第10話 烈牙に呼ばれた理由
あの赤い美しく輝く瞳に見つめられて愛を囁かれたことは私の前世でもっとも幸せな時間だった。
しかし私は今は使用人の一人、不躾に主を見る訳にはいかず頭を下げる。
他の五人は公子である私の前世の息子たち。
吹雪に響に颯はもう紹介したからいいわね。
他の二人は金髪に茶の瞳の方は
息子たちが様々な髪の色や瞳の色をしているのは生まれ持った魔力の性質の違いらしい。
それを知らない前世の私は自分の息子たちが自分の特徴も烈牙様の特徴も受け継がなかったことに動揺したこともある。
烈牙様に自分の不貞を疑われる気がして。
そんな私に烈牙様が丁寧に説明してくれたのだ。魔族は必ずしも両親の髪色や瞳の色を受け継ぐ訳ではない理由を。
私がまだアリシアだった頃、雷禅も火堂も大人になっていた。
あの頃から烈牙様の仕事を手伝って魔王軍の仕事をしていたのだが今生で聞いた噂ではこの二人は今は魔王軍の将軍職に就いているらしい。
だから烈牙様と一緒に仕事をすることが多いはずだ。ここにいるのも仕事の話をしていた可能性は高い。
しかしそうなると他の三人、吹雪、響、颯がなぜここにいるかが分からない。
もしかしたら何か魔王軍以外の仕事の打ち合わせをしていたのかしら。
私が知ってるのは吹雪は商人、響は楽師、颯は騎士というくらい。
直接的に烈牙様の仕事と関係なくても烈牙様が自分の息子という理由で何か用事を言いつけることはあるかもしれない。
だけどそうなると私がこの場に呼ばれた理由は何なのかしら。
私がそう思っていると烈牙様が口を開いた。
「お前が真雪か? 頭を上げよ」
烈牙様の美声が響き私は緊張しながらゆっくりと頭を上げて返事をする。
「はい。私が真雪でございます」
心なしか声が震えてしまった。
烈牙様に会えた嬉しさと私がなぜここに呼ばれたのかという不安からだったのだが烈牙様は気にした様子はない。
突然、メイドでしかない者が主人の部屋に呼ばれて緊張していると思ったようだ。
「緊張しなくてもよい。お前に確認したいことがあっただけだ」
烈牙様はそう言うと一口紅茶を飲んだ。
その所作さえ美しい。
私は烈牙様のひとつひとつの動きから目を逸らすことができずにいた。
それでも主人に問いかけられたらメイドとしてきちんと返事をしなければならない。
私は高鳴る胸の動悸を隠すように落ち着いた声を出すように心掛ける。
「はい。何でしょうか?」
「お前は公子の誘いを断り自分を口説くなら私を通せと言ったそうだな」
烈牙様は面白そうな目で私を見た。
なんてこと。吹雪たちは本気で烈牙様に私の言葉を伝えたのだわ。
これでは私は無礼者と烈牙様に思われてしまうじゃないの。
烈牙様に嫌われたくない私はいささか吹雪たちに怒りを感じる。
だけど私はすぐに怒りの感情を抑えた。
吹雪たちは私の前世のことは知らないのだから仕方ない。
まずは烈牙様に状況をきちんと説明しないと。
「私は魔公爵様に雇われた身ですので魔公爵様のための仕事を中断してまで公子様のお相手はできないと言ったまでです」
私は毅然とした態度で答える。
その姿に烈牙様は僅かに赤い瞳を細めた。
睨んでいる訳ではなく何かを考えているような様子だ。
「なるほど。その身は私に雇われたモノだから私の許可なく仕事を中断できないという訳か」
「はい。さようでございます」
烈牙様は興味深げに私を見つめる。
自分は間違ったことは言っていないと私は胸を張って堂々と烈牙様の顔を見た。
私の視線と烈牙様の視線が交わる。
それだけで私の身体は熱を持つがこの場には公子たちがいるので私が烈牙様に愛されたいと願っていることを知られる訳にはいかない。
グッと力を入れて自分が烈牙様に見つめられて喜んでいる表情にならないように気を付ける。
「ね、だから言ったでしょ、父上。真雪は父上のモノだから俺たちが口説くのには父上の許可が必要だって言われたって」
烈牙様は吹雪の方を見て溜息をひとつ吐いた。
「確かに真実のようだな」
「真雪の言うことは一理あるからこうして父上に許可をもらおうと思ったのだ」
今度は颯が発言する。
余計なことをしてくれたものだという思いもあるがそのおかげで烈牙様に会えたのだから私の気持ちはちょっと複雑だった。
「ハハ、こんな召使いがいるなんて思いませんでしたよ」
するとやり取りを見ていた雷禅が笑いながら悠然と足を組み私を見た。
雷禅の顔には私に興味を引かれたという表情が浮かんでいる。
何か、また嫌な予感がするわ。
「確かに吹雪の言ったとおり美人だし白銀の髪も神秘的だ」
雷禅が私を褒める言葉を使うと烈牙様は再び何やら考えている様子。
もしかして雷禅まで私を女性として気に入ったなんて言わないでしょうね?
貴方たちは私の息子なのよ。
私がアリシアの生まれ変わりと言えばこんな茶番はないのだが私はアリシアの生まれ変わりだから烈牙様に愛して欲しいとは思わない。
あくまでも真雪として愛して欲しいのだ。なので正体は隠さねばならない。
「真雪。髪を垂らしてみろ」
烈牙様に言われ私はメイドのキャップを外して髪を纏めている紐を外す。
すると私の白銀の長い髪が宙に舞う。
魔族の中でも白銀の髪を持つ者は珍しい。
一瞬烈牙様が私を見て驚いた表情をした。
他の公子たちも私の姿に釘付けになる。
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