2-8:「.44リボルバー炸裂 そして怪物現る――」

 出現した脅威存在であるオーガを向こうに見止めながら。会生はその腕に持ち構えたリボルバーカノンを突き出すように向けている。


 すでに多くの説明はいらないであろうが、今しがたオーガの体に叩き込まれたのはリボルバーにより撃ち込まれた.44マグナム弾による一撃。

 それを実行してのけたのは、会生だ。


「受け止めるか」


 その会生は静かに紡ぐ。

 驚異的な事にオーガは.44マグナム弾を受けながらも、その鳩尾に痣を作ったのみで。その弾頭は強靭すぎるオーガの肉肌に防がれ、潰れ地面に落ちた。

 そしてそのオーガは、不愉快そうに視線でこちらを刺してきている。

 どれだけ生物として強靭なのか、驚愕し恐怖にすら値するそれ。


 しかし。会生はその驚くべき光景結果を、ただ事実を確認する目的で口にしたのみで。

 そしてあろうことか、直後にはそのオーガに向けて一歩を踏み出し。ズカズカと、堂々と歩み進み始めたのだ。



 その進め始めた会生の腕に、突き出しオーガを指し示すように構えられるリボルバーカノン。


 ――10.9mm拳銃。それがそのリボルバーカノンの自衛隊での採用正式名。


 .44口径マグナム弾を用いる、大口径長銃身の6連装大型リボルバーカノン。

 自衛隊に置いて武器・火器としての面よりも、破砕工作機器としての用途を主として製作採用されたそれ。しかしその10.9mm拳銃は、その破壊力が異世界の危険生物の排除に有用と認められ。いくらかが異世界へと持ち込まれた。

 その特性上、易々と仕様運用できる扱い者は限られ。異世界にあっても大々的な運用にまでは至っていない凶悪過ぎる代物。

 しかし会生は、対物・対装甲火器としてその有用性を好み。


 そして今。その身体力に物を言わせ、悠々と取り回し扱う姿を見せ始めたのだ。



 会生の人差し指が、その凶悪な10.9mm拳銃の二度目の引き金を引いた。

 鈍くも甲高い発砲音が木霊。同時に凄まじい反動が発生するが、驚くべきことに会生はリボルバーを片腕を突き出した姿勢のまま。悠々としたまでの様子で受け止めて殺し、同時に受け流してみせた。


