3-3:「急襲」
舞台は、その怒涛の急転の最中にある地。
ガリバンデュル大帝国の帝都、グテュソリュービのその現地へ。
その中心に、民への畏怖を与えるまでの様相で聳えるは王宮。皇帝の居城。
しかしその王宮を下方に見下ろし、宙空を傲岸不遜を体現するまでの様相で進み。進入経路を取る飛行体の隊形がある。
陸上自衛隊のヘリコプター隊だ。
OH-6が四機、そしてUH-1Jが二機からなる六機編隊。
その編隊の各機の増設座席に取り付き座し、あるいは機内に乗り込んでいるのは。これより王宮に進入し踏み込まんとする急襲隊だ。
特殊部隊たる〝特殊作戦団〟の隊員及び、第1空挺団の隊員を主とするが。
急な急襲作戦の決定からそこからだけでは必要人員が揃わず。ここまで正面戦闘を担ってきた富士普通科戦闘団及び、第34戦闘団からも経験豊富な者、手練れがピックアップされ参加。
「――ふーッ」
内のUH-1Jの機内、静かながらも緊張の面持ちを見せる、シートに座す隊員が在る。
見ればその体、身長は200cmを優に超える巨体。そして全身に蓄えるは凶器の如きふんだんな筋肉。そしてその肌は浅黒い色のコーティングで飾られている。
第34普通科連隊所属。
ラハカライ 守屋 一等陸士。
体躯・顔立ち、どちらもあまりに日本人離れした容姿の彼は、明かせば祖父にポリネシア・ハワイ人を持つ血筋の持ち主。
しかし日本で生まれ育ち、異国の言葉も文化も知らない身の上。
今はここまでその体躯で活躍して来た経緯を買われ――言い換えれば白羽の矢を立てられ。
急襲隊に組み込まれ参加している身の上だ。
「――ヨォ、ジャイアント・ヒップホッパー!身を固くすんな!」
そんな守屋へ、唐突に快活な声が寄越される。
守屋が顔を上げれば、そこに居たのはまた一人の隊員。
襟には二等陸尉の階級章。そして被るケブラーヘルメットに他装備品から、今に在っては特殊作戦団の幹部隊員である事が判別できる。
さらに少しよく観察すれば。その覗く顔には軽快そうながらも。手練れのそれである尖る色、気配が見て取れた。
「酷な事をおっしゃる。この状況では、身を固くするなという方が難しい」
そんな二尉の言葉に対して。守屋が返したのは静かな、少し塩対応なまでの色に見えるそんな言葉。
守屋と言う彼は、そのインパクトのある見た目に反してストイックな傾向のある人間であった。
「あんら、ジャイアントな見た目に反してストイック系だな。まぁ、マジモードではあるが頭はクールでビビっちゃいないようだなッ」
そんな守屋の対応を受けて。しかし特戦の二尉はしかし意外そうに返した後に、また快活そうに揶揄うような声を寄越す。
「そういうそちらは、噂の特戦のイメージに反してカジュアルなようで」
それに守屋は真顔で、しかし声色には少しニヒルな色を乗せて、また二尉の言葉に返す。
「それが主義でな」
それに二尉は、その顔に少し尖りの含まれる笑みを浮かべて返す。
「――間もなくだッ」
そんな、急襲降下を控える機内での気まぐれなやり取りに。しかしそれをお開きとさせる言葉が割り入る。
コックピットのUH-1J機長からのそれは、「目標」への接近を知らせるもの。
その各隊各員を乗せたヘリコプターの縦隊編隊が、間もなく皇帝の居城に差し迫ろうとしていた。
「ッ」
守屋の目が、開け放たれた機のカーゴドアの向こう眼下に聳える巨大な建造物を。禍々しいまでの皇帝の王宮を映すが。
直後にはそれはより苛烈な光景で、塗り替えられる。
映ったのは、第1戦闘ヘリコプター隊のAH-64Dアパッチ・ロングボウ。
