を解除すると、私から遠ざかって行く。 行くには行くのだが、セバスがいない方角に逃げてしまった。


「ダメじゃん」


 どうやら最初に遭遇したウルフは、逃げられないと悟ったのか私と戦闘になったが、十分な距離がある場合は別みたいだ。 先頭民族みたいな発想は無いんだな。


 だからあきらめて、気配遮断と魔力遮断を再開する。 こりゃぁセバスに気配遮断だけでも覚えてもらわないと、ダメかも知れない。


 そんな事を考えながら進んでいると、再びゴブリンと遭遇した。 弱い獲物とでも遭遇したかの様に小躍こおどりしている。


「いや、お前らはいらないんだよ。 ダーク・バレット・ガトリング!」


 鎧袖一触がいしゅういっしょくで処分していく。 何だろう、出来の悪いガチャでもやっている気分だ。


「おーい、オークさんやーい! ウルフさんやーい!」


 ヤケクソで叫んでみるが、襲ってくるのはゴブリンばかり。 やっぱり知能って大事だわ、っと強く思った。


「ダーク・バレット・ガトリング! ダーク・バレット・ガトリング! ダーク・バレット・ガトリング!」


 どうやら私に追い込み漁の適正は無いらしい。 気が付けば、気配察知の中にセバスの反応があった。 はぁ。


 そして再開する、セバスと私。


「どうなさったのですか、お嬢様。 随分とお疲れのご様子ですが」

「うん、ゴブリンを狩りまくっていたらこうなった」


 そうして、私たちの最初の狩りは。失敗のうちに終わった。


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