2-12:「強襲から、決着」

 90式のその火力と巨体をもっての、突入から一射を叩き込み、そして場に踏み込み割り行った初動の第一撃目を皮切りに。

 そこからの流れは怒涛であった。


 一拍置いて、90式が空けた家屋の大穴から後続していた73式装甲車、〝エナジーティラノ〟が到着。


「展開ッ」


 乗りつけ停車すると同時に、その車上に乗り、もしくは車体に取り付き跨乗していた一個班の普通科隊員等が。分隊長の合図で飛び降り降車。

 近場で突然の事態に混乱し、隙を晒した帝国兵に各個自由射撃を開始。

 次々と撃ち抜かれ、悲鳴を上げて崩れる帝国兵達を横目に。捉えられていた住民達を奪取保護すべく展開していく。


「うわぁぁっ!?」


 さらに別方奥側から、帝国兵の物である驚きと狼狽の言葉が届く。

 見れば別方向の広場への進入路から、偵察戦闘隊の87式偵察警戒車が押し上げて乗り込んで来る姿が見えた。

「ヒグッ!?」

「ゲギャッ!?」


 87式偵察警戒車は進路上に居て逃げ遅れたオークやワーフルフなどの亜人兵を、まったきの遠慮なしにその図体と重量で拉げ跳ね飛ばし。

 そして村人達と帝国兵の間に割り入り、村人達を庇う様に乗りつけ停車。

 そこで砲塔を旋回させ、周囲に散在していた帝国兵や騎獣に向けて、備える25mm機関砲による凶悪な投射を開始。

 帝国兵達を千切り弾き飛ばし始めた。



「な……なんだコりゃぁッ!?なんだ、なんなんだクソォッ!?」


 陸自各部隊の強襲からの戦闘、いや一方的な〝処分〟の開始に。

 それを見せつけられ、悲鳴に近い狼狽の声を上げていたのは将軍の男。


「グソ……チクショウッ!お前、来いやぁッ!!」

「ひっ、やぁっ……!」


 しかし次に将軍の男が出たのは、近場にいた先の少女を捕まえ引き摺り寄せる動き。

 彼女を人質と、肉の盾とする腹積もりなのは明らかだ。


「オラァ、おめぇらァ!!これが見えんだろォ!!大人しくしやが……」


 そして少女を引き摺り寄せ、周りに見せつけるように引き立てながら。得物である大剣を振り回し、荒げ発しかけた将軍の男。

 しかし――その将軍の男の視界の四角に、何か気配が生じたのはその時。


「ぁ?――ぐぶビぇぁっ!?」


 その将軍の男の顔面横面に衝撃が〝めり込み〟。

 将軍の顔面半分が拉げ、陥没し。そしてその体が面白いようにその場から吹っ飛んだのは直後瞬間であった。


「げびゃぇッ!?」


 将軍の男はそのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられ、体と四肢をまた拉げさせる有様を晒す。


