2-9:「鋼鉄にて進行し、鉛にて薙ぎ浚えろ」
現れたのは、陸上自衛隊の保有する鋼鉄の怪物――90式戦車だ。
その内に組み込まれる、戦車班に配備運用される1輛。原隊は機甲教導連隊であり、今回の任務のために抽出されてきたその90式戦車。
その旋回した砲塔に装備する44口径120mm滑腔砲Rh120の砲口からは、うっすらと煙が上がっている。
それらの様子光景が、たった今にマンモス騎獣を爆炎にて仕留め沈めた主が、その90式戦車である事を表してた。
そして同時に、それは第32戦闘群の増援到着を知らせるものでもあった。
90式戦車は、マンモス騎獣を屠るために向けていた砲塔砲身の向きはそのまま維持。そして信地旋回で車体を動かし進行方向を変える様子を見せる。
さらにV字路の向こうよりは、多数の人影が――陸自隊員が次々に駆け出て来た。戦闘群、普通科隊の第1小隊が同時に到着したのだ。
小隊の隊員等は、信地旋回行動中の90式戦車の両側を抜けて次々に踏み込んでくる。そして会生等の観測遊撃隊の元へ合流。
各所へ展開、帝国兵を相手に交戦を開始する姿を見せる。
そして信地旋回を終えた90式もそのまま続ける動きで、こちらへと進み上げて来る。
「――前方右側の家屋上階に1チーム上げてくれ、高所支援が要るッ。周辺家屋のクリアリングも忘れるなッ」
「了解ッ、了解ッ!」
進む90式の上には、車長キューポラ上の車長が。車体側面には車体に足を掛けてそこに乗る、普通科の隊員の姿がある。
車長が前方を指し示して指示要請を張り上げ、隊員がそれを受け答えている。
そして次には普通科隊員は、90式の車体前側を階段代わりにするように踏んで飛び降り、駆け進んでいった。
90式は続け同軸機銃の射撃を再開して、混乱に陥った帝国兵に無慈悲にも掃射を注ぎ込む交戦行動を見せながら。ゆっくりとした速度で進み出てきて、会生等の少し手前で停止。
「編成隊の観測遊撃隊かッ?」
そして砲塔上の車長、二等陸尉の階級章が見える隊員は、会生に尋ねる言葉を降ろして来た。
「えぇ、そうです」
「遅れて悪かった、周辺状況は掌握しているか?」
それに肯定で答えた会生に、車長の二尉は続けて尋ねる言葉を寄越す。
「少しお待ちを――調映、こちらの現在地より向こうの状況をくれ」
それには端的にそう告げると、会生はヘッドセットに言葉を送り紡ぎながら、後方上方を見上げる。
呼びかける先は、後方向こうに見える鐘楼に陣取る調映だ。
《そちらより北北東方向に、今と同様の大型モンスター2体確認。随伴の歩兵が中隊規模》
ヘッドセットでの通信に返り来るは、調映からの端的な知らせ。
同時に向こうに見上げる鐘楼には、身を乗り出して座り。通信音声に合わせて、手の動作による合図を見せ伝える調映の姿が見えた。
「ここより北北東に大型モンスター2、歩兵一個中隊」
それを要約し、端的に90式上の車長へと伝える会生。
「了解――あちらは、民間人か?」
それに了解の言葉を返した車長は、続け道を挟んだ向こうを視線で促しながら訪ねる。
向こうを見れば、そこには舟海等と。先に救助回収した村の男性ゲインに子供たちの姿が見えた。
さらにそこへ祀やストゥル、第1小隊の衛生隊員等も合流。
状況に驚愕して呆気にとられているゲインたちを、落ち着かせ状況事情を説明している姿が見えた。
「えぇ――祀、そちらの人たちは?」
《無事だ》
会生は90式の車長に肯定の一言を返し。それから向こうの状況を尋ねる言葉を送る。
それに返し寄越されるは、祀よりのまた端的な回答の言葉。どうやら彼らに大事は無いようだ。
《だが会生、新たな問題発覚だ。村の人たちは、帝国軍によってこの先の広場に集められ、囚われているらしい》
そして合わせて寄越された言葉は、新たな事態。この村の住人の所在と状況だ。
「了解、抑える必要がある」
それに解答、取るべき行動は明らかと間髪入れずに会生はそう言葉を返す。
「二尉」
「了解だ。これよりそこを目指して、敵を退けて押し上げる。前進再開しろッ」
その情報を同じく聞いていた車長は、会生の呼ぶ声にそれだけで要請を理解して返答。そして操縦手に向けた指示の言葉を紡ぎ。それに呼応して90式は前進を再開、進み上げを再開する。
「観測戦闘隊、再編成ッ。俺等も随伴して前進するッ」
そして会生も、周辺の指揮下の各員へ次なる指示の言葉を発し上げ。
観測遊撃隊は集合から再編成し、彼らもまた進行戦闘行動を再開した。
90式戦車を中心として、第1小隊とそして会生等の観測遊撃隊の混成隊は、村の路を北へと進行。
進行から遮蔽、射撃戦闘行動からまた進行のサイクルを繰り返し。混成隊は帝国軍を排除、退けながらどんどん押し上げて行く。
「――前方、T字路の向こう。大型モンスター1ッ!」
小隊の援護を受けつつ、キャタピラを響かせて路を進む90式。その砲塔キューポラ上で、半身を出す二尉が発し上げる。
その視線の向こうに見えるは、今先に一体を屠ったマンモスのような大型モンスターの同種個体。
押し返しを試みるつもりか、帝国兵の歩兵の一隊を伴いこちらへとノシノシと向かってくる。
「主砲照準しろッ、弾種引き続きHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)ッ。進行はそのままッ」
それを見止め、続けて車長が降ろすは砲手や操縦手への指示の言葉。
