第11話 異世界転移編 フルコース

「まぁ人手が足らないから、簡単なモノしか作れなかったがな。 前菜のカルパッチョに、10年物のワインで召し上がれ」

「おおぅ、イタリアンかっ!」


 そこには、生の牛ヒレ肉を使ったカルパッチョに、軽めのワインと言うイタリアンレストランで、出てきそうな料理があった。


「では、私めが毒見を致します」


 そう言いながら、セバスが料理に手を付ける。 まぁ吸血鬼に毒などの状態異常は効かないから、毒見なんて意味が無いんだけどね。


 しかし一応、気になったので鑑定してみる。


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 料理名: 牛ヒレ肉のカルパッチョ

 品質 : 上


 ワイン: クレディーヌ地方の10年物のワイン

 品質 : 上

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 無論、毒などは混入していなかった。 これで毒なんかが混入していた場合は殺さないといけないので、少し気分が晴れた。


 私は、フォークでカルパッチョを救って口に運ぶ。 おおぅ、生の牛肉って少し抵抗があったんだけど、こればこれでいけるな。


 日本でカルパッチョと言うと刺身を使ったモノが多いが、あれは日本独自のモノだ。 本場のイタリアでは牛肉を使うので、どちらかと言えばこちらの方がオリジナルに近い。


 そして、10年物のワインはフルーティーでサッパリとしていて、カルパッチョにも良くあう。 前菜だった事もあり、2人ともパクリと平らげてしまった。


「美味かったぞ、アルファイド」

「それは何よりでした。 次は牛ヒレ肉の香草焼きと、それに合わせたフルボディのワインだ」

「おおぅ、これも美味そうだな」


 次に出てきたのは、同じく牛ヒレ肉を使ったステーキだった。 香草焼きなのに独自のソースが掛けられており、独特の香りが口いっぱいに広がった。 すこし甘めのステーキソースといった感じで、これもまた美味い。 そしてワインの方も、ステーキの味に負けないくらいしっかりとしたモノだった。


「お次は、魚介類をふんだんに使ったパスタに、白ワインで食べてくれ」


 濃厚な魚貝のスープが染み込んだパスタの味が幸せだ。 こちかがメインだったらしく、思わずお代わりまで要求してしまった。 パスタをワインで食べるなんて事は、日本ではしなかったので新鮮に感じる。 えっ、貧乏くさい? ほっとけっ!


「そしてデザートは、苺のタルトだ。 アールグレイで楽しんでくれ」

「デザートは、やっぱり別腹だな」


 少しカロリーオーバーな気もするが、今日は運動したので問題ないだろう。 そう言えばタルトってフランスの菓子だったけ? まぁ国籍不明なコース料理だったが、これはこれで悪くは無い。


 しかもアールグレイってイギリス発祥じゃなかったか? まぁいいや、美味しければ何でも良いのだ。


 そうして良く分からないヨーロッパのコース料理を堪能した私たちは食事代として金貨2枚を払って、調理場を後にした。 代金を支払うとアルファイドは苦笑にがわらいをしていたケドね。


「払いすぎだったのだろうか?」

「いえ、貴族の食事であれば、珍しい金額とは言えません」

ちなみに庶民の料理だったら、どの位が平均なんだ?」

「2人分で、銀貨1枚程度かと」


 銀貨1枚って千円くらいだろうか? そこで疑問に思ったので、貨幣の単位やこの国の物価などについて色々とセバスに聞いた。


 基本的な単位は銅貨1枚で『ドルク』と言うらしい。 しかし一般的には、銅貨何枚とか銀貨何枚とかの枚数で表現するのが一般的らしいのだ。


 というのも、国によって貨幣単位は変わるのだが、金貨や銀貨などの価値は殆ど差が無いとの事だ。 そして貨幣は白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨となっており、銅貨10枚が大銅貨1枚と、それぞれが10倍になるらしい。


 無理やり銅貨1枚を10円と仮定するなら、銀貨1枚は1000円程度と言う事になる。 1食500円かぁ、食料品はそれ程高くはないようだ。


 つまり金貨2枚は、20万円だったって事なので、高いのか適正価格だったのか分からない数字だった。 あの苦笑いには、そんな意味も含まれていたんだなと、ふと思った。


「さて、食事も済んだことだし、城の探索でも再開するか」

「いよいよ、迷惑料の徴収です御座いますね」

「そう、これは正当な権利なのだ!」


 セバスに色々と聞いてみたところ冒険者ギルドは存在するのだが、この国での登録は恐らく無理であろうとの事だった。 その理由がなんと、指名手配されていると思われるからと言われた時は閉口してしまった。


 勝手に召喚した上で、吸血鬼だったからって言って殺そうとまでしておいて、さらに賞金首だと? よし、それらしいのを見かけたら皆殺しにしてやろうと、強く誓った。


 まぁそんな都合もあって、現金収入を得られるまで時間が掛かりそうなので、迷惑料の徴収である。


 当然、廊下に飾ってある壷や絵画なども徴収対象だ。 ただ例外として、この国の王族っぽい絵画は徴収対象から外した。 うん、どう考えたって買い取って貰えそうにないもんな。


 だが、武器庫や食料庫は別だ。 ストレージの中に入れておけば腐らないしされているびないんだから、目に入ったモノは全て奪う。


 食料庫は塩や小麦、干し肉などがメインだった。 後は大量のワイン。 もしかしたら、生水が飲めない地域なのかも知れないな。


 武器庫は少し特殊で、普通の剣や槍、よろいなどに加えていしゆみやら破城槌、投石機や梯子はしごなんかもあった。 当然没収したのだが、戦争でもするつもりだったのだろうか?


 そのところをセバスに聞くと、どうやら本当に他国と戦争するつもりだったらしく、その為に英雄召喚を行ったのだとか。 まぁ来ちゃったのは私だったワケだが。


 そして遭遇する火事場泥棒のメイドや使用人、流石に経験値としても美味しくないし見逃したんだけど、どうやらこの国の王族は使用人たちからは嫌われている様子だった。


 取り押さえた使用人たちから話を聞くと、彼らは退職金代わりになりそうなモノを物色していた様子だった。 それで、お金になりそうな食器類や燭台なんかをぱらっていたらしい。


 盗んだモノを差し出されたケド、それを使用人に返してこの城から立ち去る事を継げると、矢の様に逃げていった。


 何となくだが、王族の人柄とかが伺える一面だった。 そう言えば日本でもかなり嫌われているメガネ総理がいたけど、あんな感じなのだろうかとふと思った。


 やっぱり王族は討伐しておいた方が良かったのかな? なんて思う。


 でもそう言う奴に限って生き汚いんだよね。 自分のためなら何でもするっていうか、近衛騎士団と真っ先にトンズラした事と良い、追いかけるのは難しそうだ。


 まぁ良いや、よくよく考えてみると現金化しやすいモノって限られているんだよな。 破城槌とか投石機とかが売れるとは思わないし。


 だが、面白いモノもあった。 人物が描かれた絵画の裏には結構な割合で隠し金庫があり、その中には現金と証文や証書などが多数あったのだ。 もっとも、王の執務室の隠し金庫は空だったが。


 要は、王族は自分の隠し財宝などを持って近衛兵付きで脱出したのだが、その他の貴族は身一つで逃げ出したって事だ。 何だか死んだ兵士や騎士団とかが浮かばれない気がした。


 まぁ要するに、十分に腐敗した国だったって事だ。


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