第10話 異世界転移編 料理長

 実は騎士たちを撃退した後に、それぞれの部屋を巡っているのだが人の気配がしない。 逃げられた様だ。


「私の経験値がぁ…」


 中には執務室っぽい場所も発見した。 当然、無人ではあったのだが。


 どうしよう、城下町にでも繰り出すべきなのだろうか?


 思い悩みながら、白の中を彷徨うろついていると、セバスと合流した。


「この娘など、どうで御座いましょうか?」


 見ると、年端もいかない幼女であった。 勿論、味見などをした形跡も無く、ただ気を失っているかの様だ。


 私の吸血衝動はそこまで強くないし、何だか犯罪をしている気分になってきたので、セバスに命令する。


「元の場所に返してきなさい。 勿論、味見も禁止です」

「そっ、そうで御座いますか…」


 褒めてもらえるとでも思っていたのか、トボトボと離宮の方へ幼女を抱えて去っていく。 いや、『幼女こそ至高』って考えの方がヤバい気がするぞ。 もしかしてセバスってロリコンなのだろうか?


 そんな事を考えながら城の中を歩いていると、ヴァンパイアの能力によって強化された嗅覚が、良い匂いを捉えた。 場所は一階のある方角からだ。


 自然と足が向くと、そちらにはまだ人の気配が1人分存在する。 どうして逃げないんだ?


 不思議に思ってそちらへと向かうと、それは調理場だった。 一人の男が料理を続けていた。


「逃げないのかい?」

「そう言うあんたは、噂の化け物さんかい? 随分とベッピンさんだな」

「ルビー・サファイアだ」

「じゃぁ俺は、ポテト・サラダだ」

「死にたいのかな?」

「間違った、ブレイアントだ」

「ここで何を?」

「みりゃぁ分かるだろ。 料理だよ」

「一人で働くには、広すぎる調理場だと思うけど」

「火を落とすと、後が面倒なんだよ。 それに調理の途中で投げ出すのは、料理長としてのプライドがね」

「食べる人も逃げたみたいだけど?」

「なぁ、あんた。 俺の料理と俺の血なら、どっちが美味そうに見える」

「料理かな」

「だろ、料理の腕には自信があるんだ」


 面白い男だと思った。 そう言えば映画の『タイタニック』では沈みゆく船の中で最後まで演奏を続けるシーンがあったけど、あれに近い意識なんだろうかと思った。


「死ぬのが怖くないの?」

「そりゃぁ死ぬのは怖いさ。 でもさ、俺は平民から料理長まで上り詰めた男だぜ。 逃げるのは俺の人生を否定するみたいで嫌だったんだ」

「ふーん。 じゃぁ1人前、いや2人前頼めるかな?」

「美味しかったら、見逃してくれるってか?」

「あぁ、約束しよう」

「作ったモノは何処へ運べば良いんだ?」

「ここで構わない。 テーブルマナーは苦手なんだよ」

「分かったぜ、腕にりをかけるよ。 とは言っても作りかけなんだがな」


 まぁね、私だってオッサンの血なんて欲しくはないし、経験値としても美味しくなさそうだ。


『鑑定!』


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 名前 : ブレイアント

 種族 : 人間

 性別 : ♂

 レベル: 11

 体力 : 80

 魔力 : 15


 筋力 : 20

 持久力: 80

 賢さ : 50

 器用さ: 90

 素早さ: 20


 攻撃力: 10

 防御力: 10 + 10


 スキル: 料理、宮廷料理


 取得魔術: 生活魔術


 称号: 『リュミテール城料理長』


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 ほう、器用さが高いな。 料理にも関連するパラメーターなのだろうか?  これはちょっと期待できるかも。


 待っている間に調理を見学していたけれど、料理長をしているだけあって手際が良い。 日頃は部下達も使って料理しているのだろうが、問題無さそうだ。


 叩き上げなんじゃないかな? そう思っていると、セバスが帰ってきた。


「戻って参りました。 お嬢様」

「お前は、料理は食べられるのか?」

「勿論で御座います。 乙女の血はワインかデザートの様なモノで御座います」

「ふーん」


 眷属なんて作ったのが初めてだったので、実は普通のヴァンパイアの食性なんかは知らないのだ。


「じゃぁ、お前の分も頼んであるから、食後にでもこの城の探索を再開しようと思う」

「どうやら、主要人物たちは、逃げた後の様ですが?」

「殺すのが目的じゃないよ。 どのみちこの世界で生活していかなきゃいけないんだ。 諸々もろもろ必要だろう?」

「金目のモノを物色すると?」

「いやだなぁ、セバスくん。 迷惑料の徴収だよ」


 こうして、私たちは料理が出来るまでの間、談笑するのだった。


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