急襲隊のヘリコプター編隊列機に先んじて、城の上層間近まで急接近したそれが。次には備えるハイドラ70ロケットを多数発叩きこみ、城の上層に爆炎を上げ。
さらには追い打ちを掛けるように、30mmチェーンガンによる掃射を叩き込んだ。
急襲隊を支援するための、前もっての火力投射行動だ。
「痛烈なお届けモノだ、ビックリだろうよッ」
同じくそれを見ていた特戦の二尉が、ふざけた口調でそんな言葉を発する。
そうしている間にも、急襲隊列機は降下進入の経路から皇城の間近まで迫る。
火力投射を終えたAH-64Dが離脱して場所を開け、皇城の上層周辺が開ける。
直後、急襲隊の列機は数手に散会。
OH-6の一機のみが上空支援及び予備戦力として上空待機に残り、他はさらに降下接近。
《――5》
同時に各機に、急襲隊指揮官からのカウントが通信で伝わり届く。
それに合わせるように、各機は目指すべく各ポイントを目指し降下を続ける。
《――1》
皇城の上層各所に肉薄のまでのそれで降下急接近。
屋上、バルコニーなどの各所にスレスレの域でホバリングし。もしくはスキッドをぶつける勢いで降ろして〝乗りつける〟。
《――GOッ》
――無線上に響いた合図。
それとほぼ同タイミングで、各隊各員は大帝国皇帝の居城へと降りて〝踏み込んだ〟。
真っ先にアクティブな行動に移行したのは、OH-6の各機に分乗していた特殊作戦団及び第1空挺団の隊員からなる各チーム。
機の降下降着と同時にOH-6より降りて離れ、直後には降りたバルコニーないし屋上を警戒しつつ駆け抜け。
そして間もなく、それぞれ各方各所より。城の扉や開口部などのアクセス口を蹴破り、城内へと踏み込み突入。
――直後に、各所で銃声が上がり始めた。
「接てェきッ!」
屋上から侵入したチームのリーダが発し上げる。
皇城内部にて接敵したのは、帝国軍の皇帝親衛隊。
事前のAH-64Dからの火力投射によって、その多くの者は傷つき死人も出していたが。しかしなお皇帝の居城を荒らさんとする侵入者を討ち退けるべく、潜み待ち構えていた。
「ワンダウンッ」
「左ッ、沈黙ッ!」
しかしその親衛隊の兵達の忠誠と勇敢さは、次には脆くも崩れた。
カバー配置して戦闘を開始した降下チームの的確な射撃行動によって、元より傷ついていた彼らは容易く射止められ沈んでいった。
「――GO!GO!GO!」
その背後、ある程度の広さを持つ屋上には。
ホバリングで横付けしたUH-1Jより、各隊の隊員で混成される一個班がまた続々降下。
屋上空間へと展開し、抑え。狙撃や火力支援のために位置取る様子を見せている。
「――ッ」
その内で、緊張の面持ちで警戒位置についている守屋。
その腕に構えられるは彼の担当する、7.62mm機関銃 M240G。それも二脚を付けたままで、さらに陣地に据えるための三脚を付けたゴテゴテの見た目。
しかし守屋はその巨大な体躯で、それを苦も無く構えている。
「ヒップホッパーッ」
その守屋に、特戦の二尉から彼を呼ぶ声が飛ぶ。
「ウチと空挺のチームが先んじて城の奥に踏み込むが、景気よくぶっ放せるブツが必要だ。君も来てくれッ」
続き寄越されたのは、簡易な説明と合わせての要請の言葉。それは守屋に火力支援要員としての同行を求めるもの。
「了解ッ」
頼まれる口調ではあったが、結局は上位階級者からの命令だ。守屋は迷うことは無いと、端的に了解の返事を返す。
「行くぞッ」
そして特戦の二尉率いる数名が、先行して突入したチームを追いかけるべく行動を開始。
守屋もそれに続いた。
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