第19話 異世界転移編 違和感

「くそっ、当たれっ!」


 渾身こんしんの一閃が容易たやすくかわされる。 ステータス的には私の方がはるかに上回っているハズなのに、グレート・グリーン・ウルフに翻弄ほんろうされる戦いが続いていた。


 原因は恐らく、思考加速も含めて己れのステータスを上手く利用出来ていない事が考えられた。


 コッチがステータスに振り回される事を尻目に、好き勝手にされているとも言えるだろう。 くそうっ、巫山戯ふざけやがって!


 幸なのは、こっちの防御力が高く有効打を一度も喰らっていない事だろうか? それでも攻撃のモーションを入れる度にウインドカッターなどの魔術で邪魔されるのは頭に来るが。


 もっとだ! もっとスピードを出さなければ!


 まるでギアが上手く入らないミッション車でも運転しているかの様でイライラする。 だが、一閃一閃の速度自体は上がっている。 問題なのは、スピード感に自分の体が上手く順応出来ないでいる事だ。


 初心に帰れ、そして思い出せ。 ジョイスティックやコントローラーなんかじゃなくて、学生時代はどうやって竹刀を振っていた? 面の打ち方は? 小手はどうだった? 胴の打ち方は?


 体で動作を思い出すべく、刀を振るっていく。 そして思い出す、足裁あしさばき。


 そうかっ、コレかっ!


 神経が繋がっていくかの様に体が自然と動く。 すると、今まで通らなかった攻撃が、有効打になっていった。


 気が付くと、自在に操れる様になった剣術が相手に届くようになっており、グレート・グリーン・ウルフの体には沢山の刀傷が刻み込まれていた。


 かわし、斬り付け、防ぎ、突きを放つ。 形勢の不利を悟ったグレート・グリーン・ウルフは、距離を取って暴風魔術を放って攻撃してくる。


「ちっ、面倒な」


 私は魔力障壁の強度を上げて、ただ只管ひたすらに相手との距離を詰めに掛かる。 後退するグレート・グリーン・ウルフと前進する私。 そして刀が首筋まで届く距離まで接近すると、大上段で相手の首を落とした。


「勝には勝ったが、こんな雑魚相手に苦労させられるとはな」


 狼たちをストレージに仕舞い込みながら、今回の反省点を思い出す。


 私自身、自分のステータスに振り回されるとは思わなかった。 いや、今回の様な相手にめぐり逢えたのは僥倖ぎょうこうなのだろう。 ステータスに差がある相手でも、こんなにも苦労する事があるのだ。


 マウスやキーボード、ジョイスティックやゲームパッドと体を使うことは根本的に異なるのだ。 きっと死の大鎌デス・サイズばかりを使っていたせいで、それ以外の体の使い方を忘れているかのようだった。


「これは、今の内に慣れていないと、後で後悔しそうだな」


 死の大鎌デス・サイズを使った攻撃は、基本的には範囲攻撃だ。 そうではなく、面や線、点などの攻撃には、慣れておく必要があると思った。


「となると、まずは爪撃そうげきからか」


 ヴァンパイアの通常の攻撃手段は、牙と爪、そして血流操作を使った攻撃がある。 その中で牙を使った攻撃は、トドメを刺す場合などに使われて、言わば最終手段である。


 となると、爪を伸ばしての爪撃そうげきとなるのだが、私は威力が出ないので刀や大鎌に頼って攻撃するようになっていた。


 だが現実では、森の中などの障害物が多い場所では、大鎌どころか剣術だって怪しいモノだ。 となると、ゲームではあまり使用する機会が無かった爪撃を鍛えるべきであろう。


 そう結論した私は、意識を集中して爪を伸ばしてみる。 長さは10センチといったところか。


 その状態で、気配で次の獲物を探してみた。 ダメだな。 遠ざかっている。


 本来なら弱い魔物相手に体を慣らしていきたい所だが、こちらの気配に恐れをなして逃亡している最中みたいだ。


「そう言えば、ヴァンパイアの種族スキルに、気配遮断もあったよな」


 そう思い直し、自分の気配を消してみる。 すると、逃げていく気配がピタリと止まった。


「これなられる!」


 気配を消したまま、静かに対象に近づくと、そこには数匹のゴブリンたちがいた。


『鑑定!』


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 名前 : なし

 種族 : ゴブリン

 性別 : ♂

 レベル: 11

 体力 : 80

 魔力 : 5


 筋力 : 20

 持久力: 40

 賢さ : 15

 器用さ: 8

 素早さ: 10


 攻撃力: 10 + 8

 防御力: 15


 スキル: なし


 取得魔術: なし


 称号: なし


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 まるで、子供だなっと思った。 だが容赦ようしゃはしない。


 相手の前に飛び出して、爪撃による袈裟斬けさぎりを喰らわす。 すると、一匹目は難なく倒す事が出来た。 次だ!


「ギャッ! ギャッ! ギャッ!」


 何か言っている様子だが、問答無用で首筋をさばく。 すると大量の血を吹き出しながら二匹目が絶命する。


 続いて今度は、逃げようと背中を向けた個体を、心臓を貫くように突きを放つ。 三匹目!


 その様に己れの全身を使った攻撃で、残りのゴブリンたちも駆逐くちくした。


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