第6話 半人半魔の公子たち

「そんな大事な物とは知らず失礼いたしました」


「いや、分かってくれればいいんだ。このオルゴールは古くて今は音を聴けないからこうやって飾ってあるんだ」


「音が聴けないのは残念ですね」


 音が鳴らないオルゴールを捨てもせず取っておいてくれるなんて響は優しい子だわ。

 響の成長を心配したけど杞憂だったみたいね。

 きっと烈牙様が響を大事に育ててくれたのだわ。


 私は改めて烈牙様に感謝をする。


「真雪は……私たちの母上のことは知っているか?」


 響の言葉に内心ギクリとするが平静を装って私は答えた。


「魔公爵様の奥様で人間でいらしたとか。お名前はアリシア様と伺っております」


 これぐらいは秘密でも何でもないから大丈夫よね。

 今の私にはアリシアの外見と似た所は無いから響も自分の母親とは気付かないでしょう。


 すると響は近くのソファに座って話を続ける。


「そうだ。母上は人間でありながら魔公爵の父上の正妻になった者だ。真雪はその子供の私たち公子のことをどう思う?」


「どう思うとは?」


「真雪は純粋な魔族だろう? 人間の血を半分継ぐ私たちに仕えるのは苦痛ではないか?」


 ああ、そういう意味ね。


 確かに私の今の体は妖魔族だ。純粋な魔族と言えるだろう。

 だが公子たちは人間であったアリシアの血を半分引いている。


 魔族は人間を自分たちより下の存在だと思っている者が多い。

 響たちは父親が魔公爵だったからアリシアの血を引いていても魔力はそれなりに強い。


 けれど響の言うように響たちを半人半魔と馬鹿にする者もいるのだろう。

 普通の魔族は人間を嫌う。


 私のことを純粋な魔族だと思っている響が人間の血を半分引く自分たちに仕えるのは苦痛に思っていると思われても仕方ない。


 でも私は魔族に生まれ変わっても前世での自分の息子たちを嫌うことはないわよ、響。


 烈牙様はアリシアの時の私に大切なことを教えてくれた。

 それは人間も魔族も生まれでその人物の価値を決めるべきではないというもの。


 私が魔公爵夫人として自分は相応しくないのではと思い悩んでいた時に烈牙様は私に何度も同じ言葉を言った。「その人物の価値は血筋や種族ではなく行動や言動や己の力で評価されるものだ」と。


 だから私は人間ではあったけれど魔公爵夫人として胸を張り烈牙様の隣りに立ち続けたつもりだ。


「私はその人物の評価は血筋ではないと思います。その人が尊敬に値する人物かどうかはその方の行動や言動で決めるべきかと」


「真雪は変わってるな」


 響は面白そうな笑みを浮かべている。


 確かに魔族のしかも貴族の考えからしてみれば人間の血を引いているだけで蔑みの対象となるだろう。

 しかし私は前世の人間の時の記憶があるので人間が嫌いではない。


 堂々と魔族らしからぬ言葉を言う私に響は興味を抱いたようだ。

 その美しい瞳を細めながら私を見る。


「吹雪兄さんは真雪のこと気に入ってたけど私も真雪に興味をそそられる。今度吹雪兄さんと一緒に社交界のパーティーに連れて行ってあげるね」


 まあ、響まで何を言いだすのよ。

 それはお断りするわ。


「いえ、昨日も申し上げた通り私は公子様のお相手ができる身分ではなくて」


「大丈夫さ。仮面舞踏会という手もあるし。それとも公子の私では真雪の相手は力不足かな?」


「そんなことはございません。恐れ多いことでございます」


 魔公爵の息子の公子と今の私のメイドの立場を考えれば私が公子の命令をきかないわけにはいかない。


 息子たちのことは今でも愛しているけどそれはあくまで親子の情でしかないということを響に話すわけにはいかないものね。

 困ったわ。


 内心、溜息を吐きながらなんとか響が私に「女性」として興味を持たないように仕向ける方法を考える。


「それに私はドレスも持っていませんし」


「それなら俺が用意してあげるよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る