第3話 初回の人生ガチャ!

 この世界の「東京新声ラジオ局」は、数年前にTBCテレビ局に買収された。合併したものの、事務所の所在地はまだ別々だった。ラジオ局のビルの前で、幸太郎はスーツの襟を正し、気を引き締めた。

 まだ少し時間があったので、再度あの「ゲームリング」を確認しようと思った。 幸太郎は左手にある奇妙な指輪を見つめると、やはりその仮想画面は自分にしか見えないらしく、周りの通行人たちは誰一人気づいていない様子だった。 その仮想画面にはいくつかの項目が表示されていた。

【名声ポイント】:199,983。

【荷物】:無し。

【ショップ】:準備中。

【ガチャ】:利用可能。

(説明:名声ポイントはプレイヤーの知名度、露出度、実績、尊敬、信頼、地位などに関連しています。ショップ内の商品および抽選は名声ポイントを使って購入可能です。名声は、プレイヤーが誕生してから今日までの全ての名声を蓄積したものです。)

「23年間で19万ポイントか…。悪くない数字だな。」

 そう思ったのもつかの間、幸太郎はすぐにそう感じなくなった。彼は仮想画面の中のオプションをクリックして、名声ポイントで何が買えるのかを確認しようとしたのだが、しばらく操作したあとで言葉を失った。

「おいおいおい!ショップはまだ開いていないじゃないか!」

「ガチャだけはできるようだな…」

【ガチャ】:名声100,000ポイントを消費して購入後、ゲームはランダムに宝箱を用意します。

「俺の半生分の名声ポイントでやっと1回だけ抽選できるのか…」

 2回引けるほどのポイントも少し足りない。仕方なく幸太郎は試しにガチャをクリックしてみることにした。

 画面をタップし、抽選を開始すると、名声ポイントは瞬時に100,000ポイントが減り、残りは99,983ポイントとなった。画面には回転式の仮想ルーレットが現れ、針とボタンが表示されていた。ルーレットには「消耗品」、「属性アイテム」、「スキルアイテム」、「特殊アイテム」と書かれており、それぞれの項目が異なる色とエリアに割り当てられていた。

「ふむ…。消耗品が半分を占めていて、次に大きいのが属性アイテムとスキルアイテム…。特殊アイテムはほんの小さな範囲だな。どれを引くんだろう?」

【消耗品】:一回使い切りのアイテム。

【属性アイテム】:永続的なステータスアイテム。

【スキルアイテム】:スキル経験アイテム。

【特殊アイテム】:特定の商品の購入権限を追加。

「針がどこに止まるかで宝の種類が決まるのか…」

 金色の小さな宝箱が画面上に現れ、仮想のアイテムボックスに自動で収納された。物品欄には「金色小宝箱」のアイコンが追加された。

「どうやって使うんだ?」

 幸太郎は画面内の物品欄に手を伸ばしてみると、手が本当にその中に入り、空間の中に浮かんでいる軽い宝箱を掴むことができた。それを両手で掴んで開けると、金色の光が周囲に広がり、ついにアイテムが出現した!

それは小さなクリスタルだった。

【セーブ&ロード】

 用法説明:一回使い切りアイテム。記録する。この保存データは30分間保持されます。

「セーブアイテムか…」

 ゲームをやっている人なら誰でも知っている、いわゆる「進行状況を記録」する機能だ。これを使うことで、操作ミスがあった場合に戻れるチートのようなものだ。

「30分だけか…。つまり30分以内に使わなければ、このセーブデータは無効になるってことか?」

 幸太郎は宝箱から取り出したクリスタルを手に取り、しばらくいじっていたが、うっかりクリスタルを握りつぶしてしまった。

セーブ中…… セーブ完了!

 その瞬間、時間が一瞬止まったかのように感じた。すべてが静止し、再び動き出したときには、指輪の画面に新たな「ロード」のオプションが追加されていた。

その時、近くから話し声が聞こえてきた。

「10時に面接だ、急ごう!」

「田中、そんなに急がなくても大丈夫だよ。君なら確実に受かるだろう。」

「それがね…。今回のパーソナリティの枠は2人しかないんだ。聞いた話だと、筆記試験に合格したのが20人以上いて、競争が激しいみたいだよ。」

「そうか、確かにパーソナリティは人気職だからな。私と井下はそれほどプレッシャーはないけど、私は編集を希望して、井下は運営を希望しているから、競争はそれほど激しくないし、募集人数も多い。」

 彼らは会話を続けながら、建物に入っていった。

 幸太郎は時間を確認し、ゲームリングを研究するのを一旦やめて、急いでビルの中に入った。この面接は彼にとって非常に重要だった。彼は真剣に自分のキャリアについて考えてきた。

 自分の外見と素質を考えれば、テレビ司会や歌手、俳優になるのは難しいだろう。たとえ悪役やコメディアンの役でさえ、彼には目立つ特徴が足りず、人気を得るのは厳しいと自覚していた。だからこそ、ラジオのパーソナリティからスタートするのが最も適切だと考えていた。ここなら見た目の要求は少し低く、リスナーは彼の声を聞くだけで済む。彼にとって、この仕事は将来の飛躍への足がかりとなる非常に重要なステップであり、失敗は許されない!

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