 現在に在っては、その10.9mm拳銃を納めていたホルスターが、ストックへと姿役割を変えてグリップに装着されているのだが。

 会生はそのストック・ホルスターを前腕の腹にあてがい微かな支えとするのみで。ほぼ片手の握力のみで10.9mm拳銃を維持し、その反動を受け止めていた。


「――ガァッ!?」


 その叩き込まれた二発目の.44口径マグナム弾が、今度はオーガの右肩を叩き殴るように着弾命中。

 やはり貫通はせずに痣を作ったのみだが。

 しかしその衝撃に、オーガはその方を思いっきり押されたように、身を打ち一歩退いてしまう。


「ッ……ヤロォッ……――ギァッ!?――ゴゥッ!?」


 二度目も襲った不快な衝撃と痛みに、オーガはいよいよ頭に血を登らせる。

 しかしそれをどころか、いよいよ煽る様に衝撃の連撃は続き。オーガの体前の腕が、足が、凄まじい打撃に襲われる。


 会生はさらにズカズカと歩み間合いを詰めながら、三発目、四発目を立て続けに発砲してオーガに叩き込んだのだ。

 そしてその片腕での射撃姿勢は、まったくブレる様子を見せない。


「――ヤロぉぉッ!」


 そのズカズカと歩み接近を続ける会生の側面より。別の姿影が襲ったのはその瞬間だ。

 その正体は、オーガの配下のオーク。

 会生の意識がオーガに向いている所を見止め狙い、そして何よりそのオーガを助け援護するべく。オーク兵が飛び掛かり、剣を振るい上げて襲い掛かって来たのだ。


「――ピぁりゃッ!?」


 しかし。

 そのオークに在っては、次には妙な声を、いや音を上げた。

 そして見ればオークのその屈強な身体は、しかし襲い飛び掛かって来た動きとは正反対の真後ろに、もんどり打ちながら吹っ飛んでいる。

 そして何よりオークの頭は。割られたスイカのように爆ぜていた。


「――」


 視線を移せば。

 それまでオーガに向いていた会生の10.9mm拳銃が、その腕が向きを変えてオークの方へと向けられている。

 オークは、即座にそして涼しいまでの対応を見せた会生の射撃によって。その凶悪な.44口径マグナム弾を叩き込まれる事によって、その頭を破砕されたのであった。


「――ヌがァァッ!!」


 間髪入れずに、今度は反対の別方からまた別のオークが、大斧を振りかぶって襲い掛かってくる。

 今祖にあっては、10.9mm拳銃の再照準は間に合わない。明確な危機と思えた。


「――ぁ!?」


 しかし直後。そのオークの降り下ろした一撃は、しかし空振りに終わった。

 気付けばオークの目の前には、狙う目標であった会生の身体が無い。見れば、会生の身体は半歩引いて捻られ、易々と襲い来たオークを回避して見せていた。


「――ぱりゃッ!」


 そして。つんのめり倒れて隙を晒したオークは、良い位置にあってしまったために。そのままその後頭部に、会生の10.9mm拳銃にマグナム弾を撃ち込まれて破砕された。

 脳漿をぶちまけ、地面に沈む末路を迎えたオークの慣れ果て。


「――」


 しかし会生は、足元に転がり沈んだそれにすでに興味を示さずに、ズカズカと進み続ける。

 その片手間に、取り巻きのちょっかいから〝余計な弾〟を消費してしまい空となったシリンダーに再装填を行う。

 拳銃を折り開いて空薬莢を捨て、取り出したスピードローダーにまとめられた新たな10.9mm弾の挿弾子をシリンダーに込め、再装填を完了させる。

 そして新たに込められた6発は、今に撃ち込まれた6発の‶通常弾〟よりも、輪を掛けて凶悪な代物であった。


 その再装填を終えた10.9mm拳銃が、再び会生の手に突き出し構えられ。その長い銃身がオーガを指し示すように向く。

 そして、また鈍くも凄まじい咆哮が上がった。


「――グィァぁッ!?」


 直後。オーガから上がったのは、名状し難くも今まで以上の苦痛の含まれた、重々しい悲鳴。

 見ればなんと。

 そのオーガの右肩の付け根には、赤黒い大きな穴がこじ開けられており。そして次には、その穴からオーガの血が噴き出し垂れ始めた。


 .44口径の〝徹甲弾〟。

