アマゾネスの王~美少女しか生まれない種族に生まれた世界で唯一の男は溺愛されながら王の道を歩き出す~

三流木青二斎無一門

第1話

この世界に存在する人類と呼ばれる種。

他の生物とは違い、雌個体しか存在しない。

彼女達は基本的に想像妊娠か他個体に存在する魔物の精液を宿す事で子供を作るのだ。

故に、彼女達の血筋の多くは魔物との配合が多かった。


テルモッド皇国。

南の地、サントモーレ海岸地。

サントモーレを領土とし、テルモッド皇国の序列敬位、第四位のアマゾネス、シャルリュテが統治していた。


灼熱を連想させる長髪。

緋玉の如き瞳に白き肌。

細く柔和な肉体を持つ美女。

誰もがその美を称える存在。


現在。

シャルリュテはサントモーレ彼岸地の領地にて休養。

怪我や病気に伏せたワケではない。


出産である。

想像妊娠による自身の細胞を自身の細胞によって受精し子を宿したのだ。

出産の立ち合いに参列したのはシャルリュテの右腕にして側近である神の血を流す聖女・マシェラトと、サントモーレ領地守護騎士団の騎士団長を務めるアルトメリア、その他、アマゾネスである。


マシェラトの予言通り、出産自体に問題は無く行われた。

赤子を産んだシャルリュテは、憔悴した様子でマシェラトに伺う。


「だい、じょうぶ?わた、しの…こども」


初めての出産である。

僅かながら不安も残っただろう。

シャルリュテの心配する顔に対し、マシェラトは悠然とした表情で告げる。


「この声を聞きなさい、シャルリュテ、元気な子として生まれましたよ」


柔らかな表情で、赤子を撫でる様に洗う。

湯が張られた桶の中、子供の体を隅々まで洗っていた矢先。


「…これは」


一瞬にして、マシェラトは我が目を疑った。

元来、戦処女アマゾネスとは、雌個体しか生まない。

如何に魔術や呪いを受けようとも、それが絶対の法則なのだ。

しかし、シャルリュテが産んだこの子供には、本来、股に無い事が正解である筈なのに、魔物が生やす様な、男性器が生えていた。


「マシェラト殿…これはッ」


マシェラトの機微を察し、赤子の体を見るアルトメリア。

黄金獣の血を持つアルトメリアは黄金の髪の上に獣の耳を生やす。

尖がった獣耳がより一層上を向く。

明らかに、その男根に対して異質さを抱いていた。


「なんと言う事だ…」


マシェラト・アルトメリアの反応を見て、シャルリュテは目を細める。


「わたしの、子供に、何かあった、の?…お願い、子供を、私の子供、見せて…」


そうせがむシャルリュテに、アルトメリアは対応に困った。

彼女が、男性を産んだなど聞けば、どの様な態度をするのか。

アルトメリアですら、狼狽してしまうのだ、出産に体力を使った彼女が見れば、最悪、死んでしまうかも知れない。


しかし、複雑な思考を抱くアルトメリアの代わりに、マシェラトは子供を抱き上げた状態で、シャルリュテへと近付いた。


「立派な御子ですよ、シャルリュテ」


そう言い、赤子を彼女の腕に渡した。

子供を抱くシャルリュテは、顔や体を舐め回す様に見て、問題となる男性器を見詰める。


「…あぁ、なんて…なんて」


声が震えている。

アルトメリアはシャルリュテが乱心してしまうかも知れないと思った。

可愛らしい子供であり、男性器がついていようとも、アルトメリアは子供を愛でたいと思うが、彼女がアルトメリアと同じ事を考えているとは限らないのだ。


「なんて…可愛いのでしょう」


だが。

その考えは杞憂であった。

疲れ切った彼女であるが、子供の顔を見て即座に疲れが吹き飛んだかの様に、力強く子供を抱き締める。

赤子の手が、彼女の頬へと伸びる。

柔らかく暖かな掌が、彼女の頬に触れて感極まった。


「この子が男であろうとも、構わない、…私の大切な子、…誰が批難しようとも、私だけは、この子を育てるわ」


母親としての愛情を、シャルリュテは見せた。

その言葉に、アルトメリアは安心した。

ゆっくりとシャルリュテへと近付き赤子の顔を覗き込む。


「私も御供いたします、この子が立派な大人へ…アマゾネスへと成長する手助けをさせて下さい」


アルトメリアの顔を見詰めて、シャルリュテは頷いた。

そして、側近であるマシェラトの方に視線を向ける。


「マシェラト、どうかこの子に相応しい名前を…」


「であれば…先代の王インケリテウスから名前を取り、テルセウス、と名付けるのは如何でしょうか」


博識のマシェラトの言葉に、シャルリュテは頷く。


「テルセウス…私の大事な子、…立派になるのですよ」


優しく愛情を以て抱擁するシャルリュテ。

こうして異例な存在である男性のアマゾネス、テルセウスが誕生したのだった。

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