第三十二話

「んで、君名前は?」

糸目の男は蒼月の横で視線を送りながら話す。

蒼月が攻撃してこないかを警戒しているというよりは、蒼月自身を観察しているような視線だ。


「はぁ。蒼月だ」

蒼月もその場に座る。


「あいる!ええ名前やん!どんな字書くん?」


「蒼い月って書いて蒼月だ」


「蒼い月!?アハハハ、厨二っぽいけどカッコええやん」

シンリは笑いながら答える。


「うるせぇ!気に入ってんだよ!」


「ごめんて、冗談やん。んで蒼月は何の能力なん?」


「それ言う必要あるか?」

糸目の男が何を考えているのか蒼月は全く理解できない。

戦闘をどこから見ていたかはわからないので、わざわざ公表する必要もないだろうと能力を隠す。


「いーや、別に言わんでもええで。ただ遠目に戦い方見てた時、色んな超能力使うてたから最弱超能力言われてるの模倣コピーなんやろなって思っただけで」


「はぁ、そう。模倣コピーだよ。分かってるならわざわざ聞かなくてもいいだろ」

蒼月はため息をつきながら答える。


「いやいや、確証が欲しかったんよ。最弱超能力なんて言われてる模倣コピーでここまで勝ち残ったんかー。蒼月は強いんやな。身のこなしがプロゲーマーのそれやったわ。もしかしてソロでボス討伐したんも蒼月やったりしてな」

蒼月はシンリの言葉に視線を逸らす。


「えっ、図星なん?ほんまに?」

シンリは軽くカマをかけたつもりで、九割位は冗談のつもりでいった言葉だっただが、蒼月の反応を見て、焦る。


「初討伐はソロでやったよ」


「はぁぁぁぁぁぁ?蒼月ってホンマにすごいやつやん。こんなとこで出会えて嬉しーわ!友録しようや、友録!と・も・ろ・く!」

シンリはUIを操作して、フレンド登録を蒼月に送る。


「まぁ、いいけどさ」

蒼月はUIを操作してシンリからのフレンド申請を許可する。


「やったぁ!最前線組の友達やん!嬉しぃ!なら友録もしたし、僕はこれでええわ。また今度ゆっくり話そうや」

シンリはその場を後にしようと立ち上がる。

だが立ち上がったシンリを見て蒼月は咄嗟に構える。


「いやいや、装備ないねんから戦える訳ないやん!冗談キツいって!」

シンリは慌てて両手を上げて抵抗の意思がないことを表す。


蒼月はサイキックリングが自分の足元にあることを確認する。


「それもそうだな」

だが油断は出来ない。

サイキックオーブを持っていて気を抜いた瞬間に攻撃してこないとも限らない。


「まぁ、今は信じてや。蒼月とは2回戦で戦いからなぁ。だから早よ行き。サイキックオーブなんて高級品持っとらんから」

シンリはシッシッと追い払うジェスチャーをする。


「サイキックオーブのことも知ってるのかよ。ならお言葉に甘えて」

蒼月は全力で走り出し、その場を離れる。


「ほなねー」

シンリは笑顔で蒼月の姿が見えなくなるまで手を振る。

蒼月がいなくなったのを確認してから蒼月の方に投げていたサイキックリングを拾い、装備する。


「あんなん最強プレイヤーやろ。あの速さやとAGIとPSY上げやろうなぁ。戦っても勝てる気しやんし。どちらかといえば僕が見逃してもらった側やで」

シンリは蒼月が走っていた逆の方向に移動を始める。


念動力サイコキネシスもパクられたやろうなぁ。最悪やわ。誰かに頼まれても戦いたないわ。倒せるかと思って不意打ちなんかせんかったらよかった」

シンリは大きなため息をつく。


そんなシンリの心理など露知らず、少し離れた場所で蒼月は後ろの様子を確認する。


「着いてきてないし、不意打ちもしてくる気配はない。あいつなんだったんだ?」

立ち止まりもう少し様子を確認するが、本当に追ってこない。


「んー、まぁ追ってこないならいいか。フレンド登録もしたしまた話す機会とかあるだろう」

その場から離れ、少し走ったところでダダダダダッと軽快な銃声が耳に入る。


「銃声か、誰か居るな」

屈んで気配を消しながら、周辺を探索する。


「あれか」

視線の先には十人位のプレイヤーが集まって、一人のプレイヤーを銃撃していた。


「ん?あれってどういう状態だ?」

その全員が一人のプレイヤーを狙っているその光景に違和感を抱く。

一人だけ狙われていたプレイヤーはなす術なくポリゴン化し消滅する。


「まぁ、当たり前だよな。あんな袋叩きにされたら何かしらの防衛系の超能力が無きゃ無理だろ」

再び様子を伺うが、プレイヤーを倒した後は誰一人として戦う気配は無い。


「チーミングってことか、まぁ上位30人まで生き残ればいいんだから確実ではあるか。ただ、なんていえば良いのかな」

蒼月は立ち上がり、破裂炎球ブラストボールを上限まで発現させて集団を放つ。


「面白くねえぇぇぇぇぇ!」

高いAGIを駆使して集団の中に突っ込んでいき近くに有った巨大な岩を念動力サイコキネシスで持ち上げる。

そして一番近くに居たプレイヤーに叩きつける。


「まず一人!」

一番近くに居たプレイヤーは何も出来ず、ポリゴン化する。

その様をただ呆然と見ていただけの隣のプレイヤーには、ありったけの破裂炎球ブラストボールを放って消滅させる。


「なんだぁ?バカが一人で突っ込んできたのか?バカに身の程を思い知らせてやろう。ウヒョヒョヒョヒョ」

最後列で指揮を取っていた偉そうな男が声を上げたことで、周りのプレイヤーもハッと事の重大さに気付き銃を構えて蒼月に向かって発砲する。


「所詮は烏合の衆。連携もへったくれもない。」

蒼月は冷静に砂操作サンドキネシスを使用して、自分の姿を隠すために砂のカーテンを作り出す。

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