第2話

「おー!ここが冒険者ギルドかー!」


 フルカは、三階建ての建物を全裸で見上げていた。


 あまり華美な装飾などは施されていない、冒険者らしい質実剛健な建物だ。ペンキなどを塗っていない、素材のままの真っ白な壁はすっきりとしながらも無機質な感じはなくどこか温かみを感じさせる。


 フルカはそんな建物を笑顔で見上げていた。


「つ、疲れた・・・・・」


 一方のルリはどっと疲れていた。こんな格好のフルカを連れているもんだから、街に入る門の前で、衛兵と一悶着あったのである。街に入る時のフルカは全裸なだけでなく、例の森の中の小屋にいた亡くなった女性を抱えていたので余計話が拗れた。


 そこを何とか切り抜けても、待ちの人々に好奇の目で見られ、途中で供養するために立ち寄った教会でも揉めに揉め、さらに街中を見回る衛兵にもまた呼び止められて一悶着あって・・・・・・ということでげっそりと疲れてしまったのである。


 こういうことにならないよう、フルカに服を着るように頼んではみたのだが、


「フルカさん・・・・・・いいかげん服着てくださいよ」


「やだ!」


 と、こうなってしまうので仕方がない。


 とりあえず、冒険者になる分には何も問題ないはずだ。冒険者は変な人が多いから。全裸の少女が登録しにきたって何も言われないだろう。・・・・・・それもそれでどうなんだ?


「よし!入るぞ!」


 ワクワクしてしょうがないといった笑顔を浮かべながら、フルカが控えめな近の装飾が施された木の扉を開ける。


 昼間のギルド内部は、数多くの冒険者でごちゃごちゃと混み合っていた。


 ギルドの一階の作りとしては、正面に受付があって、右側に軽い軽食やお酒などのドリンクが出る店といくつかの椅子とテーブルがあり、左側には掲示板があって、そこに依頼書が貼ってある。


 フルカが入っていくと、冒険者たちは一斉にそっちの方を見た。が、何の反応も示さずにすぐまたそれぞれの用事に戻った。


(あ、よかった。やっぱり全裸も冒険者の世界じゃそれほど変な格好じゃないんだ・・・・・・)


 と、思ったらものすごい勢いで二度見した。やっぱり冒険者の世界でも全裸はアバンギャルドすぎるらしい。


 でも、やっぱり何度も魔物や盗賊と戦って視線を潜り抜けてきた猛者たちだ。自分から進んで見えてる地雷に飛び込もうとはしない。話しかけたり絡んできたりする人間はいなかった。


「登録ってやつをするにはどうすればいいんだ?」


「ええっと、あの正面に見える受付ってとこにいる女の人に登録したいって言えばいいんです」


「なるほど!ありがとう!」


 フルカとルリは受付から伸びる列に並び、並んでる冒険者にちらちら見られながらしばらく待っていると、やがてフルカたちの番になった。


「こんにちは。今日はどうなさいましたか?」


 受付嬢がそう聞いてくる。受付嬢はフルカの格好を見ても全然動じていなかった。さすがはプロである。


「冒険者登録ってやつをしたいんだ!」


「なるほど、分かりました。ではこれを係の者にお渡しください。あそこに立ってる、『試験官』という腕章をつけた人です。あの人にこの紙を渡してもらえれば試験を受けられますので、それに合格すれば冒険者登録することが出来ます」


 受付嬢はそう言って、何やら書かれた紙を差し出した。フルカはそれを受け取った。


「試験かー。やっぱ的当てとかするのか!?」


 フルカは紙を受け取りながら受付嬢に向かってそんなことを言った。それを聞いた受付嬢は、やや呆れた感じでこう答えた。


「いや、やりませんよ的当てなんて・・・・・・それで何がわかるっていうんですか」


「さー・・・・・・何がわかんだろうね?」


「・・・・・的当てなんかやりません。簡単な筆記試験と実技試験だけです」


「えー。勢い余って壁まで壊すやつやりたかったのにー」


「そんなこと言われたら余計やらせるわけにいかないじゃないですか」


「じゃあステータスチェックとかは!?」


「ステータスってなんですか?そんなものチェックしませんよ」


「レベルは!?」


「レベルなんて概念ありません」


「なろう系なのにか!?」


「なろう系なのにです」


「魔力測定とかもないのか!?」


「魔法なんて概念もないのでしません」


「魔物いるのに魔法はないのかよ!」


 と、フルカのそんな言葉を聞いて受付嬢は不思議そうな顔をしてこう言った。


「え?でも魔法はなくても『魂技』があるじゃないですか?」


「え?」


「え?」


 そこで耐えきれなくなったルリが割って入った。


「あの、すいません・・・・・・この人、記憶喪失なんで、そこら辺の記憶がないみたいなんですよ」


 それを聞いて受付嬢は合点がいった、というふうな顔をして言った。


「ああ、なるほど。だからですか。『魂技』ついての記憶がないんですね」


「おう!そのコンギとかいうのが何のことやらさっぱりだぜ!」


「なるほどなるほど、ならご説明しましょう。そうですね、『魂技』とは・・・・・・ま、平たく言えば私たち一人一人に一つだけ与えられている、特殊能力・・・・・みたいな感じですかね」


「なるほど・・・・・・ジョジョのスタンドみたいなものか!?」


「まあ例えればそれに近いですけど・・・・・・あんまり具体名出さないで下さい。せめて伏せ字にして下さい伏せ字に」


「なるほど・・・・・・つまりこの世界の人間は十五歳とかになるとそのコンギとやらを授かる儀をすると!そしてそれでダメダメなコンギをもらったやつは無能認定されて追放されたりすると!要はそういうことなんだな!?」


「そういうことじゃないです。別に魂技を授かる儀なんてないですよ。魂技が目覚める時期は人によってまちまちです」


「あっそう・・・・・・」


「なんで残念そうなんですか・・・・・・」


「じゃあ一見使えなそうなコンギとか授かって『お前は追放だ!』とかもないのか・・・・・・」


「・・・・・・なんか夢を壊してしまったみたいですいません」


「バカなこと言ってないで行きますよフルカさん!すいません、手間取らせてしまって・・・・・・」


「いえいえ、大丈夫ですよ。また困ったことがあればいつでもお声掛けくださいね」


 ルリは「えー?もう少し喋らせろよー」とか言って渋るフルカを引きずって、掲示板の横あたりに立っている『試験官』の腕章をつけた男性の元へと向かう。


 と、そんな時、何者かがフルカたちの前に立ち塞がった!


「!?なんだお前らは!」


「ふふふ・・・・・・」


「悪いがここを通すわけにはいかないな!」


「・・・・・」


 突然フルカたちの前に立ち塞がる謎の3人組!一体こいつらは何なのか!?


 次回へ続く!


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