2-11:「轟雷にて巻き上げ、鋼鉄の巨体にて暴虐を滅す」
《ひのもと》に組み込まれる71式間接火力車が備える、105mmりゅう弾砲M2A1と107mm迫撃砲M2。そして射撃位置に配置を完了した、32戦闘団の重迫撃砲班の120mm迫撃砲 RT。
野戦における間接火力投射を可能とする各砲が。観測班、そして上空へ舞い参上した美少年魔法使いのレーシェクトの誘導によって。
村内に存在する帝国軍の各部隊へ――死の雷を注ぎ始めた。
陸上自衛隊の間接火砲部隊に見られる特性である、行き過ぎたまでの精密さを可能とする砲撃投射は。
撃ち出された後に恐るべき精度の軌道を描いて、点在する帝国軍部隊の真上と飛び。
そして飛び込み――その残酷なまでの凶悪な炸裂で、帝国軍部隊を千切り薙いで消し飛ばした。
観測班とレーシェクトはそれぞれの確かな目で、逐一帝国軍部隊の詳細な位置を伝え。
その情報を反映して射撃投射された各砲の砲撃は、ピンポイント爆撃にも引けを取らぬ精密さで。帝国軍部隊のみを獲物と定めてその真上より飛び込み。
その暴虐のまでの炸裂でそこに居た帝国兵達を。人種も、獣人に亜人種も、大型の騎獣をも、差別区別無く千切り巻き上げ消し飛ばしていく。
発生元の不確かな、しかし必中の如きそれで飛来して襲う死の体現に。
帝国兵達は恐れ、程なくしてパニックに陥った。
「――あれほどの凶悪なまでの強力さでありながら、まるで狙い射貫くように導き落とすじゃないか。リクジョウジエイタイの扱い手諸君は、恐ろしいまでだね」
箒に跨り村の上空を飛び舞う、美少年魔法使いのレーシェクトは。
その各火砲部隊の織り成す精密砲撃の様子を眼下に眺めながら、その手腕を評し称える言葉を零した。
村の中央近くの一角。そこにはまた家屋に囲われ、控えめながらも開けた空間を取る一つの広場があった。
そこに居た、いや集められていたのはこのルオンの村の村人達。誰もが皆恐れ怯えるように寄り合い、その顔は悲観に染まっている。
そしてその村人達を囲うは、数十名程の帝国兵の一部隊。
村人達は皆、帝国兵に強制的に集められたのだ。村からの略奪品、戦利品の一部として。
「クソォ、どうなってやがんだぁッ!?」
その村人達の前で立ち、荒げた声を上げる男の姿がある。
浅黒い肌が目を引く長身めの男。その人相容姿は暴虐な行いに平然としてきた色を漂わせ、そして言葉振舞いはそれを肯定している。
男は、このルオンの村を襲った軍団の軍団将軍であった。補給の切迫から焦れ事を急ぎ、村を襲い略奪する事を決めて命じたのもこの男だ。
戦利品の一部として集めた村人達を前に、その征服感から気を良くできたであろう所を。しかし今の将軍は焦り苛立った様子を見せていた。
その理由は明白。
少し前から唐突に聞こえ始めた正体不明のけたたましい音の数々に。それに合わせて怒涛の如く寄越され始めた、軍団各部隊からの損害報告に、挙句は得体の知れぬ敵と接触したとの報の数々。
果てには、それをさらに上塗りするように、村中から轟き始めた謎の落雷のような轟音。
性急な帝国本国の進行命令のせいで、軍団が切迫して飢えていた所へようやくありつけたと思った略奪先。
腹を満たし癒した後には。村の若い女から熟れた女まで、果ては美麗な容姿の男までもを戦利品として「いただいてしまおう」などと下卑た企みを浮かべていた所であった。
しかしその企みは、在り付けるはずだった戦利品の数々は。想定もしていなかった事態の数々に掬われ崩され。
将軍を大変に焦らし苛立たせ、何よりも困惑させていたのだ。
「オイッ!その敵の詳細はまだ分かんねぇのかァ!?各部隊は何してんだァ、とっとと捻り潰せェ!」
そして近場に居た兵達に向けて荒げ発する将軍。
将軍の軍団はここまで、その圧倒的な戦力をもっての力押しで敵対する勢力を蹂躙し、勝利して来た。
そして今もなお、現在の混乱は一時的なものであり。軍団の力押しをもっての最終的な勝利を疑うことは無かった。
「ママ……」
「大丈夫……神様が手を差し伸べて下さるわ……」
そんな一方、集められた村人達の一点でか細い声が漏れる。
それは一人の幼い少女とその母親。帝国軍兵に捕らわれ囲われ、さらには恐怖心を煽る事態が続く中で、怯え恐れを訴えた少女を母親が慰めるもの。
「オラてめぇッ!ゴショゴショ喋ってんじゃねェ!!」
