第20話 異世界転移編 オーク

 気配を消して、森の奥を目指して進む。 すると、今度は少し大きめの気配が二つ現れた。


 用心深く息を殺して近付きながら、その気配の正体を探る。


「ほぅ、アレがオークか」


 身長は2メートルを優に越え、随分ずいぶんと皮下脂肪が厚い。 しかも丸太を削ったかの様な棍棒まで備えている。


「爪撃では無理か」


 皮下脂肪の厚さを考えると、爪撃では致命傷を与えることは難しいだろう。 勿論魔法込みならば圧勝出来るのだろうが、今は体を慣らしておきたい。


 だから爪での攻撃を諦めて、愛刀である黒雨くろさめをストレージから引き抜いた。 今まで武器らしいモノを所持している魔物はいなかったし、丸太のような棍棒なんてのも初めてだ。


 幸い、二匹のオークは背中を見せている。 呼吸を整え、一気に背後に迫って袈裟斬けさぎりに斬り付けた。


「ブモォォォ~ッ!」


 上手く斬り付けたつもりであったが、皮下脂肪が厚かったのか、それとも斬り付けがが甘かったのか。 致命傷には至っていない。


 すると、無傷であった方のオークが棍棒を振り下ろしてきたので、黒雨で受け流す。 いや、受け流したつもりだった。


 だが結果はまさかの棍棒の両断、斬り飛ばした先端部分が襲ってきた。


「くはっ!」


 棍棒とは言え、実質は丸太も同然。 その先端部分も大きめの木材で、したたかに背中を強打する。 するとダメージにはならなかったが、肺の中の空気を押し出されてしまい、足が止まってしまった。


 さらに今度は、背中を斬り付けたオークがコチラを見ながら棍棒を振り下ろす。 私は咄嗟に左手をから放して、手の平で棍棒を受け止めた。


 圧倒的なステータス差があるからこそ出来た事だが、とてもスマートな戦い方とは言えない。 残る右手の黒雨でオークの腹を切り裂いたが、今度は皮下脂肪で滑る様な形になり、浅く切り裂いただけだった。


 ダメだ、つつもりで斬り付けないと、ダメージにならない。 そう思った私は、オークの足を踏み込んでから斬り飛ばした。


「ブモォォォ~ッ!」


 そうして倒れ込んでくるオークの首を素早く斬り飛ばす。 そして、残ったオークに向けても踏み込んで、ガードしようとした左腕を斬り落とした。


「ブモッ、ブモッ、ブモォォォ~ッ!」


 流石に敗北を悟った様だがもう遅い、今度は刀身のほぼ全てを使った胴切りで、脇腹をさばく。 すると、オークは瀕死になった倒れたので、首を飛ばして終わりにした。


 残ったオークの死骸をストレージに仕舞い込みながら黒雨くろさめを見る。 すると脂肪がベットリとまとわり付いており、とてもじゃないが使用出来る状態ではない事が確認出来た。


 ストレージからボロ布を取り出して刀身のあぶらを拭き取る。 日本刀の手入れってどうやるんだっけ? などと思いながら、そもそもはがねじゃなくてアダマンタイトで作った刀なのだからと、最後は魔術に火で軽くあぶって脂を飛ばして納刀した。


 うん、現実なんだから、武器の手入れは必要だよな。 ゲームの時はそもそも手入れが必要でなかった事もあり、苦労した事はない。 だがこの世界では贔屓ひいきの鍛冶屋か何かを作っておくべきだろう。


 これは、後でセバスに相談するか。 そういや今回の私の役目って追い込み役だった事を今更ながらに思い出す。


 気配遮断を止めて、セバスの方に向かう事にした。 今からは、敵とエンカウントした場合は、魔術で対処する事にしよう。


 そう言えば現実になった事で、検証しなければならない事ってそれこそ無数にあるんだよな、っと改めて思い直した。


 デスマーチな小説ではストレージの検証なんかも行っていたが、私も色々と検証しておいた方が良さそうだ。 今までは目に付いたモノを殆ど無意識で収納していたけど、収納可能な範囲は5メートルを越えている気がする。


 それに本当にストレージは時間が停止しているのだろうか? 暖かい食べ物でも収納してみて、温度変化などが発生するかどうかの確認はしておくべきだろう。


 だが、何となく気になったので、最初の神殿で殺した術師の死体を出してみた。 そして気付く。 ほんのりと生温なまあたたかった。 腐敗などの様子は見られない。


 あっ、目が合った。 ストレージに無言で仕舞い込む。 何とも言えない気分だ。


 私は、死体愛好者ネクロフィリアではない事が確認出来たが、分類上は多分サイコパスだ。 良心の呵責かしゃくなんて微塵みじんも感じないし、罪悪感も無い。 今でも正当な行為だったとの自負がある。


 おかしいな、普通のOLだったハズなのに。 とは言っても落ち込むワケではない。


 動画に例えるなら、フルHDが4Kになってモザイクが消えたって感じるレベルだ。 いや、動画に例えるのは無しだな。 何故なら、新しいゲームを見つけたようなワクワク感があるからだ。


 そりゃぁゲームにしては、説明不足な感じは否めないけど、新しい発見に満ちあふれている。


 転移したての頃は、限界突破に脳汁がガバガバ出て細かな事には気が付かなかったケド、今は違う。 例えて言うなら魔力感とでも言うモノがある。


 私の中には魔力が常に渦巻いており、ソレが肌から溢れ出ている。 その魔力を薄く周囲に伸ばしていくと、私とは違う魔力にぶつかる事がある。


 魔力を帯びた草やキノコ。 恐らくは、何らかな価値があるじゃないかな?


「鑑定」


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 種類 : 薬草

 効果 : 使うと僅かに体力が回復する

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 種類 : 魔力茸

 効果 : 使うと僅かに魔力が回復する

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 ねっ、思った通りだ。 これは魔力感知と名付けよう。 そえれに面白いのが、気配は感じられないが魔力を感じる生き物がいる事だ。


「鑑定」


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 名前 : なし

 種族 : ホッピング・スパイダー

 性別 : ♀

 レベル: 8

 体力 : 20

 魔力 : 5


 筋力 : 10

 持久力: 20

 賢さ : 8

 器用さ: 10

 素早さ: 15


 攻撃力: 8

 防御力: 10


 スキル: なし


 取得魔術: なし


 称号: なし


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 少し、臆病で弱そうな蜘蛛くもが、息を殺してコチラを観察していた。


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