2-10:「鋼鉄機甲機動と魔法使い」
村内での作戦が本格的に進行し始めたのと同じ頃。
村の外でも同時に別部隊の作戦行動が進行していた。
村の外周に広がる平野。
そこを異質な唸り声と、地面を裂き削る音を立てて爆進する、鋼鉄の物体の隊形があった。
その正体はまずは、16式機動戦闘車。
やはり第32戦闘群に組み込まれる、偵察戦闘隊を所属とする戦闘車輛。
そして、同隊の87式偵察警戒車。
二輛はどちらも原隊を、第1師団の第1偵察戦闘大隊とする。
加えて、普通科隊の1個チームが搭乗する軽装甲機動車。
以上の3輛が距離を取って崩した斜めの隊形を取り、平野を猛々しいまでのそれで進行していた。
3輛が形成するは、装輪装甲車輛をピックアップして編成した機動行動部隊。
その目的は村を大きく迂回して別方向より侵入、村を占拠する帝国軍を包囲し排除することにある。
「2時方向、敵の野戦陣地ッ」
その3輛の内の、16式機動戦闘車の車上。
コマンドキューポラ上に身を出す一等陸尉の車長が、無線を用いて各車に向けての呼びかけを行っている。
示すは、村から見て北東方向。そこには村を襲う帝国軍軍団の野戦陣地と思しきものが見えた。
野戦陣地と言えば聞こえはいいが、正確には軍団がそのまま集まり留まり、いくらか荷下ろしをしただけの雑なもの。
《ストライカー・ガン1、村に向けて進行中の巨大生物。報告で上がって来た帝国軍の大型モンスターかと》
そこへ一尉の耳に通信機越しの返信が届く。それは側方前方を進行する87式偵察警戒車からのもの。言葉通り、その向こうには大型モンスター、帝国軍のマンモス騎獣が村に向けて進行する姿が見えた。
「了解ハンター・ラッシュ1、確認してる。増援に向かう気だろう、こちらで仕留める――砲手、照準しろ。射撃のタイミングは任せる」
87式偵察警戒車からの報告に、その旨で返し。次には一尉は自車の砲手に命じる言葉を降ろす。
《了》
それが伝わるか早いか。16式機動戦闘車は搭乗砲手の操作によって砲塔を旋回、備えるその105mmライフル砲の砲口を、向こうをノッシノッシと進むマンモス騎獣に向けて捉える。
――直後。重々しい咆哮が響き上がった。
それこそ105mmライフル砲の射撃、砲撃の音。
そして撃ち出された多目的対戦車りゅう弾は、次には行進間射撃をものともせぬ様子で、向こうのマンモス騎獣のドテっ腹に直撃。
爆煙を上げて、マンモス騎獣の巨体を叩き削ぎ。次には地面に沈む姿を晒させて見せた。
「――撃破確認」
それを向こうに確認し、一尉は通信機に向けて端的に発する。
「ストライカー・ガン1、他にも野戦陣地周りに敵が散在。我々で叩きますか?」
そこへ続けて返り来るは、また87式偵察警戒車からの報告と具申。言葉通り、帝国軍の野戦陣地の周囲には未だに敵戦力が残存している。
「いや、我々は予定通り村へ進入する。敵陣値は――我々の〝要塞〟に任せよう」
しかしその意見具申に、一尉が返したのはそんな言葉。そして一尉は背後側方を振り向く。
――――――ッ。
それと同時に聞こえ来たのは、警笛。そして金属を連続的にリズミカルに叩く音。
そして向こうの平野の上に見えるのは、一本の軌道。
村を遠くに見ながら、囲い添うようにカーブして伸びる鉄の導――線路。
それはここまで自衛隊建設隊が辿って来た〝本線〟から、森を迂回して分岐して来た支線。それはまるで、いやまさしく自衛隊建設隊をここまで導くために伸びたもの。
そしてその上を行くは――装甲列車。
《ひのもと》の、その長大な姿だ。
まるで、この村を救えと言わんばかりに、本線より分岐していた支線を辿り。《ひのもと》はこの場へと参上したのであった。