 それが今にオーガに撃ち込まれ、その強靭な身体にしかし大穴を開けた正体。

 対物・対装甲使用を考慮し、弾頭を鋼材で被い、装薬を増加した凶悪で凶暴な代物。

 それがオーガの強靭な身体に、ついに決定的な傷を付けたのだ。


「――有効だ」


 無論、火薬を増したその弾を用いての射撃は。その際に発生する衝撃反動は、最早常人では支え受け止められるものでは無い。

 しかしどうだ。

 呟く会生は今もなお、その銃口より硝煙の上がる10.9mm拳銃を、突き出した片手で悠々と構え支えていた。

 最早、筆舌に尽くしがたい。


 そして、その10.9mmから咆哮が立て続いて上がり始めた。


 鈍く轟く、比類なき方向を上げ。また.44口径徹甲弾が撃ち出される。


「ギィァっ!?」


 二発目は、一発目に続いてオーガの右腕に叩き込まれた。

 オーガの肉が削げ、腕の骨が砕け。オーガの抱えていた巨大な金棒が、その腕より離れて地面に落ちる。


「ガぁッ!?イ゛ァッ!?」


 三発目はオーガの右腿を貫通して、その立つ姿勢を崩し。四発目は左脚の膝を砕き、オーガをついに地面にひざまづかせる。


「ゴァっッ!?」


 五発目の徹甲弾はオーガの強靭な腹筋をしかし貫き食い込み、その身に力を込める事を不可能に追い込む。


「ア゛ァ……ぁ……っ!?」


 その強靭な体のしかし各所に走る鋭い痛みに、鈍く重い呻き声を上げるオーガ。しかしそのオーガの前に、何者かの立つ気配が差す。

 オーガが視線を上げればそこに在るは――他ならぬ、会生。

 その彼が、静かな瞳でオーガを見降ろす姿であった。


「投稿するんだ」


 その会生は、端的にそんな一言告げて降ろす。言葉通りの、降伏投降を促すそれ。


「がぁ゛……フっ――ザけんなァアッッ!!」


 しかし、それはオーガの感情を逆撫で。

 オーガはその獰猛な口に牙を剥き出しにして、荒げ吠え。そしてその傷ついた体に鞭打ち、最早後先も形振りも構わずに。

 その強靭な腕を振るい上げ、会生に向かって襲い飛び掛かった。


 ――鈍い破裂音が、瞬間に木霊。


「びゅ゛ォ――?」


 そして漏れて響いた、妙な音。声。

 それはオーガのものに他ならない。


 オーガの頭部に、その顔面に。10.9mm拳銃より発された、.44口径徹甲弾が撃ち込まれ。オーガの顔面はクレーターの如き大穴を作り、潰されていた。

 オーガはもんどり打って同時に膝を再び落とし、その体を折る様に背後へ倒れ、地面へと叩かれるように沈む。

 そして、その巨体に少しの痙攣を見せた後に、完全に沈黙。

 獰猛で、恐ろしいまでの脅威であったはずの帝国軍の指揮官級オーガの。あっけない最期であった。


「確保はならずか」


 その、オーガに.44口径を撃ち込み屠った主である会生は。降ろし構えていた10.9mm拳銃を引いて上げて控えると同時に。オーガの亡骸を見降ろしつつ、端的にそんな一言を零す。

 オーガを敵の指揮官級と見て、その身柄の有用性から投降を呼びかけ確保を試みたのであるが。オーガは最後までの抵抗を見せて排除せざるを得ず、確保は成らずに終わり。

 しかしそれを特段残念がるでもなく、ただ事実確認のように零した一言であった。


「う、ウワぁッ!?指揮官がぁ……!?」

「そ、そんな!お、オーガのダンナが……――びゃッ!?」


 指揮官であり、そして絶対に崩れる事は無いと信じていたオーガの。しかしその屠られ沈んだ事実を目の前に、慌て狼狽し出した取り巻きの帝国兵達であったが。

 直後には、その帝国兵達が次々に弾けるように倒れ始める。


 周辺の観測遊撃隊の各員より、残兵も同然となった帝国兵達への火力投射が襲ったのだ。


「ッ――とんでも無いな、お前さんはッ」


 会生の背後側方。そこの家屋玄関へ飛び込み退避していた寺院も、そこでカバー体勢を取りつつ残る帝国兵を銃撃を行い。オーガを仕留めた直後の会生の身をフォローしている。

 同時に零された言葉は、そのオーガを仕留めて見せた会生の。10.4mm拳銃という凶悪な得物を平然と扱って見せた剛力と、何よりオーガへ真正面から挑んで見せたその豪胆さを評するもの。