「きゃぅ!」

「ミュイ!」


 少し乱暴に将軍の男の手より解かれた少女は、その身を近くに居た母親に支えられ抱き留められる。


「っ!」


 そして母娘が見上げ見たもの。

 それは、その場に悠々と立ち構え。凶器の如き拳骨を突き出した直後の姿勢を取る、尖りながらも圧巻のシルエットの存在。

 他ならぬ、会生の姿で在った。




 会生と率いる観測遊撃班は、90式によって抉じ開けられた家屋内を抜け通り、戦車や装甲車に続いてこの広場に到着。

 他隊と同様に展開から戦闘を開始。


 その最中に会生は、少女を引き摺り盾としようとする将軍の男の存在に気付いた。

 そして何の迷いも無くその将軍の男の懐まで、ズカズカと堂々と距離を詰め。

 間近に踏み込むと同時に、凶器のまでの強烈な拳を放ち叩き込んだのであった。


「――フン」


 その会生はと言えば、地面で拉げた姿で痙攣する将軍の男を見下ろしながら、何かつまらなそうに人声を零す。


「ぁ……ぁぇ……ぱりゃっ!」」


 そして同時に片手に持っていた10.9mm拳銃を突き出し、おもむろに発砲。

 将軍の男に止めの一発を撃ち込み、屠って見せた。


 会生はそこから流れる動きで、続く射撃行動に移行。

 近くの向こうで、将軍の男に倣うように村の住人を盾として引き摺ろうとしていたオークや獣人の帝国兵達を。.44口径弾の凶悪な威力で、しかし正確な精度で次から次へと撃ち抜いてゆき吹っ飛ばして、その企みを阻止。


「展開しろ」


 そして、村人達の近くに位置していた帝国兵を屠り退けると同時に、会生は指示の声を発する。

 それを聞くが早いか、遊撃班の面子及び普通科隊の一個分隊が。村人達を庇い、残存する帝国兵達とを隔てるように展開配置。


「下がって、体を伏せてッ!」


 村人達へ促し訴える言葉が内から響き。

 そして各所で暫定排除のための戦闘を開始する姿を見せた。


「さほどは掛からないか――」


 直後にさらに場に走り込んで来た軽装甲機動車に、そこから降車して展開する一個チームの姿を見つつ。会生は場の制圧に時間は掛からないであろう旨を零し。

 そして次には、足元眼下で座り込み抱き合う母娘を見た。


「ぁぅ……!」


 しかしその母親は。

 唐突に現れた正体不明の、威圧感を覚える容姿の会生に。ましてや今しがたに将軍の男や帝国兵をえげつない手法で沈めてみせた存在を前に。

 警戒心と恐れを覚え、顔を強張らせて腕中の娘を強く抱く。


「――大丈夫ですか!」


 しかし次には、会生の側方から駆け寄って来たのは祀。

 祀は警戒の意識を周囲に向けて、母娘の前に位置して屈むと、そう安否を尋ねる言葉を向けた。


「ぇ……?」

「大丈夫、我々は害成すものではありません!状況が収まるまで、体を低くしていて!」


 この荒事の場に似つかわしくない美麗な容姿の女。そんな祀からの名乗りと、己を案じ安全を促すものらしき言葉に、母親は思わず呆けた声を漏らしてしまう。


「住民の安全確保を最優先に!射線には十分気を使え!」


 そんな祀は次には、さらに配置転換から周囲へ展開していく各隊員へ。今のものとは転じた凛々しい声で指示の声を張り上げる。

 そしてその向こうには、変わらずの自分のペース、在り方で10.9mm拳銃を撃ち放つ会生。


 そうしている間にも、各隊の戦闘行動によって周囲に居た帝国兵達は次から次へと無力化され。場は各隊の手によって掌握されて行く。


「ぁ……あなた方は……?」


 その様子を呆気に取られた色で見ながらも、母親は目の前の会生や祀に向けて、おずおずと尋ねる言葉を向ける。


「ご安心ください、我々は日本国 陸上自衛隊。あなた方の味方ですっ」


 その母親の言葉に、祀が凛とした声で返したのはそんな言葉。


「りく……?――っ!?」


 その単語を反復しようとした母親だったが。次にはそれは、響き上がった劈くような咆哮に阻まれる。


 それは、離れた向こうでまたも一撃を撃ち放った、90式の120mm砲の砲撃音。


「ぁ……」


 そして、そんな轟音を聞きつつ。母親の腕中に抱かれる少女が見た光景。

 それは90式――咆哮を上げる鋼鉄の怪物の姿を向こう背後に。

 悠々と立ち構え、大口径リボルバーを突き出し構え戦う。尖るシルエットの者――会生の姿。


 少女は、会生のその堂々を体現したような姿に。

 物語に聞かされて来た果敢な存在の姿を思い浮かべて合わせながら、その目を釘付けにしていた――

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