第2話

シャルリュテが出産して一ヵ月。

テルセウスは現在、マシェラトが彼女の代わりに育児に徹する。

出産後の育児休暇を取ってはいるが、それでもシャルリュテで無ければ解決しない事案がある、なのでその間、代わりにマシェラトが子供の面倒を見ていた。

存外、テルセウスと言う子供は泣く事が少なかった。

呆然と空を見詰めていたり、自らの足を掴んで遊んでいる事が多かった。



マシェラト。

白い衣服を身に着けた女性である。

衣装はシースルーであり線の細い体が浮き彫りとなっている。

フェイスベールの奥に見えるアメジストの様な瞳が、テルセウスを見詰めていた。


「なんて可愛らしいのでしょうか」


ゆっくりと、マシェラトはテルセウスを抱き上げる。

夢の中で心地良い表情をしているテルセウスの腹部に、マシェラトは頬擦りをした。


「ふふ…あぁ、柔らかい」


肌の柔らかさを堪能した後に、マシェラトはテルセウスを抱きながら部屋の中を歩く。


(まさか、これ程までに、情が湧いてしまうなど…)


シャルリュテの息子であるテルセウス。

男性と言う特異な肉体でありながら、嫌悪感など感じない。

むしろ、好奇心と母性に溢れて仕方が無い。


(私は母としての肉体をしてませんから…母乳が出ない事が口惜しい…)


マシェラトは子供を作る事が難しい体だった。

それは、彼女の出生に関係しており、簡単に言ってしまえば、神の血が起因しており、細胞から受精し子供を作ると、母胎の意識が子供に移ってしまう転生の力を使役してしまう。

神は不滅と言うある種の呪いによって、神の血を引くマシェラトは単独での出産が出来ず、更に言えば、子供を作る為には、同じ神の血を引くものと性行為をしなければならない。

神と言う上位存在が現れる事など早々無い、数百年を生きるマシェラトも、未だ一柱も邂逅した事が無かった。


(…母親になるとは、どの様な感覚なのでしょうか)


それを確かめたい。

シャルリュテと同じ様に、子供を産んで、育てたいと思った。

母乳が出さえすれば、乳母として育ての親になれたかも知れない。

しかし、それが出来ない以上、別の方面でテルセウスの人生に関与する他無いだろう。


物思いに耽るマシェラトの胸に向けて、手が伸びた。

胸元を触られた事で、マシェラトの意識が下に向けられる。

テルセウスである、何時の間にか目を覚ましていたらしく、マシェラトの胸元を叩いていた。


「テルセウス様…私は母乳は出ませんよ」


柔和な笑みを浮かべるマシェラトだが、途端に彼女の背中に電流が流れた、魔が差したのである。


「…どうぞ、テルセウス様」


自らの衣服を弄る。

そして、赤子に自らの胸を出した。


(…あぁ)


母乳など出る筈が無い。

だが、マシェラトは歓喜していた。

我が子の様に、愛情を育んだのだ。


(テルセウス、様…私の子、愛しい、子…)


テルセウスの為ならば命すら惜しくない。

そう思える程に、マシェラトの決意は固まった。

この子の母親になると。



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