第3.5話
入ってきたのは、眼鏡をかけた爽やかな雰囲気の男だった。この男が教師役の冒険者らしい。
「やあやあ、遅れてしまってすまないね」
「いや、大丈夫だ」
予定の時間より少し遅れて入ってきた教師役のその男に、フルカはそう答えた。
男は右手に持っていた分厚い本を教壇に置いて、フルカと向かい合った。
「まずは自己紹介かな?僕の名前はアーク・カフェイン。気軽にアークって、呼んでてくれて構わないよ」
「私の名前はフルカ!よろしくな!」
「うん、よろしく。さてと、早速だけど授業に入ろう・・・・・・ええと、ルリくんから聞いたんだけど、君は記憶喪失らしいね?」
「ああ、そうなんだ」
「それで魂技のことについても憶えてないと・・・・・・なら魂技のことから説明した方がいいかな?」
「うん、そうしてもらえると助かるな」
「ならそうしようか。うん、そうだな・・・・・・。まあ魂技とは何かについて説明する前に、まずは君の魂技についての僕なりの推測を話してみようか」
「私の魂技?悪いけど、私は自分の魂技のことなんかこれっぽちも憶えてないぞ?」
「うん、わかってるよ。だけど断片的な情報からこうなんじゃないかと推測することは出来る。ルリくんから聞いたところによると、君は完全に記憶を無くしていたわけではなく、名前と、人の役に立ちたいという情熱、そして全裸なら何でもできるという確信だけを憶えていたらしいね?」
「ああ、そうだな」
「この中だと、はっきり言って全裸なら何でもできるという確信、この記憶だけが明らかに異質だ。僕は以前にも記憶喪失の人間に接したことがあるが、こういう一つだけ異彩を放つ記憶が、その人の魂技への鍵になることが多いんだ。
自分の魂技についての記憶は、脳の海馬に刻まれるような記憶ではない。それは魂の奥深くに刻みつけられているものだ。
だからもし、完全に全ての記憶が失われていたとしても、名前すら思い出せないとしても魂技についての記憶は思い出すことが出来る。
しかし、それは脳を経由するときに不完全で断片的な記憶になる。それは他の人には奇妙に聞こえるけど、それがその人自身の魂技の記憶への鍵になっていることが多いんだ」
「ほーん・・・・・・」
「つまり僕の推測は、多分フルカさんの魂技は全裸が何らかの形で起動条件になってるんだろうってことなんだ」
「なるほど・・・・・・とにかく、全裸なら何でもできるってことだな!」
「ああー・・・・・・うん、まあフルカさんの魂技に関しての話だし、フルカさんがそう思うんなら、それでいい・・・・・・のかな?まあいいか・・・・・・それじゃ、次は魂技の定義を説明していこうか」
「おう!」
「簡単に一言で言えば、『魂技』とは『許可』だ」
「許可?」
「そう、『許可』だ。この世界の理を、書き換えることに対しての、神からの正式な許可。この世界の創造神であり、造物主、最高神、光の神であるアフラ・マズダ様が与えられた、自分の意志によって自由に世界を捻じ曲げてもいいという聖なる『権利』。
それが神話による、魂技の定義なんだ」
「権利・・・・・・」
「そう。神話によると、光の神アフラ・マズダはこの世界を創造した時、人類が文明を創って発展させていくにあたって、それがより良いものとなるように、より良い文明を創るのに便利なように、魂技という能力を人々の魂の底に刻みつけたのだという。
ただ、神もそんな権利を手放しで我らに与えたわけではない。一人につき一つ、しかも条件つきで与えられたんだ。
条件付き。これが魂技を持つ敵と戦う上で重要なんだ。その条件が何かわかれば、隙をついたり、使えなくさせられたりすることが出来るからね」
「条件か。まあこういう能力とかあるタイプの話にはありがちな設定だな」
「とまあ・・・・・・これが魂技についての定義と、その注意点かな?」
「なるほどな・・・・・・あれ?でもパスタをダイヤモンドくらい硬く出来るやつとかいたけど、あれは文明を創るのに役立つのか?」
「えっ、あーいや、それは、その・・・・・・神のみぞ知るというか、何というか・・・・・僕にもわかんない・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
「うん・・・・・・ま、まあ魂技のこの定義も神話による定義だからね。もうちょっと研究が進んで魂技について新しいことが解明されればもっと違った定義がつくかもしれないし・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
「さて!魂技についての説明も大体終わったけど・・・・・・何か質問とか無いかい?」
「ああ、そうだ!気になってことがあったんだ!その魂技っていうやつ、動物は持ってるのか?魔物とかいるらしいけど、そいつらはどうなってるんだ?」
「ああ、そうか。そこのところを説明してなかったね。動物は魂技を持ってないよ。ただ、魔物は持ってるんだ」
「持ってるのか!?」
「うん。ただ、人間のように一人につき一つじゃなくて、一つの魂技をその種族全体で共有してる感じだと考えられている。
例えば、レッドドラゴンのファイアブレス、ブルードラゴンのアイスブレスとか、レッドオーガの怒りによる身体強化とか、スライムの消化吸収とか、一つ一つの個体は違っても種族全体で同じ技を使ってくることがあるが、そういう感じで、種族全体で一つの魂技を共有している・・・・・・と考えられているものの、実際のところはあんまりよくわかってない。
魔物はもともと一つの存在が、何かのきっかけで複数に分かれたのだとか、いや、そもそも魔物自体が何者かの魂技によって造られたのではないのかとか、今でもいろんな説があって、はっきりとした定説とかが無いんだ。
・・・・・・と、話が逸れてしまったかな?次に魔族についてだけど・・・・・・」
「魔族?魔族なんてやつらがいるのか?」
「ん?ああ、そこら辺の記憶も無くしてるのか。それに関しては後で教えることになってるから、もう少し待ってね。ただ、ここで少し触れておくと、魔族は人間と同じように一人につき一つの魂技を持っている。
人類にとっての不倶戴天の敵、魔物や魔族がなぜ魂技を持っているのか。それについては神学者の間でたびたび取り上げられていて、いまだに意見の分かれるところだけど、一番有力な説としては『試練説』があげられるね。人類に対する試練。あえて敵を強力にし、これと戦って乗り越えさせることで人類の成長を促進させんがためという説がもっとも有力だ。
他にも、魔物や魔族に魂技を与えたのは邪神説とか、魂技の紛い物で偽物説とか色々あるけど・・・・・・まあここら辺は研究者になるつもりでもなければ憶えなくていいよ」
「はー・・・・・・」
「さて、これで魂技については大体言い終えたかな・・・・・・?うん、大体言い終えたみたいだね。さて、次は・・・・・・」
そのあとも授業は続いて、薬草の取り方や、魔物との戦闘において大切なこと、魔族のことなど色々なことを教えてもらったのだった。
その後、フルカはルリから教えてもらった宿屋へ行き、一悶着ありつつも泊まることができて、夕食ののち、明日を楽しみにしながら眠りについたのだった。
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