「徹甲弾が有用だったから、功を奏した」


 その援護を受けつつ10.9mm拳銃にまた再装填を行いつつも。会生はただそう事実を、淡々と述べて返して見せる。


「よく言う、それを……――ッ!?」


 それにまた呆れの域の感情を覚えつつ。また言葉を返そうとした寺院。しかし、その寺院が何かの気配を。接近襲来する〝それ〟を察知したのは直後。

 見上げた寺院の視線が、その向こうの宙空に見たのは。

 こちらへ飛来降下する、火の付いた巨大な岩――巨岩の投石だ。


「――ッ!」


 その辿る予想軌道は十中八九こちら。それに感づいた瞬間に、寺院は足元を蹴って家屋より飛び出した。

 その直後、投石は家屋の屋根に直撃。家屋を押し潰し砕く、大きな破壊音を立てて家屋を破壊した。


「――ッ゛ゥ!?」


 崩落した家屋の破片が、雨霰と降り注ぐ中。後先も放って飛び出した寺院は、着地の際に申し訳程度の受け身を取るのみで、ダイレクトに身体を打った。

 しかし。その痛みに苛まれる間すらも禄に無く、寺院は仰向けで見る光景の向こうに、歓迎し難い光景を見る。


 現在地の一帯より北西方向へ延びる、村の道の向こう。そこに、巨大すぎる生物が見えた。

 鼻の短いマンモス、もしくは像を越えるサイズのイノシシとでも表現するべきか。今しがたの投石の元がそれであるよう主張するように、その背には投石器を背負い乗せている。

 明かしてしまえば、それは帝国軍の用いる大型騎獣だ。その足元両側には、帝国兵の隊伍を伴っている。

この場への帝国兵の増援襲来を知らせる、明確な光景であった。


「ッ……マジかよっ!」


 敵増援の後継に悪態を上げる寺院。その寺院の身体が、戦闘服がむんずと掴まれ、後へ引きずられ始めたのはその直後。


「招かれざる客だ」


 その寺院の頭上より端的な一言と、続けて鈍く響く発砲音が降りて聞こえる。

 見上げれば、そこにあったのは他ならぬ会生の姿。

 会生は10.9mm拳銃を片手で突き出し構え、撃ち放ち。帝国兵の増援へ向けての応射牽制を行いつつ、空いたもう片腕で寺院の戦闘服を掴んで、彼の身を後退退避させるべく引き摺っていた。


「何とかお引き取り願いたいが……ちとマズいぜッ!」


 その寺院に会っても引き摺られながらも、スリングで下がり摺っていた89式小銃を手繰り寄せ。自身も弾をばら撒く牽制射撃を開始。


「少し引け、再構築しろッ」


 会生は10.9mm拳銃を易々と撃ち放ちながらも、周囲の観測遊撃隊の隊員等に向けて促す言葉を発する。

 それに応じ、そして会生と寺院の後退行動を援護するように。近くに居た舟海や一玉は位置を変えて引き、カバーから応戦射撃行動を帝国軍増援に向けて開始する。


 しかし。そのマンモスのような騎獣の存在は、それだけで大変な脅威だ。伴う帝国兵隊伍も少なくない数であり、おまけに増援の登場に残っていた先の残兵も、勢いを盛り返し出した。


「ヤバイか……ッ!?」


 その光景に、事態困窮に。89式小銃をばら撒き撃ちながらも、苦く急いた声を発し上げる寺院。


 ――そのマンモス騎獣の巨体、その顔面で。爆炎が巻き起こったのはその瞬間であった。


「ッ!?」


 目を剥く寺院。

 同時に木霊した爆音を演出に、マンモス騎獣は爆炎衝撃にその体血肉をこそげ四散させられ。絶叫を上げて次には地面に沈む。

 足元には、突然の事態に混乱狼狽する帝国兵達。


「こりゃぁ……ッ!」


 その爆炎の正体に、会生や寺院はすぐさま察しを付ける。

 同時にそれを正解と解答を示し伝えるように。背後より只ならぬ気配が、そして鉄の擦れる歪な音と、鈍くしかし荒々しい唸り声のような音が響き届く。


「到着か」


 会生は振り返り、そこに見えた予想道理の存在に、淡々と一言を紡ぐ。

 一帯後方のV字路のど真ん中。そこに現れ鎮座するは、異様なまでの鋼鉄の怪物。


 陸上自衛隊、機甲科の保有する戦場の覇者。

 ――90式戦車の姿が、そこにあった。

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