第13話 異世界転移編 公爵邸の人々

「なんの御用ですか? ここをデルガンド公爵邸とご存知ですかな?」

「ここに国王が逃げ込んだ可能性があるって聞き及んだもんでさ。 ちょっと臨検させて貰っても良いかな?」

「残寝ながら、国王陛下はいらっしゃっていません。 どうぞ、お引き取りを」

「なぁ、あんた鑑定スキルを持っているだろ。 私としても押し入りたくはないんだ。 鑑定してみなよ」

「押し入れば問題になりますぞ」

「どうせ大した問題にはならないさ。 こばむなら押し入るし、それよりもしもこの中に国王や近衛兵がいた場合はここを更地にするつもりだ。 で、どうするよ?」

「…鑑定!」


 執事の顔が真顔になった。 どうやら事態が飲み込めたらしい。


「それで、どうして国王陛下がこの屋敷にいるなんて話しになったのでしょうか?」

「いやぁ、異世界にいたらこの国に拉致召喚されちゃってさぁ、イラついたんで目についた人間はぶっ殺したんだけど、責任者の国王やら側近やらには逃げられてしまってさ。 困ってたんだわ」

「それと、この屋敷とに、どの様な関係性が?」

「親切なご婦人が、国王が逃げ込むならこの屋敷じゃないかって教えてくれたんだよね」

「それでこの屋敷の臨検を行いたいと?」

「まぁそうなるかな。 なぁに、無実なら暴れたりしないし、誰も殺さないと誓おうじゃないか。 それとも拉致犯の共犯者でもいるのかな?」

「本来なら突然のお客様はご遠慮頂くのですが、どうやら拒める状態では無いご様子ですし、特別にお入り下さい」

「物分かりの良い執事さんで助かったよ」


 そう言うと執事は門を開け放ち、私たちを屋敷の中へと案内してくれた。


「現在、公爵家の皆様方は公都にて過ごされております」

「そりゃぁ良かった。 じゃぁ今回の拉致事件は、国王の独断だったかも知れないね」

「あのお方は配慮に欠ける部分が御座いますから、恐らくはそうで御座いましょう」

「へぇ、かばわないんだ。 何だかちょっと意外だな」

「私は、公爵家の執事でございますれば、公爵家の利益を最優先させて頂いております。 それにドラゴンを上回りそうなステータスを持っておられる方には、逆らわないのが最善と判断致しました」

「この世界にもいるんだ、ドラゴン」

「滅多に遭遇する存在では御座いませんが、過去に一度だけ見たことが御座います」

「それは経験値的に美味しそうだな」

「ドラゴンを食べる習慣でもおありなのでしょうか?」

「そうだなぁ、一度ドラゴンステーキってのを食べてみたくて」

「その幸運が訪れる事を祈っておりますよ」

「執事さんってば、優しいんだな」

「相手によるだけで御座います」


 そっかぁ、いるのか、ドラゴン。 見かけたときは是非とも経験値にしたいところだ。 ゲーム内では、ドラゴンスレイヤーを名乗っていたパーティも存在したけど、彼らはドラゴンを狩っていたのだうか?


 と言うのもゲーム内でもドラゴンという存在は特別で、イベント以外では見つける事が出来なかったんだよね。 なので実はドラゴンって狩った事が無いんだ。 だってイベント自体がパーティ向けのモノが殆どだったし。


 だけど、ヒドラとかならダンジョンボスだった事もあり、乱獲した記憶がある。 この世界だと、ヒドラとドラゴンってどっちが上なんだろうか?


 早くダンジョンとかを見つけて、周回したいものだ。


「ここが応接室で御座います。 お茶の用意を致しますので、暫くお待ち下さい」

「あぁ、毒は効かないけど、入っていないモノが好ましいかな。 毒入りとかだと、ウッカリと暴れ回るクセがあるんだ」

「勿論、最高級のモノをご用意致しますよ」


 そう言うと、執事は私たちを残して応接室を後にした。 気配察知では確かにこの屋敷にいる人間の数は少ないので、私たちをだます意図などは無い様だ。


 もしかしたら、公爵と国王が仲が悪いって可能性もあるけど、少なくとも国王が逃げ込んでいる可能性は低そうだった。


 まぁ城内で異変が起きただけで、サッサと側近と逃げる連中だからな。 護衛する人間だってそれなりに連れ回しているのだろうし、ここは白と考えて良さそうだ。


 しかし応接室にしては、殺風景だな。 王城の応接室っぽい場所は、もっと豪華だったし、色々と飾っていたものだが。


 いや、この応接室だけじゃないな。 無駄な装飾が一切無い感じからすると、公爵家は財政難なのか、それとも虚飾を嫌う人物かのどちらかだろう。


 そんな事を考えていると、ドアがノックされる。


「お茶をご用意致しました」


 そう言って入ってきたのはメイドで、カラトリーにはお茶やお菓子が載せられている。


『鑑定!』


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 ポット: ダージリンティー(ブランデー入り)

 品質 : 上


 菓子 : ラズベリーパイ

 品質 : 上

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 うん、毒を仕込むなんてバカな事は考えていないみたいだっだ。 私は何方かと言えばコーヒー派なのだが、折角のお茶だ。 有難く頂くことにした。


 配膳を待って、立って警戒しているセバスにもお茶を勧める事にした。


「セバス、お前も座ってお茶を飲んだらどうだ」

「そうですね、毒見も必要でしょうし」

「いや、ヴァンパイアには毒なんて効かないぞ?」


「毒物なんて混入させていません!」


 おっと、セバスの物言いが明らさまだったのか、メイドが気分を害してしまった様だ。 まぁ釘も刺しておいたからね、当然毒などを入れるとは思っていない。


 だから、行儀は無視してラズベリーパイを口に放り込む。 おおぅ、意外とシッカリした上質な甘さと酸っぱさが口いっぱいに広がった。


 これは確かに紅茶が欲しくなる甘さだ。 そして紅茶を口にすると、ダージリンの独特な香りとブランデーの香りがして、口の中がサッパリする。


「悪くない」

「お粗末様です」


 そうしてお茶とお菓子を堪能していると、結構な時間を無駄にしてしまった。 いや、お残しは何となくしちゃぁいけない気がしたので、ホールのラズベリーパイをほぼ半分程食べてしまっていたんだ。


 ついでに言うと、残りの半分はセバスがガッついて食べてしまった。 セバスは一応執事服を着ているのだが、どうやらガサツに出来ている様で、ここの執事とは大違いである。


 まぁやましい部分など無いとは思うが、こうやって時間稼ぎを完遂させてしまうのだから、有能だと言えるのだろう。


「すまないがトイレをお借り出来るだろうか?」


 おかしいな、押し入り強盗みたいな気分で突入したハズが、いつの間にか客として来ている気分になってしまっている。


 ほんの少し、出来る執事は恐ろしいなと、ふと思った。


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