全裸なら魔王も倒せる

オオサキ

第1話 全裸なら盗賊を倒せる

「へっへっへっ・・・・・・俺たち森の中盗賊団に逆らったのが運の尽きってやつだなあ」


「身ぐるみひっぺがしてやるぜ!覚悟しな!」


「くそっ、こんな奴らに・・・・・・」


 ナイフを舐めながら下卑た表情を浮かべる盗賊五人と、くっころ的な表情をするショートカットの白髪に水色の目をしたボロボロの、女のような顔をした少年が、鬱蒼と木々が生い茂った森の中にいた。


 この少年は冒険者だ。冒険者っていうのは、なろう系とかに出てくる、端的に言えば日雇いの肉体労働者だ。主に依頼を受けて、それをこなしていくということをしている。


 この少年はまだ駆け出しも駆け出しで、今回小規模の盗賊団を捕縛する依頼を受けたのだが、力及ばずこうしてくっころ状態になっているのである。


「へっへっへっ、身ぐるみはがしたあとメイド服とか着てご主人様、とか言ってもらうぜ〜?」


「俺はチャイナ服を着てもらうぜえ・・・・・・?」


「俺はセーラー服で頼む」


「俺はシスター服」


「俺はムチで打たれたい」


「おい一人変なやついたぞ!」


 くそ、ここまでか・・・・・・このままこいつらに身包み剥がされたあとコスプレ鑑賞会されたり、ムチを打たされたりしてしまうのか・・・・・・。それは普通に嫌だ・・・・・普通に遠慮したい・・・・・・。


 そんな思いが彼の脳内を駆け巡る。


 と、その時だった。


「待ていお前ら!!」


 鋭い制止の声が鳴り響いた。


 その場にいる全員が声のした方へ振り向いた。


 声のしたのは森の奥、そこだけが木漏れ日のおかげで他のところより明るくなっているその場所に、スポットライトを浴びて登場するヒーローのように、仁王立ちでそこに立っていたのは────


 全裸だった。


「ええ・・・・・・?なん・・・・・・ええ?」


「え?何?え?何なの?・・・・・・え?」


 そこに立っていたのは全裸の少女。赤からオレンジ色へ、炎のようなグラデーションを持ったバサバサとはためく長い髪に、犬歯の見える野生的な笑みを浮かべ────そして全裸だった。


「・・・・・・??」


「・・・・・・??」


「・・・・・・????」


 盗賊も冒険者の彼も、一瞬フリーズしたが、やがてハッとすると盗賊の一人が叫んだ。


「いや何で全裸なんだてめえ!」


 それに対する全裸少女の答えは────


「全裸だからだ!」


 だった。


「・・・・・・答えになってねえぞオラァ!」


「つーか一応言っとくけど脈絡のねえエロが一番読者に嫌われんだからな!?」


「ハッ、この私の全裸が読者に嫌われるわけないだろうが!なぜならあ・・・・・・」


 全裸少女はビシッと自分の方を親指で差すとこう言った。


「全裸だからだ!」


「駄目だこいつイカれてやがる」


 ごもっとも。


 目の前で繰り広げられるこの光景には助けられた方であるはずの冒険者の彼でさえ


(頼む、盗賊の方勝ってくれ・・・・・・!)


 と思ってた。


 しかしこの期待に反して、この全裸少女はメチャクチャに強く、盗賊どもをあっという間にボコボコにしてしまうとどこからか取り出した縄で捕縛してしまった。


「よーし、これで大丈夫だな!」


 冒険者の少年はできれば早急にこの場から立ち去りたかったが、変人でも一応は恩人、お礼も言わずに去るのは流石に駄目だなと思って


「あ、あのありがとうございます・・・・・・」


 そして言いたいことはたくさんあるが、とりあえずたった今気になったことを聞いた。


「あの・・・・・・その縄どこから取り出したんですか?」


「ん?」


 全裸少女は自分でもよくわからない、といった感じの不思議そうな顔で盗賊を縛った縄をまじまじと見ていたが、やがて笑顔でこう言った。


「ああ、私ほどの全裸になるとね、何もない空間から縄を取り出すことだって出来るんだよ!」


「いや意味分かりませんよ!!いくらこれがなろう系だからってそんなガバガバな説明でいいと思ってんですか!?」


「いいんだよ!全裸だからな!」


「いやだから意味わかんないって!」


 と、そんなふうなやり取りを繰り返してるうちに、話題はこの全裸少女の身の上話へと移っていった。


 この全裸少女の名前はフルカと言って、この森の奥の湖のそばで目を覚ましたのだという。


「記憶喪失・・・・・・ですか?」


「そうなんだ。目が覚めた時何にも憶えてなくてさー」


 自分の名前は憶えていたのだが、それ以外がまるっきり思い出せなかったのだという。


 しかし、思い出せないなりに、何となく心がざわつく方向へと歩いていったところ、一つの小屋を見つけたらしい。


 その小屋に入ると、倒れている女性を見つけた。フルカが助け起こしたが、すでに息はなかった。


 その女性を抱いてる時、心のざわつきはひどくなって、フルカはいつの間にか涙していた。


「だから私は、覚えてないけど、きっと私にとってその人は大切な人だったんだなって分かって、ちゃんと供養してもらおうと思って街への道を探してたら君に出会ったというわけだ」


「へえ・・・・・・」


 まあ変な人ではあるけど悪い人ではないみたいだ。


「ほんとに自分の名前以外憶えてなかったんですか?他に何か憶えてたこととか・・・・・・」


「あるぞ!」


「あるんですか!?」


「ああ、全裸なら何でもできるということだけは憶えてた!」


「何でそれは忘れなかったんだよ・・・・・・」


「それとあと一つ・・・・・・」


 フルカはそこで真剣な表情になるとこう言った。


「・・・・・・人々のために役立つようなことがしたいという、熱意。その三つだけが私が憶えてることだった・・・・・・」


 獰猛な笑顔から、一転して大人びたような表情になるフルカ。風が吹いて、フルカの炎みたいな髪がはためいた。


「・・・・・・」


(なんか急にシリアスな雰囲気出してきたな・・・・・・)


「なあ君!何か人の役に立てるような仕事を教えてくれないか!?」


 ぐっと距離を詰めてくるフルカ。


「ひ、人の役に立てる仕事・・・・・・ですか?そうですね・・・・・・それなら冒険者とかどうでしょう」


「冒険者?」


「ええ。こんなふうに盗賊と戦ったりとか魔物と戦ったりとかして人の役に立つ仕事です。フルカさんみたいに強い人なら適任だと思いますよ」


(というか、この感じだと冒険者以外は務まらなさそうだし・・・・・・)


「冒険者・・・・・・冒険者か・・・・・・いいな!私冒険者になるよ!ということで人を供養できる場所とその冒険者ってやつになれるところを教えてくれないか!?」


 すぐに去るつもりだったのに、話の流れで案内することになってしまった。何となく断りづらい雰囲気だ。


「わ、分かりました。案内します・・・・・・」


 こうなってしまったら腹を括るしかない。少年は観念してこう答えた。


「やった!・・・・・そういえば名前聞いてなかったな、なんて言うんだ?」


「えっと、ルリって言います。ルリ・ホワイトです」


「ルリ、ルリか。これからよろしくなルリ!」


 差し出してきたフルカの手を、ルリは握った。


 これが前代未聞の伝説の始まりであることを、まだ誰も知らない・・・・・・。

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