それに呼応し、次には砲塔が少し旋回。そして主砲が仰角を取り、巨体を晒す大型モンスターを照準する。
「――
車長の号令。
それが発し上がると同時に、90式の主砲は再びの轟音を上げた。
撃ちだされた120mmのHEAT-MPは、一瞬の後には大型モンスターの巨体の、そのド頭に着弾。
爆炎を上げて大型モンスターを焼き、同時にそのエネルギーでモンスターの体、肉を軒並みこそぎ取る域で四散させた。
「百甘、舟海、T字路の手前角の家屋に行けッ。そこを火点として配置しろッ」
会生等、観測遊撃隊の各員もまた。90式の咆哮を近くに聞きつつ、苛烈な戦闘行動を行っている。
その最中で会生は、引き続きの10.9mm拳銃を用いて、オークや獣人などの脅威度の高い敵を優先して排除する射撃戦闘を展開しながらも。
同時に汎用機関銃射手の百甘と、近接戦闘員の舟海に指示の声を張り上げ送った。
詳細にあっては言葉通り、建物を確保してそこを火点銃座とせよとのものだ。
「了ッ」
「っ、了解……ッ!」
それに舟海は端的に。百甘はまた少し臆するところがある様子の声色で答え、しかし次には駆け出し行動への移行を見せた。
二名は路沿いの家並みに添って駆け抜け前進、さほど掛からず指示されたT字路一角の家屋の到達。半壊していたその家屋は、扉は窓を破るまでもなく易々と踏み入ることができ。二人は踏み込み内部をクリア。
そして家の角部屋に、倒壊し瓦礫が積みあがりながらも、都合よく一部が開口した個所を見つけ。そこを設置地点と定めて配置した。
「ッ……!」
百甘がそこにM240Bを二脚で据えて、銃身を開口部よりわずかに突き出して、銃座となって配置。その横に舟海が援護カバーのために配置。
そして開口部より向こうに見える。戦闘行動を行いつつも大分の混乱に陥りつつあり、退却行動に転じつつある帝国兵達に向けての。
無慈悲に鉛弾の雨を浴びせる、機銃掃射を開始した。
唸り響く、鈍い機銃掃射の銃声に。無数の断末魔の悲鳴が混じり上がった。
我先にの退却行動に転じようとしていた帝国兵たちは、良い的であった。
百甘等の銃座火点より火線が、面白いまでに帝国兵たちを撃ち抜き弾いていく。
「向こうよりモンスターさらに1、取り巻きのデカブツも多数ッ」
だがその最中にも、舟海が路の向こうにさらなる帝国軍の増援を。マンモス型モンスター一体と、多数のオークや獣人などの亜人種からなる歩兵部隊を見止めて発する。
「ッ、〝ブルファイト〟!排除願うッ!」
続け百甘は、急く様子でヘッドセットにて要請の通信を上げる。そのコールサインは、90式戦車を示すものだ。
直後、「見えてる、今やる」とでも答えるように。側方後方よりまたもの砲撃の轟音が――90式の主砲の砲撃音が響き届く。
そして次には、前方の向こうに見えたマンモス型モンスターが、お約束のように爆炎に包まれた。
「――!、見ろ、東から〝エナジーティラノ〟だ」
さらに次に、舟海が何かを気づき見止めて言葉を紡ぐ。
その直後に、二人の視界射線を半分近く覆うまでの様相で、また別の大きな鋼鉄の物体が、ヌっと姿を現した。
その正体は73式装甲車。普通科隊に付随する装甲車班の車輛。
村を回り込んできたその73式装甲車が、T字路の分岐方向より来てこの場で合流したのだ。
そして73式装甲車はそのターレットに備わる12.7mm機関銃を、マンモス型モンスターに取り巻き随伴していた亜人歩兵たちに向けると。重々しい銃声を響かせて、容赦の無い掃射行動を開始。
混乱動揺の最中にあった亜人歩兵たちを、片端から血肉の霧へと変え散らかし、浚えて行った。
《エナジーティラノより周辺各隊、掃射は完了と見止める。他に目標があれば指定してくれ》
そして通信に聞こえるは、その73式装甲車からの伝える言葉。
同時に73式の後部乗降扉が勢いよく開かれ、搭乗していた一個分隊が降車展開していく姿を見せる。
《続け、エナジーティラノよりブルファイト。他、指示はあるか?》
《了解ティラノ、こちらはさらに北上して押し上げる。随伴して露払いを頼む》
《了解、同行する》
続けて、90式戦車と73式装甲者の間で通信での調整が行われ。90式側からはそう要請の言葉が伝えられる。
通信に上がる音声と同時に。
舟海等の篭る家屋の側方路上を、90式がまたキャタピラ音を響かせ通過。T字路をそのまま直進で突っ切っていく姿を見せ。
73式も行動走行を再開。進行方向を変えてそれに随伴同行する姿を見せた。
「前進だなッ、こっちも会生さん等と合流しよう」
「ぁ、あぁ……!」
そこまでのそれらを見聞きして、状況を判断し。舟海は会生等観測遊撃隊への合流を促す。
それに百甘が返すは少し動揺交じりの声。苛烈な戦闘の中での凄惨な光景に、彼女の少し顔が青くなっていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫……大丈夫!……泣き言は言わない……ッ」
百甘のその様子に舟海は案ずる言葉を掛けるが。
その舟海当人は、自らに言い聞かせるようにそんな言葉を紡いでいる。
「行こう……ッ、移動だッ」
そして百甘は、身を震わせるようにそんな一言を発する様子を見せ。
そこを区切りに、二人もまた配置を解いての進行行動を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます