第2話 世界が変わっても、家賃が追ってくる

 幸太郎はネットで細かく検索し確認したら、一部のものは変わらなかった。

重要な歴史人物や世界の構造、社会環境はだいたいそのままである。机の上の〇清カップヌードルは○清のままで、GUC〇Iは依然として世界的なブランドだった。多くのものが変更されずに残っていた。これが「ランダム」の意味なのだろう。


 その時、「ドンドン」と外から誰かがドアを叩く音が聞こえた。叩き方は結構強かった。 幸太郎は誰だか分かっていたが、知らないふりをした。

 しばらくすると、またドアが叩かれ、鍵の音が聞こえ、ドアが開いた。

 幸太郎はやってきた人物をじっくりと見た。世界が変わったとしても、大家さんだけはいつもの大家さんだった。

 一人の30代ほどの女性が部屋に入り、しかもとても美しい女性だ。彼女の美しさは「綺麗」という言葉だけでは言い表せないほどだった。風呂上がりらしく、今は頭に白いタオルを巻いていたが、その美貌は隠しきれず、特にその白い中薄くピンクが生えだす肌はとても印象的だった。

 しかし、そんな美しい女性にも毒舌な一面がある。繋がりを持つ人なら誰もが知っていることだった。だから、いい年にしてまだ結婚していないのだろう。彼女の口は誰にも耐えられないほど辛辣だったからだ。

 幸太郎が家にいるのを見て、その美しい大家さん、原田明美は笑いながらこう言った。

「あんた、私とかくれんぼしてんの?こんなに長く叩いてるのに、全然返事しないじゃない!」

「原田さん、どうして来たんですか。」

「何しに来たって?知ってんだろう?家賃を取りに来たのよ!」

 大家の原田は堂々と畳の上に座り、手に持っていた電卓をテーブルに叩きつけた。

彼女の指がカタカタと電卓を弾き、非常に手慣れた様子だった。

「今月の家賃、まだ払ってないでしょ?それに水道・電気・ガス、全部で65300円だよ。何回もいったけど、今日は一銭もまけないからね!」

「ね…聞いてる、木谷くん?」

「あんたも東京出身だときいて、礼金と敷金は取らなかったのに、今どき誰が礼金も敷金もなしで部屋貸すと思ってるの?それにどれだけの優遇だと思ってるの?」

 大家さんの文句連発に幸太郎は苦笑していた。

「もう少しだけ待ってください。今お金がなくて、仕事が決まったらすぐに払います!」

「お金がないなら、出てなさい!」原田は優雅に指を振り、言い放った。

 彼女は幸太郎を一瞥し、鼻で笑いながら続けた。

「そうだったね、あんたがこの前放送のパーソナリティって?冗談を言うね」

 幸太郎は少し焦りつつ…

「とにかく、もう少し待ってください。私が…」

「だからダメ!」

 ……

 結局、幸太郎は何とかして彼女を説得し、その場は収めた。


 だが、10分ほど経つと、原田は再び部屋に戻ってきた。今回はドアをノックすることもなく、鍵を使って勝手に開けて入ってきたのだ。

 「原田さん、まだ…」

 しかし意外にも、原田は「私、一人じゃ食べきれないから」と冷たそうに言いながら手に持っている肉まんをテーブルに放り投げた。

 幸太郎は一瞬驚き、すぐに感謝の気持ちで「ありがとうございます」と返した。

 そして聞いていないかのように冷たく美しい顔をした彼女は、ドンッと扉を閉めて出て行った。

 「氷山美人か…」

 テーブルの上を見ると、そこに置かれた肉まんは、まだほかほかと温かく、決して彼女が食べ残したものではない。

 幸太郎は、胸に少し温もりを感じていた。

 食べながらエレベーターに乗って下に降り、幸太郎は外に出かけた。

「面接!頑張るぞ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る