場所は再び、村内の鐘楼へ。
そこでは引き続き、観測班と選抜射手の調映が配置しての高所観測支援を行っていた。
「――北北西より大型モンスター一体、随伴歩兵小隊規模」
鐘楼の端、縁には調映がドカリと片足を乗せて座り。通信で知らせる言葉を送り、合わせて手振り手信号を行って、地上の会生率いる観測遊撃隊本体への敵部隊の位置情報提供を行っている。
《――コマンドよりヴァルブユニット、高所観測についているチームは取れるか?》
その最中へ、観測班の持ち込んでいる通信機より通信音声が響き上がった。
それはコマンド、《ひのもと》の指揮所からのもの。そして呼び出し先のコールサインは観測遊撃隊の観測班、すなわちこの場の調映等であった。
《該当。ヴァルブ1-2です、どうぞ》
呼び出しにはこの場の音頭を取る村阿が、無線を取って呼応する。
《了解。当編成及びヘヴィ・ブロウは砲撃位置に着いた、弾着観測支援用を要請したい。確認するが、そちらは村の全域を視認掌握できているか?》
それにまた返るは、そう伝える通信。
それは《ひのもと》の編成搭載する曲射火力装備、及び32戦闘群に編成される重迫撃砲班が砲撃配置に付いた知らせと。
合わせての観測支援の要請、その上での確認の通信だ。
《コマンド、1-2の側からは村の北エリアの一部を観測掌握できていない。その範囲の誘導は現状不可能、どうぞ》
しかし観測班の側からは、村の一部エリアが目視掌握より零れていた。
村の住人がまだどこに残っているか分からない以上、精密誘導を伴わない闇雲な砲撃は行えない。
村阿はその旨を正直に、端的に指揮所へ返す。
《――それではやはり、ボクの出番のようだね》
しかし次に、返した通信に応じ来たのは、コマンドとは別の何か透る美麗な声。
「あん?」
村阿等観測班がそれに訝しみ、調映にあっては隠しもしない少し圧の利いた声を零した直後。
調映等の現在陣取る教会鐘楼の真上を、何かが軽やかな気配で飛び抜けた。
それは、箒――正確には箒に跨り乗った、人。
遠目にも視認区別できるその目立つ際どい格好は、この異世界の民にして《ひのもと》と旅路を同じくしている案内人。
麗しき魔法使いの少年、レーシェクトであった。
《君等の目の届かぬ範囲は、ボクが受け持とう。なぁに案ずる事は無い。君等の裁きの如き雷を、しっかりと導いてみせるさ》
どうやら無線通信機を身に着け用いるようで、上空を飛翔する姿を見せるレーシェクトからは、そんな少し芝居掛かった色での通信が寄越される。
《レーシェクトさん。ご協力の上で細事を要求してすみませんが、通信へ割り込む際はまずその旨を一言割り入れてください》
《おっとそうだった、失礼。しかし、この知らせ伝える手段は面白いものだね》
通信へ割り込む形となったレーシェクトのそれに、指揮所からはやんわりと咎め要請する通信が寄越され。
レーシェクトはしかしそれに軽い調子の謝罪で返すが、同時にそんな楽し気な言葉を寄越す。
《1-2へ、確認だった。今の通り、そちらの掌握外の観測はレーシェクトさん――ウィッチ1に担ってもらう。そちらは現在地よりの観測継続を願う》
「1-2、了解」
それからまた指揮所よりの知らせ、指示の通信が寄越され、村阿はそれに了解の旨を返答。
「――とんだ作戦だな」
その交信の声を背後に聞きつつ。
調映は微かに顰めた、イロモノを見るような顔色様相で。向こうに飛び去るレーシェクトの姿を、どこか皮肉気な声を零しながら見上げていた。
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