しかし運悪くそれは将軍の男に聞き留められ、そして苛立ちの中に在った将軍の神経を逆撫でした。
「ひっ!」
「ぅぅ……!」
それにまた怯える母娘。
「苛立たせやがってッ……おい兵どもッ!村の連中を引っ張って突き出せぇッ!」
そして将軍の男は帝国兵達に荒げた声で発し命じながら、母娘の前にズカズカと近寄ると。次には娘である少女の身を乱暴に掴み捕まえ引き寄せた。
それは少女始め、村人たちを肉の盾とする算段の現れ。
そしてそれは考えられた策略というよりも、状況への苛立ちをぶつける腹いせの行為に近かった。
「やぁ……!ママ……!」
「いや!お止め下さい!」
「うるせぇッ!」
母親が悲鳴に近い声を上げ、あまりの暴虐の行為に村人たちも騒めき逆らう動きを見せるが。
将軍はその母親を怒鳴りつけ押し退け。帝国兵達は将軍に同調するように声を荒げ怒鳴り散らし、武力に物を言わせて村人達を抑え込む。
「オラァ、来いやッ!なんだか知らねぇが、俺達の勝利のために貢献しろやァ!」
そして少女を引き擦り出す将軍の男。
その卑劣な手を含め。ここに至るまで、将軍はまだ己の軍団の勝利を疑う事は無かった。
しかしそれは――直後に響き伝わった衝撃の振動と音に。
広場の一角にある家屋の、爆破の如き倒壊に。
その発生主たる〝鋼鉄の怪物〟の出現によって、脆くも儚く崩れ去った――
「――ッ」
戦車班の90式戦車、コールサイン〝ブルファイト〟は。
なかなかの速度で履帯を鳴らし、そして立ち並ぶ家屋の内を、破り抉じ開けて倒壊させながら突き進んでいた。
その90式の上には、コマンドキューポラよりわずかに頭を出す車長の二尉の姿。降り注ぐ小さな破片や埃に顔を顰めつつも、構わず進行方向の観測確認と、事態への即応のために尖る視線と意識を向けている。
「まもなく突破するぞッ」
そんな様子を見せながら、車内へと張り上げた声を降ろす二尉。
事前の地形観測から、家屋を抜けての「目的地」への到達が近い事を知らせる声。そしてその言葉を証明するように、家屋の内を壊し掻き分けて進んだ果てに。
90式はその向こうの開けた空間へと、飛び出て踏み込んだ。
「――踏み出た、住民の所在地点ッ!」
家屋を突き破り踏み倒し、駆っ飛ぶ勢いで広場へと踏み出た90式戦車。
その向こう二尉が見たのは、広場に集められた村の村人達。そしてそれを囲う形で捉えている帝国兵の一部隊だ。
観測班、及びレーシェクトからの高所・上空からの観測捜索により。村人達が集められ囚われているこの現在地が特定できたのがつい先ほどの話。
そしてその村人達を救助回収すべく、直近に位置する隊が向けられ。その一端である戦車班の90式戦車が、まさに今その場へ踏み込み発見確認したという状況であった。
「操縦手、そのまま乗り込めッ。住民と敵部隊を割って隔てろッ」
発見からまず間髪入れずに、二尉は操縦手に戦車を乗り込ませる方向を指示。
「10時に大型モンスター1ッ――砲手、まず潰せッ!」
さらに続けて二尉は、広場の端に鎮座する重弩を背負ったマンモス型騎獣を見止め。最初のターゲットとしてそれを指定、砲手に指示を降ろす。
《了》
ターゲットの指示には砲手からすかさず了承の声が寄越され、同時にそれは動きとして反映され、90式の砲塔は素早く滑らかに旋回。
その砲身砲口でマンモス型騎獣を捉えると同時に――劈く咆哮を上げた。
撃ち出された120mm HEAT-MPはここまでと同様、次の瞬間にはマンモス型騎獣のどてっ腹を叩き。そして爆発炸裂による暴力でその図体を削ぎ、大穴を開けて地面へと沈めた。
「――どけェァッ!!」
そして咆哮からの着弾の爆音が止むよりも前に、それに混じり車上に上がったのは操縦手の怒号。
直後瞬間には、少なからずの速度を保っていた90式は、集められていた住民と帝国兵の一部を割り隔てるように突貫。
そして――ゲヂャ、と。
物体の拉げる嫌な音を響かせて、そこに居た何名かの人間から亜人を含む帝国兵達を。
50tもの重量を持つ鋼鉄のその巨体を持って跳ね飛ばし。
その帝国兵達を、拉げ無残に叩き投げ飛ばすと同時に、変わって流れ込むようにその場へと停車。
帝国兵達と村人達の前に、鎮座君臨して見せたのだ――
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