第5話 時代を超えるVRMMO

 秋人は雪乃との約束通り、その日の夜、一緒に異世界――つまり『勇者』というゲームにログインした。

「どう?感想は?」

 秋人が雪乃に最初の感想を聞こうとしたその瞬間…

 雪乃が作ったキャラクターは、すでに初期村の花畑に駆け寄り、驚きの声を上げていた。


「このゲーム、何これ!?グラフィックがヤバすぎる!この細かさ、どんなテクスチャでできてるの?まるで現実世界じゃん!」

 それもそのはず…これは本物の異世界だから。


『勇者』を初めてプレイするプレイヤーたちがまず驚くのは、この圧倒的なグラフィックだろう。

 これまでのVRMMOの常識を超えたリアルさ。

 市販のVRMMOも現実に近いと言われているけれど、よく見るとどこか「作られた映像感」が拭えない。

 道端の花や草むらなんかをじっくり見れば、テクスチャの荒さやジャギーが目につくことも多い。


 でも、『勇者』は違う。リアルな異世界をそのままVRMMOにしたから、プレイヤーに本当に異世界にいるような感覚を与えてくれる。


「Aki!見て!このゲーム、花の蕾までめっちゃリアルだし、しかも花粉まで手に付くんだよ!こんな細かいの、現実の世界でしか見たことないよ!」

 VRMMO歴約10年の雪乃も、まるで初めてVRMMOをプレイしている少女のように、花畑を駆け回っている。

 花の中で小さな虫を見つけただけでも、彼女はしばらく楽しそうにしていた。


 そんな雪乃を見ながら、秋人はなぜ彼女がVRMMOで農業や牧場経営のゲームを好まなかったのかを思い出した。


『VRMMOの植物ってさ、まるで現実のプラスチック製の観葉植物みたいで、全然生きてる感じがしないんだよね。』


 確かに、ほとんどのVRMMOでは植物を育てる過程が現実ほどリアルではなく、満足できるものではない。

 でも、このリアルな異世界では、雪乃も満開の花畑にすっかり魅了されていた。


「Aki!これ、私が作った花冠。頭装備になったみたいだから、試しに付けてみて!」

 どうやら雪乃は自然が好きらしい。

 ただし、彼女が好きなのは現実の本物の自然――花の香りや土の匂い、花畑にいる虫たちであって、VRMMOのプラスチック製の植物ではないようだ。


「ありがとう。」

 秋人は雪乃が作った花冠を付け、その属性を確認してみた。

『装備名:少女の手作り花冠』

 属性:なし

 説明:少女が心を込めて作った花冠。特に効果はないが、もらった人を幸せな気分にする。


 この世界の装備は、すべて秋人が手作りしたわけではない。

 彼は造物主として、極めて複雑な装備生成ルールを作り上げ、プレイヤーが装備を作ったり、モンスターを倒したりすることで、自然な形で新しい装備を手に入れられるようになっている。

 もちろん、伝説級や神話級の特別な装備や武器は、秋人が自ら効果や説明文を編集している。


「この『勇者』ってさ、まさに新世代のVRMMOじゃない?グラフィックもディテールも『神域』よりはるかに上なんだけど!」

「このゲーム、どこのVRMMO会社が作ったの?」

 遊び終わった後、雪乃は『勇者』というVRMMOが『神域』よりも高いクオリティで作られていることに気づいた。


『神域』は何年も前のゲームだが、長年のアップデートを重ねて、今でも最先端の技術を誇るVRMMOだ。

 それなのに、『神域』を超えるクオリティの『勇者』を作るなんて、一体どれほどの大企業が手がけたのか――雪乃はそんな風に考えていた。

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