3-2:「急転、大帝国帝都急襲」
祀に導かれ、会生とミューヘルマは連なる各車両の通路を急く歩みで抜け。間もなく指揮通信車輛へと辿り着いた。
そのお世辞にも広いとは言えない指揮車輛の指揮所空間では、張り詰めた空気が漂っていた。
入りすぐに見えたのは、編成長たる芭文に群長の府月、他指揮所要員の隊員等から。
そしてクユリフにエンペラル、レーシェクトにストゥルなどの異世界勢まで。
その皆が介し、そして指揮所卓に置かれたモニターやノートPC、タブレット端末など。集め置かれたモニター類に、険しい色で注視する姿であった。
「会生か、そして殿下も」
内の芭文が、ちょうど祀に導かれ指揮所内に到着した会生とミューヘルマに気づく。
「どういう状況です?」
それに、会生が一番端的に返す。
「引っ繰り返すまでの、怒涛の展開が起こっているぞ」
それに芭文はそんな言葉で答え、会生とミューヘルマに小さな手招きをして、モニター群の前に来るよう促す。
二人はそれを受けて指揮所卓の前に移動して立ち、卓上に並ぶモニター群へと視線を降ろす。
「ッ」
「!……これは……!」
そして、モニターが映すものに理解が及んだ所で。会生は目を微かに剥き、ミューヘルマは驚きの声を上げた。
モニター群の内の一つ、ノートPCが写していた動画映像。
そこに流れるはどこかの夜中の映像を移す上空からの映像であり。そして、そこに一杯に映し出されるは、巨大な城塞。
広大な土地を囲う星型の堀と城壁、それが掛け違え重ねるような構造を持ち。その内に街が栄える、いわゆる星型城塞都市。
巨大なその城塞都市は、明かせばそれこそ。この異世界の各地に侵略の牙を剥いた、ガリバンデュル大帝国の本拠地、帝都。
そして驚くべきは、その恐るべき大帝国の本拠地たる帝都城塞が。しかしそのそこかしこより煌々と火の手を上げている――攻城攻撃を受けている事実だ。
そして、その城塞都市の一角。帝国軍の施設である見張り櫓がまた、爆炎で包まれる巻き起こる様子が見える。
この異世界の魔法現象によるものか――否。それは砲撃。
陸自特科隊の19式装輪自走155mmりゅう弾砲、その射撃投射が成したもの。
そして、上空からの映像の――陸自の無人観測機が送信してくるものであるそれの、下方近くを異様な羽ばたきをする飛行体が――航空科飛行隊のUH-1Jが飛び抜ける。
そう――今まさに帝都を陥落させんとしているのは、自衛隊各部隊なのであった。
「ガリバンデュル大帝国の帝都、グテュソリュービ……!まさか……っ」
それが憎むべき大帝国の帝都である事を、信じられないといった様子ながらも理解した所で、ミューヘルマが震えるように声を零す。
そしてその答えを求めるように、その場の各員に振りかけるが。
仲間であるクユリフやエンペラルは、同じように二人も信じられないといった様子であり。ストゥルや、レーシェクトでさえもその表情を尖るものに変え。
各モニターを固唾を飲んで見守るのみ。
「ミューヘルマ殿下。我が自衛隊は、ガリバンデュ大帝国の帝都、グティソリュービの攻略作戦を開始しました」
そんなミューヘルマに、回答の言葉を述べたのは近くに立っていた芭文。
しかしミューヘルマが振り向き見上げれば、その芭文の顔にすらも、少しの驚きの色が浮かんでいた。
「大分急な展開だな。経緯に詳細は?」
「あぁ――」
驚愕から二の句が継げない様子のミューヘルマに代わる様に。そんな言葉を淡々と発したのは会生。
それに芭文は説明の言葉を紡ぎ始めた――
元より、帝国帝都の存在する方向には、陸上自衛隊、第1方面隊及び第5方面隊が編成され向けられていたのだが。
当初の想定では帝国の本拠地たる帝都への接触は慎重を喫し。
各建設隊の編成が担っている「目的」。「聖堂」「神殿」と呼ばれる施設を訪れての帝国の「邪法」の無力化が成されるまで、極力接触及び戦闘を回避する方向であった。
しかし先日より。
各方面隊は帝国本国軍及び主力軍団と思しき、複数の大規模な部隊と接触遭遇。帝国軍側の獰猛なまでの襲撃攻撃の多発から、なし崩し的に本格的な戦闘は回避不可能なものとなる。
各方面戦線での戦いは苛烈なものとなったが、幸いにも各方面隊は帝国本国軍及び主力軍団の大部分排除に成功。
だがその延長で。こうなっては帝国軍のその後方までの徹底的な無力化が、必要不可欠であるとの見方が自衛隊内部で非常に強いものとなった。
結果。陸上総隊は計画を変更し、ガリバンデュル帝国帝都攻略作戦を発案、及び認可。
そして、そこからの展開は怒涛で。そしてあっけなかった。
撃ち破られ撤退、いや敗走状態に陥った帝国軍主力をさらに打ち崩すことは最早容易く。第1方面隊及び第5方面隊は怒涛の如きで戦線を押し上げ追撃、帝都まで踏み込み。
そして数時間前に、帝都攻略戦の火蓋が切られたとの事であった――
「――向こうが苛烈な事になっている情報は入っていたが……まさかここまで早急な展開になるとは……」
芭文の簡易な説明の後。
大筋の情報にあってはこちらにも入ってはいたのだが。しかしそれでも急転のものとなった事態状況に、祀が零す。
「正面は、〝第34戦闘団〟か」
詳細を聞いた会生は、モニター類に視線を戻し。
今度は大型モニターに映る複数の映像ウィンドウの内。上空のUAVよりクローズアップされた地上の光景に。
そこに映る、第34普通科連隊を基幹とする第34戦闘団が。
その各中隊、各班に車輛が。帝都正面から包囲展開を始め、籠城する帝国軍を相手に苛烈な戦闘行動を行う様子を見止め呟く。
「同時に〝富士普通科戦闘団〟と〝富士機甲戦闘団〟も展開中。背後には〝第1空挺普通科連隊〟が降下してるわ」
続け祀がまた発する。
それを証明するように、モニターのまた別のウィンドウ。
第1空挺団 第1空挺普通科連隊が降下展開。その対戦車班が、城壁にMATを射ち込む様子が見え。
また別のPCモニターには、監視情報機として参加している海上自衛隊のP-1が送って来る映像が映り。
そこには今まさに、富士機甲戦闘団の所属である90式戦車と10式戦車の小隊隊形が。帝都の正面城門を破り突破、その内へと踏み込む瞬間が。そしてその咆哮を上げる姿が見えた。
「すでに報道も始まっているぞ」
さらに芭文が察し示す。
一つのモニターのウィンドウに移り流れるは、ネットに上がるリアルタイムの現場報道だ。
自衛隊に同行している従隊報道員が、現場近くからその様子を実況姿が。帝都陥落がまさに進む状況を、熱の帯びた様子で伝える映像が流れている。
「後ろは101編成隊か」
その報道映像の後ろに見えたものに、会生は零す。
見えたのは、線路軌道上に陳在する装甲列車編成。それは帝国帝都方面を目指した別の装甲列車。第1建設群、第101編成隊――通称、《やまとたける》であった。
会生等の《ひのもと》、第701編成隊よりもより火力を備える重量編成の隊であり。
その編成中に組み込まれる間接火力車が備える、二門の155mmりゅう弾砲M1の砲塔が。今まさに砲火を撃ち放つ姿を見せた。
「側方には第501編成隊も到着して参加している」
そこに祀が会生の言葉に補足を入れる。
帝都の一角を移す上空映像ウィンドウには、言葉通りまた別の装甲列車編成が見え、搭載火砲による火力投射を帝都に注いでいる姿が見える。
それこそ第5建設群、第501編成隊の装甲列車、《しんしゅう》であった。
「んッ」
そしてさらに、上空高い高度より帝都全景を移しているUAV映像を。凄まじい速度で飛び抜けた飛行体を会生が見止める。
航空自衛隊のF-15Jだ。
上空支援のための出撃した飛行隊の内の、対地支援を担当する一機が低空で進入。
ハイドラ70ロケット弾による死の雨を降らせ、帝都内の帝国軍飛竜部隊が用いる発着場施設を爆炎で包み吹き飛ばした。
「…………ごくっ」
あまりに苛烈な、自分等の常識とは異となる武力、〝力〟の数々。
そしてそれらが、憎悪し同時に恐怖していた存在であるガリバンデュル大帝国の本拠地を。そのはずのそれを、しかし一方的なまでのそれで炎に包み巻き上げ、今まさに捻り潰さんまでの勢いで、崩し落とさんとしている光景。
信じがたいまでのその事実を、また彼女にとっては不思議なものであるモニター映像の向こうに。しかし、確かな事実の様子であるのだと教えられたそれを前に。
ミューヘルマはその眼を釘付けにしながら、緊張の唾を飲む。
そしてそれはクユリフやエンペラル、ストゥルにレーシェクトたち、異世界の民の皆が同じであった。
その映像中で。
わずかに空へ逃れた、大帝国飛竜部隊の扱うその巨大飛竜の一体が。大帝国の脅威の一端を担い誇ったそれが。
しかし制空担当のF-15Jの放った99式空対空誘導弾 AAM-4にその巨体を撃ち砕かれ、儚く地上へと堕ちて行く姿が映った。
「!、ヘリ隊が進入するぞッ」
そこへまた芭文が発する。
そんな巨大飛竜を、まるで蹴落とすように傍目に見ながら。陸自ヘリコプター隊の列機編隊が上空映像に現れたのはその直後。
その編隊の目指すは、帝都都市の中枢。そこに置かれ聳える王宮、皇帝の城であった――
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